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「3Dデジタルツインが起こす
破壊的イノベーション」
ラティス・テクノロジー×図研DX対談

XVLが破壊的
イノベーションを起こす

上野我々もつい設計領域にフォーカスしがちですが、CADやCAEを使う純粋な設計プロセスが占める割合は、エンジニアリング全体からすると数十%程度のようです。設計は製品のQCDを決定する最重要プロセスなので、投資が先行したのですが、モノづくりが複雑化するなかでは、設計以降のプロセスにも着目してIT投資を提案すべきだと思っています。
ちなみにXVLを活用したDX事例で、今まで最も顕著に自動化が進んだダウンストリームでの業務というのはありますか?

鳥谷あります。もう十数年前から取り組んでいるのですが、メーカーのマニュアル製作のDXです。
これまで、輸送機や電気製品、産業機械などの操作やサービスマニュアルは、マニュアル製作会社が受託し、そこから発注を受けたイラストレータが機器のイラストを作成し、製本やデータにするという流れでつくられてきました。このような複数の会社が介在し、手書きイラストが残っているような運用を、XVLで大幅に合理化することを提案したのです。
当初、マニュアル製作会社側には3Dなんか利用して合理化したら、受注金額が下がってビジネスボリュームが減ると、大反対されました。
フリーのイラストレータからも、自分たちの仕事がなくなると反対されました。

図8サービスDX:最初の一手はデジタル化、ただし、会社を越える難しさ

そこで、私はイラストレータでもある協会の責任者に直接会いに行き、XVL活用メリットや操作方法を説明しました。お互いにいろいろと新たに知ることも多かったのですが、最終的にその責任者の方に、XVLを大変気に入っていただけました。その方に使ってもらえるようになっただけでなく、ご自身のホームページや他のイラストレータにXVLの活用方法を宣伝していただけるようになりました。

併せて、発注元の機器メーカー側にもこれらデジタル化によるメリットを説明し、設計で使っている3DCADから変換して、XVLを活用する導入提案にも成功しました。これで、発注元から製作会社、その先のイラストレータまでXVLでデータが流れるようになったわけです。結果、マニュアル制作のコストは従来の約5分の1になりました。

これが一般化されると、将来的にイラストレータの仕事は無くなっていくでしょう。しかし、マニュアル製作でXVL活用が浸透していくと、今度はXVLを使ったマニュアル作成という仕事が生まれます。そしてその先には、VRやARを利用した3Dマニュアル制作の仕事が生まれるわけです。実際に、製作会社側の求人には、XVLの操作経験があることがイラストレータ採用条件の項目に掲げられている会社が出てきています。

図915年に及ぶ産業化への挑戦

上野まさに、破壊的イノベーションですね。
おそらく設計情報を他の業務のインプットに使うというアイデアは、3D黎明期からあったのだと思いますが、その実現には、3DCADの普及とコンピュータの能力アップ、XVLのような軽量化技術とアプリケーションの充実を待つ必要があったのだと思います。しかし、「設計」と「マニュアル」という、企業を横断する、プロセスとしては両端の、一番遠い関係にあるものをつなぎ、仕事をひとつ不要にしたのはまさにDXの成果ですね。

鳥谷マニュアルの例はほんの一部ですが、こうしたDXの適用を積み上げていくことが社会全体の生産性をあげていくことにつながり、人にも環境にも優しい、持続可能なモノづくりになると考えています。

上野かつてどの会社にも、そろばんあるいは電卓の段持ちの方がいらっしゃって、全ての計算を一手に引き受けられていましたが、やがて会計計算は汎用機で処理されるようになり、またPCで表計算ソフトが普及した結果、計算するだけの仕事は完全に無くなりました。その一方で新たにコンピュータを扱う職種が生まれ、また人にしかできない創造的な仕事も増えました。今後はAIの実装が一般化されて、もっと沢山の破壊的イノベーションが起きるでしょうから、なくなる仕事と新たに生まれる仕事ができそうですね。

鳥谷当社のDXは、設計以降のダウンストリームに貢献できることが強みですが、一部門の業務のデジタル化だけでなく、組織・会社を超えた業務プロセス変革としてのDXを希求しています。
DXは、不連続でドラスティックな環境変化に備えるものなので、当然なくなる仕事もあります。この点、会社の形やアーキテクチャを再設計する覚悟がないと成り立たないことを、経営者のみなさんにもご理解してもらう必要があります。

DX成功の鍵は「組織能力」だと言われていますので、並行してCX(Corporate Transformation)*5を考えていただきたいと思っています。

上野なるほど。経営側に変革の覚悟がどこまであるかは、確かに重要ですね。ぜひ、これからも一緒に製品・ソリューションづくりを進めて、製造業DXを少しでもレベルアップさせたいです。
今日はどうもありがとうございました。


*5 CX(Corporate Transformation):ビジネス環境の変化に対応できるように、組織や事業など経営活動のあらゆる面を見直し、より効率的なプロセスを模索しつづけること
  • ラティス・テクノロジー株式会社
    代表取締役
    鳥谷 浩志氏
  • 株式会社図研
    専務執行役員 事業本部長
    上野 泰生

ZUKEN digitalのDX連載記事では、CADやPLMがもたらした価値とはなんだったのか、DXとはどう関係するのか。設計開発現場が担うDXの真の役割とは何かなど、図研のDXに対する考え方や取組みなど紹介しています。図研とお客さまとのコミュニケーションプラットフォーム ZUKEN digitalにぜひご登録ください。