基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

14. ThermoSherpa(サーモシェルパ)の開発について

株式会社ジィーサス

2011.11.24

この連載を書き始めて約1年以上たちましたが、その間弊社ではThermoSherpa(サーモシェルパ)という熱設計システムを開発していました。今回はそのサーモシェルパの開発背景について書いていこうと思います。

もともと弊社(株式会社ジィーサス)では、私の熱設計の師匠である国峯尚樹先生の会社((株)サーマルデザインラボ)が販売しているThermocalcという、EXCELベースの熱設計ツールを代理販売させていただいておりました。Thermocalcはおそらく熱設計を行える初めてのツールだと思われ、私が現役の設計者の頃(もう20年以上前)から使わせていただいていたツールでもあります。熱設計ツールというとたぶん熱シミュレーションソフトを思い浮かべる人が多いと思いますが、前々回に記載したように熱シミュレーションソフトは設計結果の検証のために使われるツールです。設計中に必要なツールはシミュレーションツールのような高級ツール(?)ではなく、試行錯誤するために数値を入れてパッと答えが出るような電卓的ツールのほうが便利です。Thermocalcはそんな目的で作られたツールなので、入力データも出力データも比較的単純ですが、設計で使うには十分な機能だと思います。

そのThermocalcを使った熱設計セミナーも行わせてもらっていますが、その中で出た質問や、実際に使っている状況を聞いてみると、設計現場における熱設計の課題は以下のように大きく3つに分類できるようです。

  • ① 熱計算に必要な数値の収集に時間がかかる
  • ② 実際の消費電力がわからない
  • ③ いざ熱設計しようとすると、やっぱりよくわからないので先へ進めない

3つとも、今まで書いてきた連載の中にも登場していると思いますし、この課題解決には前回書いたような対策を行えばいいと思っていますLinkIcon。しかしそれを具体的にメーカ内でやろうとすると、トップダウンでもボトムアップでも何がしかの検討会を立ち上げて議論し、最終的には「しくみ」と「器」を用意することになると思います。実際、熱設計をしっかりやっているメーカは「しくみ」と「器」、それに「スキルアップ体制」という3種の神器が揃っています。残念ながらThermocalcや熱シミュレーションツールだけではこの3つの課題は解決できません。で、どうすればいいかを考えて作ったのがサーモシェルパです。したがってサーモシェルパを簡単に表現するなら“Thermocalcの計算機能に「しくみ」と「器」を付けたもの”ということになりますが、国峯先生にも入っていただき議論していくうちにいろいろアイデアが出て、最終的には名前通りの「熱設計者のシェルパ」という役柄のツールにまとまっていきました。実際にどんな議論を行ったのかを知ってもらうと、サーモシェルパがどんなツールなのかをわかってもらえるのではないか?と思いますので、以下に記載します。(暴露本みたい?)

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まず情報収集に時間がかかることへの対処の必要性ですが、これは皆経験しているので異論はありませんでした。ただ、解決策としてデータベース機能を持たせることについては賛否両論ありました。というのは、メーカならふつう部品データベースは持っているからです。図研製品を考えても部品ライブラリはDesign GatewayにもCR-5000/Board Designerにも、またDSにもあります。しかし熱設計で使う熱抵抗や物性値といった情報は既存のデータベースにない項目だし、データベースにツールを連携させるのが難しい場合もあるため、サーモシェルパには独自にデータベースを持たせることにしました。また熱抵抗や消費電力は部品の固有情報ではなく、使い方で変化するため、情報の持たせ方も議論になりました。たとえばAさんが部品aの消費電力を「最大定格×0.7」で入力したとします。その後Bさんが部品aを別の製品で使って、実測した消費電力で部品aの情報を上書きしたとしたら…? ということを考えて、結局データベースは2つに分けました。部品寸法などの固定情報を扱うデータベースと、回路ごとに異なる消費電力などの情報を設計結果として一括保存する「プロジェクト」に分けて運用できるようにしました。ただし固定情報データベースにも消費電力や熱抵抗の項目は設けてあります。なぜならサーモシェルパはデータ流用で無駄な検索時間を省くのが目的なので、使えるデータがあればそれを共有することを最優先にしたいからです。この固有情報データベースにどのような消費電力値や熱抵抗値を入れるかは、使う側でよく議論して決めてもらいたいと思っています。

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