次世代の半導体技術開発への挑戦

社会基盤を支える半導体。その高性能化・小型化・低消費電力化を実現する三次元集積技術の確立を目指す。

私たちの暮らしを支えるエレクトロニクス製品に欠かせないCPUやメモリなど各種の半導体は、微細化で性能を向上させてきました。しかし、従来技術の延長線上では、微細化による高性能化の限界が迫っていると言われています。
一方で、社会はIoTやAIへの依存度が高まり、さらにはメタバースへの期待も膨らみ、サーバや端末側の高性能化への需要は高まるばかりです。そこで、ポスト微細化として三次元実装技術により性能向上の道が探られています。
図研は、独自の三次元大規模集積技術により半導体デバイスの超小型・高性能化・低消費電力化を目指す「WOWアライアンス」に参画し、次世代半導体の共同開発を進めています。

| 半導体のさらなる高性能化、低消費電力化を実現するために

世界的な科学ジャーナル誌によると、全世界のIoTサーバおよび電子機器の消費電力は、2030年に9,000TWhまで達すると予測しています。これをソーラーパネルに換算すると、必要な設置面積は約318万k㎡。インド全土に匹敵する場所で発電しないと、電子機器は停止してしまう規模であり、エネルギー問題においても技術革新が求められています。

消費電力を抑えるためには、チップとチップ、デバイスとデバイス、システムとシステムの物理的な距離を近づけることが必要です。そこで半導体は、チップやウエハーを薄化して垂直に積層する三次元集積化で物理的な距離を縮め、配線長を短くする取り組みが進められています。ところが、チップは薄くするとストレスで曲がってしまい、上下のチップ接続にバンプ(突起)を使うTSV(Through Silicon Via)配線では、バンプとバンプの不良接触で不具合が発生するため、これ以上の微細化は難しいと言われています。

さらに三次元集積デバイスは、上下の接続層で熱抵抗が大きくなり、発熱問題も指摘されています。こうした課題を乗り越えるために取り組んでいるが、WOWアライアンスです。

| 未来の可能性を集積した「BBCube」

WOWアライアンスは、東京工業大学 科学技術創成研究院の大場隆之 特任教授を中心に、設計・プロセス・装置など半導体関連企業と研究機関が協力し、社会のさらなる成長に貢献する研究開発に取り組んでいる産学研究プラットフォームです。

WOWアライアンスの活動によって誕生した技術の中で、特に注目されるのが、300mmウエハーをマイクロレベルまで薄くする「ウエハー薄化技術」と、TSV配線にバンプを使用しない「バンプレス配線技術」です。この2つの技術を活用し、ウエハーとウエハーを積層する「WOW(Wafer-on-Wafer)」とチップとウエハーを積層する「COW(Chip-on-Wafer)」により、画期的な三次元大規模集積技術「BBCube(Bumpless Build Cube)」を確立。この新技術を進化させることで、半導体を1000分の1に超小型化し、消費電力は1000分の1以下にすることを目標に、次世代半導体の研究開発を進めています。(図1、図2)

 

図1:BBCubeは、システムを構成するデバイス(メモリ、CPU、コンデンサなど)に対し、並列高密度配線を最短距離で行うことができるため、消費電力が大幅に低下し、メモリでは、テラバイトメモリ空間が実現できます。

 

 

図2: BBCubeを利用した2.5次元、3次元集積では、伝送帯域を毎秒テラバイト級にしてもビット当たりの伝送エネルギーが従来に比べ1桁小さいのでシステムの消費電力が10W以下になります。

 

| ウエハー薄化の限界を越える

現在のウエハー生産技術では、20 ~ 30μmが薄化の限界と言われています。これに対してWOWアライアンスでは、ウエハー薄化技術でシリコンウエハーの厚さをデバイス層より薄い4μmまで超薄化することに成功し、現在2 ~3μmを目標に掲げて研究を推進しています。( μm:マイクロメートルまたはミクロン、10-6mのこと)

WOWでは、この技術で薄化したウエハーを積層し、バンプレスで高密度上下配線することで、積層数に比例した集積度が得られます。さらにバンプレス配線でTSVは縮小できることから、バンプを利用した従来に比べ静電容量は20分の1、消費電力も配線長に比例して低減できます。高密度TSVでは、熱伝導特性は約100分の1に改良され、接続部の発熱低減が可能になります。

COWは、ウエハー上にチップを積層する技術です。ウエハーの薄化とバンプレス配線に加え、パッシブデバイスをチップ下に埋め込む三次元パッケージ構造技術も確立しています。これにより、サイズは2分の1、配線長は約100分の1を達成。小型化、低消費電力化とともに、ローノイズ性も実現しています。この特長からCOWは、チップレット集積としても利用できます。

| WOWアライアンスの成果をいち早く世の中へ

今後、BBCubeをより進化させることで、半導体のさらなる超小型化・高性能化・低消費電力化を達成することが可能になります。これにより、超高速演算機能やIoT、VR/ARといった先進機能を担う半導体が、様々な製品に搭載しやすくなります。さらに、電気の使用効率を高めることで社会の省エネ化が進み、地球環境への負荷も低減できます。

このように半導体は、持続可能な社会の実現に向かって、進化するための重要な役割を担っていることから、三次元集積に対する期待は、より一層高まっています。WOWアライアンスは、この期待に応えるため、BBCubeの進化を加速させて、現在半導体業界が目標に掲げる5nm・3nm世代に協調できるシステムの確立を目指しています。その後も、画期的なイノベーションを継続させ、いずれは昆虫の頭脳レベルという微小な消費電力を実現するなど、社会に貢献する技術の進化に取り組んでいます。(nm:ナノメートル、10-9mのこと)

図研は、こうしたWOWアライアンスの研究目的に賛同し、プロジェクトに参画しています。三次元集積回路の実装設計においてCR-8000 Design Forceを活用し、産学連携で限界を越える次世代半導体を実現すべく取り組んでいます。

 

 

(左から)WOWアライアンスメンバー 図研 古賀、東京工業大学 科学技術創生研究院 特任教授 大場 隆之、図研 松澤