基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

14. ThermoSherpa(サーモシェルパ)の開発について

株式会社ジィーサス

2011.11.24

次にその消費電力ですが、これは前回書いたように品質とコストのバランス上なるべく正確に見積もる必要があります。しかし実際にいろいろなメーカで聞いてみると、消費電力見積もりはどこも「あまりできていない」との回答が返ってきます。でも本当にそうでしょうか?少なくとも電源容量を決める程度の損失計算は行っているはずだし、各回路ブロックでもDC-DCコンバータの選定等で見積もっているはずです。もしかしたら問題はその見積もり情報の流通にあるのかもしれません。それであれば明示的に消費電力を必要とするツールを導入することで、消費電力見積もりの重要性を再認識してくれるのではないか?と思っています。そのような意味も含めて、サーモシェルパでは消費電力を積み上げ式にしています。積み上げ式とは、先ほど書いた部品の固有情報データベースに消費電力を設定し、基板情報設定で搭載部品を選定すると、基板ごとに消費電力を積算することです。その基板を装置実装部品として登録すれば、装置の消費電力が設定されることになります。ただし積み上げ式だけだと「装置寸法と総消費電力だけで装置内が何℃ぐらいになるか簡単に計算したい」というようなことができないので、積み上げ式だけでなく総消費電力設定も可能なようにしてあります。

それから熱設計スキルのフォローですが、これはThermocalcの使われ方を見ることでその重要さがわかってきました。というのは、Thermocalcは計算機能が豊富なのですが、実際にどのように活用しているかを聞いてみると、多い回答がファン要否の判断に使っているというものでした。ファン要否判断という機能はサーモシェルパにもありますが、Thermocalcではいちばん最初のシートにある機能です。逆に言えばほかの機能は使っていないことになるのですが、その理由が最初に書いた「いざ熱設計しようとすると、やっぱりよくわからないので先へ進めない」ということになるのです。このスキルフォローについて、サーモシェルパでは2つの対策を考えました。

一つは熱設計フローを明示的に示して、そのフローに従ってツールを使えば結果が出るような画面構成にしたのと、もう一つはそのフロー中にヘルプボタンを配置し、それを押すと設計ガイドを表示するようにしたことです。

フローの表示については実は社内で開発方向が大きく変わった時期がありました。当初のサーモシェルパは「フロー設計だけ」しかできない方向で開発が進んでいました。忙しい設計者はツールで試行錯誤する時間もないから、フローに従えば迷わず設計ができるツールが最適、と考えていたためです。しかし熱設計は前にも書いたように「品質とコストを両睨みしながら最適化を図る」という作業になるので、実は試行錯誤できることが重要です。かといって、ただの熱計算ツールの集合体では「よくわからないから先へ進めない」ということになってしまうので、フロー計算も単独計算による試行錯誤もできるように、大きく方針変更をしました。(このために開発がかなり遅れたのですが、それは内緒です!)

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また設計ガイドの表示ですが、普通のツールはヘルプボタンを押すとツールの使い方が表示されますが、サーモシェルパでは入力すべき情報の意味やその理由など、設計するための方法を表示するようにしています。次に何をすればわからない、という人に何をすればいいのかを表示すれば、設計が進むと考えたのです。よく考えれば年中熱設計をやっている人は少なく、たいていの設計者は1モデルに1回しかやらないので、次のモデルの設計の時にはせっかく覚えた熱設計方法を忘れてしまっているかもしれません。そのリマインダーとしてヘルプが機能するといいな、と思っています。なお今のサーモシェルパで表示するのはあくまでも設計ガイドですが、将来的にはこの内容を、私たちが行っている熱設計教育の内容のようなものにしていきたいと思っています。そうすればヘルプがリマインダーから教育テキストに昇格し、ツールを使うことで熱設計が覚えられる、というようなことが実現できるかもしれません。こうなれば設計データの再利用だけでなく、知識の再利用も図れることになります。

サーモシェルパのVer1.0は年内のリリースを予定していますが、正直に言えば今まで議論してきた内容のすべてを実現できているわけではありません。今後基板系の熱設計機能強化や上記のようなヘルプ機能の強化など、設計に必要な機能を充実していく予定です。ただし設計現場で使うツールの開発が現場から離れてしまったら本末転倒なので、今後ともユーザ視点に立った開発を進めていきたいと思います。そのためには皆様に使っていただき、その意見を反映することが重要だと思っておりますので、ぜひ読者の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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