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第3話
「2020年版ものづくり白書」編集キーパーソンと語る
動き出すDX
No Digital, No Transformationの新常態

「ポスト・コロナ」「ウィズ・コロナ」の時代をどう生きるべきなのか。
モノづくり企業がこれから進むべき道について、「2020年版 ものづくり白書」の編纂を担当した経済産業省の住田氏、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)社⾧の羽田氏、ラティス・テクノロジー社⾧の鳥谷氏、図研 取締役事業本部⾧ 上野の4人が鼎談した内容を3回にわたり、ご紹介します。

全編は、図研社外報 from Z 26号にも掲載されています。

サプライチェーンのデジタル化もまだまだ道半ば

※話者の略歴は、「第2話」をご覧ください。
ビジネスエンジニアリング(株)
代表取締役・取締役社長
羽田 雅一

羽田エンジニアリングチェーンだけではなく、サプライチェーンのデジタル化も極めて重要になってくると思います。サプライチェーンは物流拠点や輸送手段など、物理的なファシリティを多く抱えていますから、コロナ禍による影響はエンジニアリングチェーンより甚大です。現在のこの状況に対応していくためには、根本的な価値の転換が必要だと考えています。これまでの効率性重視のサプライチェーンの考え方から、柔軟性や強靭性を重視する考え方へとシフトし、成果指標も見直していかなくてはなりません。ダイナミック・ケイパビリティ、つまり変化への対応力を高めるためには、物理的な物流拠点を再編するとともに、デジタル技術を積極的に取り入れて現在と将来を正確に見通せる手段を手に入れる必要があります。そのためにB-EN-Gでは現在、ERPやIoT、AI、5Gといった先進技術を取り入れて、デジタル武装した機動力のある製造業を目指す「ものづくりデジタライゼーション」を標榜し、さまざまなソリューションを展開しています。

(株)図研
専務取締役本部長
上野 泰生

上野世の中一般におけるサプライチェーン分野でのデジタル化は、現在どの程度まで進んでいるのでしょうか?

羽田弊社の大手製造業のお客様に関していえば、ようやく半分がサプライチェーンのシステム化を済ませたところです。従って、まだまだサプライチェーンのデジタル化の余地は残っています。さらに、先ほど上野さんと鳥谷さんがお話しされたエンジニアリングチェーンのデジタル化も進め、生産技術のデジタル化を実現して日本の製造業の強みを拡大していくことで、DX実現への道が拓けると考えています。例えば、弊社のERP製品「mcframe」をお客様に提案する際も、従来はお客様のプロセスに合わせて大幅なカスタマイズを施すのが常だったのですが、今では作り込みを最小化してなるべく標準機能を使うよう推奨しています。こうしてシステム構築・運用に掛かるお金や人を節約することで、より多くのリソースをDXや攻めのITに投入できるようになるわけです(図4)。

ビジネスエンジニアリング(株)
代表取締役・取締役社長
羽田 雅一
図4 DXの進化に追随するために
(株)図研
専務取締役本部長
上野 泰生
経済産業省 製造産業局
ものづくり政策審議室 課長補佐
住田 光世

上野ちなみに、さきほどの「設計と製造の情報連携」を実現するために、図研とB-EN-Gで共同出資して設立した合弁会社「ダイバーシンク」から「EM-Bridge」というBOPシステムを提供しています。この製品を導入することで、設計部門は製造部門の情報を、製造部門は設計部門の情報を高い自由度で見ることができるようになりました。

羽田この製品が登場したことによって、「真のプロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)」がようやく実現できたと考えています。設計と製造の情報を一気通貫で見られるようになったことで、製品ごとの原価や収益性もより正確に把握できますから、日本企業が苦手とする終売や撤退の決断も客観的なデータを基に迅速に行えるようになるはずです。

上野設計側から見ても、製造側の情報が見えることで「製造しやすい設計」「部品の代替が効きやすい設計」を自然と心掛けるようになると思います。その結果、例えば今回のコロナ禍のような不測の事態に直面しても、柔軟にサプライヤや製造拠点を変えられるようになるでしょう。

経済産業省 製造産業局
ものづくり政策審議室
課長補佐
住田 光世

住田まさにダイナミック・ケイパビリティを高める取り組みに他なりませんね。ちなみにとある国内メーカでは、コロナ禍で中国の製造拠点が閉鎖された際、東南アジアの他の拠点で代わりに生産しようと思ったところ、BOMの整備に時間がかかって結局実現できなかったそうです。この例のように、これまではIT化やデジタル化の取り組みに蓋をして「見て見ぬふり」をしてきたモノづくり企業が多かったと思いますが、コロナ禍を機にぜひこうした課題にもきちんと目を向けて、DX実現に向けた第一歩を踏み出していただきたいですね。

上野「見て見ぬふり」については我々ITベンダーにも責任があります。抜本的な課題をつき詰めるより、お客様に言われたことや、できそうなことをまずこなすのが我々の仕事と考えてきたきらいが少なからずあります。今回のコロナ禍を奇貨としてお客様ともう一度課題の本質を見直し、それに私たちがどう応えていけるか、今日の対談であらためて知恵を絞っていきたいと思いました。本日はどうも ありがとうございました。

おわり