基板と熱設計

印刷用表示 | テキストサイズ 小 | 中 | 大 |


clubZ_info_renewal.jpg

| HOME | 熱設計 | 8 | P2 |

更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

8.熱の伝わり方(その3)

株式会社ジィーサス

2011.02.24

今までの話を整理すると、完全黒体から放出するエネルギー量はその物質の温度の4乗に比例するが、一般の物質が放出できる割合(放射率)はそれより小さく(1以下)、それはその物質の吸収率と同じということになります。放射エネルギー量をW、放射率をε、絶対温度をT、比例定数(ステファン・ボルツマン定数)をσとすると、単位時間・単位面積あたりに放出されるエネルギー量はW=σεT という関係になります。

物質から電磁波で放出されるエネルギー量はこれで計算できるのですが、伝熱、たとえば基板上のLSIから出た放射されたエネルギーがどの部品にどれだけ吸収されて、その結果相手の部品は何℃温度が上がるか?を計算しようとすると、とても難しい問題になります。電磁波なので空中にその部品を宙吊りにすると全方位に電磁波を出すことになります。基板上だと半球状に電磁波が出るので、相手の部品に当たる電磁波の量は、相手部品の面積や位置、角度によって変化することになります。しかも相手も電磁波を放射しているため互いに放射吸収するので、最終的にどっちからどっちにどれくらいエネルギーが移動したのかを計算するのはとても大変です。

部品が1対1ならともかく、製品の場合は多対多を検討しなければならないので、とても手計算で厳密な計算はできるものではありません。シミュレーションソフトでもかなり負荷がかかるため、放射伝熱の計算はデフォルトでやらない設定になっていたりします。

しかし放射エネルギー量が絶対温度の4乗に比例するということは、A部品とB部品の温度差が10℃だとしても、たとえば10℃と0℃なら283.15^4-273.15^4=861068093ですが、110℃と100℃だと383.15^4-373.15^4=2163357163であり、その差は1302289070あります。数字のお遊びをしているようですが、部品間が同じ温度差でも、部品の絶対温度が高いと放射エネルギー量が大きくなるので、部品が高温化傾向にある現在は放射伝熱も熱検討項目に含めないといけなくなっています。

部品間の放射伝熱計算は難しいですが、たとえば大部屋に製品を置いた場合など、本来は壁の位置や角度や吸収率などを考慮すべきですが、簡易的には周囲空気が全部放射エネルギーを吸収してくれる、と考えて、単純に放射エネルギー量をW=σε×部品面積×(部品温度 -空気温度 )で見積もることは可能だと思います。伝導、対流に対し放射伝熱がどの程度なのかを知りたいときなどはあまり厳密な計算にこだわらず、できる範囲の計算で素早く見積もることが大事だと思います。ただしくれぐれも注意してほしいのは、放射伝熱計算に使う温度は絶対温度(ケルビン)を使うことです。EXCELなどで計算するとき、私も時々まちがえますので注意してください。


th_110224_3.JPGさて、放射による伝熱量を増やすにはどうすればいいでしょうか?温度が高いといいのは今までの説明通りですが、そのほかに計算に出てくる変数は面積と放射率しかありません。ですので、大きさが決まっている製品では面積が決まってしまうので、変えられる数字は放射率だけです。しかも最大で1までです。

放射率(=吸収率)を1に近づける具体策はどうすればいいでしょうか?それは皆さんの手にかかっています!ちょっとやってみてほしいのですが、手を広げた時、手の色は何色ですか?当然「肌色」ですよね?それでは手を軽く握って、手の中を見てください。何色ですか?暗いというか、黒っぽいですよね?皆さんが覗いている方向から光が入っているのに何で暗いのでしょうか?覗いている方向から入った光は、皆さんが手を握っているため手の中で反射を繰り返すのですが、出口が狭いため出る確率が低くなってしまいます。反射を繰り返すうちに皆さんの肌に吸収されてしまうのです。手を広げると反射量が多くなって吸収量が少なくなります。
th_110224_4.JPG
これを製品で応用するにはどうすればいいでしょうか?簡単ですね?表面をザラつかせればいいのです。ツルツルな表面は反射率が大きくなりますが、ザラザラの表面は入射光を閉じ込めて吸収しやすくなります。研磨した金属は鏡のようになりますが、錆びた面はザラザラです。放射伝熱を考える場合はどっちがいいかわかりますよね?全然関係ない話ですが、夏に塗る日焼け止めクリームって、反射率アップ剤なのでしょうか?どなたか知っていたら教えてください!


th_110224_5.JPG最初の話題に戻りますが、地球は地熱や皆さんの生活による排出熱だけでなく、太陽から熱放射を受けています。太陽熱があるから生物が生きられるのですが、地球も当然吸収率(=放射率)を持っています。それは製品と同じように表面の状態で決まりますが、地球の表面には何があるでしょうか?空気ですよね?空気の中には窒素や酸素や水蒸気などが含まれ、それぞれが電磁波を吸収、放射します。雲があると直接太陽光線は地表に届きませんが、雲が太陽放射を吸収します。太陽放射だけでなく、雲は地表からの放射も吸収することになるので、保温材も兼ねることになります。逆に空気が澄んでいて雲がなく、かつ太陽放射がなかったらどうなるでしょう?地表表面からの放射が直接宇宙に放散されてしまいますよね?熱は逃げる一方なので寒くなりますが、これが放射冷却です。


これで伝熱三態を説明しましたが、熱現象は割と身近にあると思えませんか?熱い・寒いを決めるのは発生した熱だけでなく、それを伝える側の性質にかかっており、皆さん自身も熱発生体であると同時に伝導体であることを認識すると、自然と熱対策方法も見えてくるのではないでしょうか?



LinkIcon構想設計から使えるユニークな熱設計支援システム「ThermoSherpa」とは?詳細はこちら!


●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

【今回の記事はいかがでしたか?】

大変参考になった
参考になった
あまり参考にならなかった
参考にならなかった

今回の記事について詳細なご説明をご希望の方は、Club-Z編集局(clubZ_info@zuken.co.jp)までご連絡下さい。