基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

17. 基板と熱問題 2

株式会社ジィーサス

2012.05.24

では「はんだ付け」は何かというと、前にも書いたように溶接になります。具体的には加熱してはんだだけでなく基板銅箔や部品リード表面を溶かして、化学的に結合させることになります。このため接続強度を検討するためには、溶けて固まった後の組成を知ることが必要になってきます。こういった検討は素材が単純だと簡単ですが、素材が多くなると組み合わせが急に増えて難しくなります。また、焼き入れ・焼き鈍しといった言葉があるように、溶かした後の冷やし方で素材同士の化学結合が変化することにより強度が変化するので、めちゃくちゃ複雑になります。

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あなたが基板に部品をはんだ付けするときに、この複雑なことが起きているので、同じ部品を同じようにはんだ付けしても、はんだ付けした部分はたぶん全く同じ状態にはなっていないです。それでも条件をなるべく合わせることでバラつきを少なくすることはできます。たとえば半田ごての温度や室温、半田ごてを当てる時間、はんだの材質やリードの材質などですね。それにはんだ付け後に加わる応力の強度や回数が一定であれば、品質は一定に近づくはずです。逆にはんだ付けの接続信頼性を一定レベルに保つには、上記のようなことを理解して管理する必要があるのです。

「はんだ付けは製造工程だから工場の責任だ」と思っているあなた、「では何を根拠に基板を含む製品を設計しているのですか?」って、事故を起こすと言われますよ!(経験者だから書けるのですが。)

こういうことが何で難しいのかというと、製造用のドキュメントを設計する知識としては「必要ない」と思っているか、単に難しそうだから避けているからではないでしょうか?もっと言えば「ここまで自部門で検討すると、失敗したときの責任も取らされるからやめておこう」とか、「そんな予算をうちはもらっていない」という意識があるからではないでしょうか?

むかし若いころ、図面を書き出すまでにいろいろ検討して苦労していた時に、ある外注メーカの社長(回路設計出身)から「機構図面って簡単だね。絵を描いて業者に渡せば作ってくれるじゃない!」と言われてカチンと来たのと同時に、確かに何も検討しなくても図面を描けばモノはできる、という事実に悩んだことがありました。今では信頼性とか品質の具体的意味が少しは理解できるようになったためか、私自身はそんなことでは悩まないようになりました。でもいろいろなメーカの話を聞くと、相変わらず経済状況によって「製造ドキュメントの設計に直接関与しない技術」の扱いが変動していることが感じられます。今は製造だけでなく設計技術も国外流出する時代になってしまいましたが、国内メーカは果たして上記の技術も一緒に持って行っているのでしょうか?むしろ経済的余裕のある国外メーカが人材と一緒に引き抜こうとしているのが上記技術であり、「コピーと本物を区別する技術」を保有するメーカが国内外で逆転してしまうのではないか?と心配です。

過去の熱問題を思い出しているうちに、苦い記憶も思い出して思わず愚痴ってしまいました。

話をはんだ付けに戻します。特に鉛フリーはんだになってから、はんだを構成する素材が増えました。しかも従来はスズと鉛の合金だけだったのに、今はいろいろな組成のはんだがあります。ただでさえ素材が増えると強度検討が面倒なのに、もし異なる組成のはんだを混ぜたらどうなるでしょう?今から10年ほど前の鉛フリーはんだ導入期には様々な問題が発生しましたが、今は利用上の注意点も周知されているものと思います。しかし、なぜ鉛フリーはんだと共晶はんだを混ぜてはいけないか?というような課題の本質を知っておくことは、品質・信頼性確保の面でとても重要です。そしてはんだ付け全体を通して、熱設計の重要性も理解しておくべきです。

はんだ付けの話はこれくらいにしておいて、せっかく無線機の話からスタートしたので、むかし無線機で使った熱処理方法を紹介します。正確には「半二重通信」の通信機における熱処理方法です。
半二重とは通信用語で、自分が送信しているときは受信できないという、トランシーバのような通信方式のことです。半二重通信だとずっと送信しっぱなしということが無く、逆に送信しない時間(つまり受信している時間)のほうが一般に長くなるので、ずっと送信し続けるという条件で送信パワーアンプの放熱設計を行うと、過剰な放熱設計になってしまいますね。なので一般的にはパルス発熱条件で放熱設計を行うことになります。

たとえば送信時間と受信時間がほぼ同じなら、送信時に部品温度が上がり、上がりきらないうちに受信モードになるため部品発熱が止まるので冷え始め、冷え切らないうちにまた発熱する、という繰り返しなので、部品温度は徐々に上がることになります。もし送信時間より受信時間のほうが長いと、一定時間後の温度上昇はそれほどでもなく、むしろ送信時の急激な発熱による温度上昇を緩和するだけでよいことになります。このような場合は部品の表面積拡大のためのヒートシンクを付けるというより、熱容量を大きくして温度変化を小さくし、短時間の温度上昇にだけ対処する、という対策も取れることになります。つまり電解コンによるバッファのような対策ですね。具体的には少し厚めのアルミ板などをヒートシンク代わりに取り付けるだけなので、特に小型機器など、ヒートシンクの体積をとれないような機器には有効な手段です。原理を理解すると新たな対策を思考できるようになるので、皆さんもトライしてみてはどうでしょうか?





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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。



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