基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

9. 熱設計と熱回路

株式会社ジィーサス

2011.04.21

さて、熱伝導を解説した時に熱抵抗を説明しましたが、対流熱伝達・放射熱伝達でも熱抵抗を定義できます。th_110421_4.jpgth_110421_5.jpgたとえば前回の熱放射の説明で放射エネルギー量はW=σε×面積×(部品温度 -空気温度 )で計算できると書きましたが、この絶対温度の4乗差の部分を因数分解すると温度差を外に出すことができるので、右式のように伝導・対流・放射の伝熱量は○○×温度差という形に整理できます。この○○の部分は熱の通りやすさ、つまり熱コンダクタンスに相当するので、その逆が熱の通りにくさ、つまり熱抵抗になります。こう考えると伝熱三態の熱抵抗が全て計算できる形になります。

熱抵抗が計算できるようになると、その熱抵抗で構成された抵抗回路網が計算できることになります。熱抵抗の回路網は電気抵抗と同様に抵抗の直列則・並列則が使えるので、熱の流れるルートがわかってそれを回路網に書けるようになれば、その合成抵抗が求まります。放熱経路全体の合成抵抗をRと書けば、温度差=R×消費電力と書けるので、消費電力と合成熱抵抗が判れば温度差が計算できることになります。つまり製品の周囲温度が判っていれば、その温度にこの計算で求めた温度差を加えることで部品温度が計算できることになるのです。簡単そうですよね?

th_110421_6.jpgでも今までこの連載を読んでいただいた方はわかると思いますが、伝導はともかく、対流熱伝達は空気分子の量とか浮力とかが絡むので、熱伝達率というのは実は計算が複雑だったりします。実際にたとえば自然対流の熱伝達率hは右式のように表現されます。このうちGrはグラスホフ数、Prはプラントル数という無次元数で、大学の時に習った人がいるかもしれません。Cやnは係数であって、いろいろな人が実験や計算から求めたものが発表されています。

なぜ対流熱伝達が難しいかというと、空気のような気体や水のような流体は場所や時間で常に物性が変化しているので、その変化をある程度固定しないと計算ができないからです。皆さんの周りにも当然空気がありますが、たとえば皆さんが今鼻から出した息は周囲空気より温度が高いはずだし、もしかしたら湿度も高いかもしれないし、また皆さんの吐き出す勢いで風速も違っていると思います。対流熱伝達による伝熱量は単位時間に固体に接触する空気分子量や、固体と空気分子の温度差によって変化しますが、それらの数値が時々刻々変化するので計算を難しくしているのです。

でもそれでは設計ができないので、周囲状況をなるべく固定して計算や実験を行いCやnの値を決めています。それらの値が使えるのは厳密には同じ環境の場合だけですが、これまた誰かがやった実験と同じ状況で製品をずっと運用できるかといえば、無理ですよね?ではどうするかというと、マージンを取るのです。機械設計では安全率、電気設計ではディレーティングと言っている余裕度のことです。

たとえばある部品の許容周囲空気温度が85℃で、製品周囲温度の上限が40℃だったとした時、筐体による温度上昇を85-40=45℃で設計していいかといえば、NGです。ではどの程度余裕を見ればいいかというと、それも実はケースバイケースで変化します。たとえば温度上限にマージンを2割とって85×0.8=68℃とすれば許容温度上昇は23℃になりますが、これだと許容温度上昇はマージンなしの場合の約半分です。筐体寸法が決まっていたら製品の消費電力を約半分にしないと実現できないことになりますが、無理ですよね?

この辺のさじ加減は製品ジャンルや周囲環境、製品に求められる品質・信頼性と必要コストの関係で変化するので、メーカ独自のノウハウ、つまりコアコンピタンスになります。このコアコンピタンスをしっかり把握し、設計ごとに変化しないことがメーカの信頼性の高さとなります。


熱回路の話から信頼性の話に脱線してしまいましたが、熱設計の勘所を少し理解していただけたでしょうか?ここまでの話は熱設計の前段であって、与えられた条件で部品が何℃になるかを把握するまでです。部品温度を計算したらその部品の許容温度以下だった、ということであればこの先の熱検討は不要ですが、もし許容温度を超えていたら、許容温度以下にする方策を考えなければなりません。次回はそのあたりの話を進めていきたいと思います。


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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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