基板と熱設計

印刷用表示 | テキストサイズ 小 | 中 | 大 |


clubZ_info_renewal.jpg

| HOME | 熱設計 | 9 | P1 |

更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

9. 熱設計と熱回路

株式会社ジィーサス

2011.04.21

こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
前回までで熱の伝わり方である伝熱三態を説明しました。熱が何者なのか、それがどのように伝わるのかがイメージできれば、熱対策の方向性が見えてくると思います。今回はもう少し設計を意識して熱を説明しようと思います。

th_110421_1.jpgたとえばある製品を設計しようとして、主要部品で消費電力を概算したら100Wぐらいだったとします。製品は基板剥き出しでは危険なので筐体に収容するとした場合、熱設計としては何をすべきでしょうか?

もしこの製品の設計条件がほかに何もないなら、少し大きめのケースに入れてしまえば何の問題もないかもしれません。100Wといえば電球ひとつぐらいの消費電力なので、一辺が50㎝ぐらいの箱なら何とかなるかな?と想像して作れるのなら、それで済んでしまいます。実際に一昔前の製品は消費電力の割に部品が大きかったので、特に熱設計なんかしなくても何とかなっていました。

しかし、一般には大きさが自由な設計という場面はほとんどなく、大抵は用途やデザインで大きさが決まってしまいます。特に最近は携帯性やコンパクトさが製品価値を決めるため、たとえばテレビなどは画面が大きくても限りなく薄くなり、ハンディムービーカメラは本当に手のひらサイズになってきています。今の液晶テレビで100W程度の製品といえば30インチ前後の製品だと思いますが、30インチテレビの縦横サイズは約70㎝×40㎝程度です。先ほどの一辺が50㎝ぐらいの箱と同じ容積を確保しようとすると奥行は45㎝程度必要となりますが、液晶テレビの厚さは5㎝程度なので約1/9の容積ということになります。もちろんたとえ基板が100W 発熱していても何も考えずに箱の大きさを小さくすることはできますが、当然箱の中の温度は高くなってしまいます。ではどうやって箱の大きさを決めればよいのでしょうか?

th_110421_2.jpgそのためには箱の大きさと発熱量と温度の関係を知る必要があります。熱と温度の関係は今まで説明してきたのでなんとなくわかってもらえると思いますが、電気でいえば電流と電圧の関係に相当します。電気の場合は電流と電圧の関係に抵抗が登場しますが、熱の場合も熱抵抗が登場します。そして実際の抵抗体となっているものが「箱」です。基板と周囲空気とを箱が仕切ってしまうため、熱が逃げにくくなってしまうのです。これを具体的に数字で計算するために、熱回路というものを考えます。

たとえば発熱部品を搭載した基板を筐体に入れたイメージは右図のようになりますが、部品から出た熱は様々なルートを伝わって最終的に周囲空気に放熱されます。製品が右図のような構造だと、部品から出た熱は基板、筐体、机を通って周囲空気に逃げるAルートと、部品から周囲空気へ伝わり、筐体を通って周囲空気に逃げるBルートに大きく分かれます。

Aルートは机まではすべて固体中を通るので、これは熱伝導であり、最後に空気へは対流熱伝達と熱放射により伝熱されます。いっぽうBルートでは部品から筐体の中の周囲空気へは対流熱伝達で伝熱されるとともに、部品からの熱放射は直接筐体内面に伝熱することになります。内部空気と筐体の間も対流熱伝達で伝熱され、筐体内を伝導で移動した熱は再び周囲空気に対して対流熱伝達と熱放射で伝熱されます。それぞれ伝熱経路は異なりますが、熱の伝わり方は伝導・対流・放射の3形態です。またそれぞれの経路上には熱抵抗が分布しているので、各経路上に抵抗記号を書きました。

th_110421_3.jpg「分布」と書きましたが、伝熱経路はどちらかというと電気回路の分布定数回路に似ています。上の図には抵抗記号しか書きませんでしたが、実際には部品も基板も筐体も「熱容量」を持っているので、コンデンサと抵抗が並列接続されているような構成になります。したがって非定常計算、つまり温度の時間変化を考慮する場合はこのコンデンサ成分を無視することはできません。ですが一般に熱問題は「つけっぱなしにしたら何℃になるか?」という定常問題がほとんどなので、ふつうはコンデンサ成分を無視しても差し支えありません。