基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

8. 熱の伝わり方(その3)

株式会社ジィーサス

2011.02.24

th_110224_1.JPGこんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
寒い日が続きますね。日本の冬は気圧配置が西高東低で、大陸の高気圧から太平洋側の低気圧に向けて冷たい北風が吹き、それが日本列島の山脈にぶつかって日本海側は大雪、太平洋側は乾燥した晴天が続きます。太平洋側は毎日晴天で温かそうですが、そんなことないですよね?冬の晴れた日にはよく天気予報で「放射冷却による低温に注意してください」と説明していますが、放射冷却ってなんでしょうか?今回は伝熱三態の最後の一態である「放射」について説明したいと思います。


前回の最後に「地球大気はどうやって放熱しているのでしょうか?」と書きましたが、地球大気は電磁波として熱を宇宙に放出しています。熱と電磁波の関係がわかりにくいかもしれませんが、でも真夏の太陽は灼熱地獄だし、冬の太陽は温かいですよね?あの熱は伝導ではないし、真空の宇宙を超えて降り注ぐ熱は対流でもないですよね?また最近は少なくなりましたが「遠赤外線効果グッズ」が流行ったこともありました。赤外線は文字通り「赤の外の波長の電磁波」であり、この電磁波に当たると暖かく感じます。

Club-Zの読者は回路設計者や基板設計者が多いので電磁波の発生機構は理解していると思いますが、電位差のあるモノが振動することで電磁波が発生するので、物質を構成する原子や電子、分子などがエネルギーを得て振動することで電磁波が発生します。つまりエネルギーを有する物質(=絶対零度以上の温度を有する物質)は電磁波を発生します。

皆さん自身も体温を持った物質ですから当然電磁波を出しており、赤外線を画像化するサーモグラフィーに写ることになります。ここで注意しなければならないのは、物質から伝わる電磁波には、その物質が放出している電磁波のほかに、その物質が反射する電磁波があることです。

th_110224_2.JPGたとえばサーモグラフィーを私に向けた場合、サーモグラフィーは私が出している電磁波と、私の皮膚や服が反射する電磁波を受けることになります。一般に電磁波は物質に当たると、ガラスのように透明な物質の場合は一部が透過し、一部が反射し、一部が吸収されます。入射光のエネルギー量を1とすれば、透過量+反射量+吸収量=1となり、それぞれの比率を「透過率」「反射率」「吸収率」と言います。不透明な物質の場合は透過率が0ですから、不透明な物質に当たった光は反射されるか吸収されるかのどちらかになります。

いま私は机に向かってこの文章を書いていますが、目の前の机に当たった電磁波も反射または吸収され、電磁波を放射しているはずですが、どれくらい放射しているのでしょうか?たとえば室温が25℃の場合、机自身は発熱しないので十分長い時間放置されていれば机も25℃のはずです。この状態を「熱平衡状態」と言いますが、それでも25℃の温度を持っているので、机からは電磁波が出ているはずです。電磁波が出るということはエネルギーが放出されることになりますが、それで温度差ができないためには、放出したエネルギー分だけ吸収しないとならないことになります。 ということは放出量=吸収量ということになるので、放出量を知りたければ吸収量を知ればいいことになります。


それでは最も放出量の大きな物質はどんな物質でしょうか?
当然に吸収量が最も大きな物質ということになりますが、それはその物質に当たった電磁波を全て吸収する物質(吸収率が1の物質)ということになります。すべての電磁波とは電波から光、X線とかガンマ線とか全部なので、まさにブラックホールです。これを完全黒体と呼んでいますが、完全黒体は吸収するだけなので反射しません。だけど熱平衡状態では吸収した分だけ放射するはずなので、放射率も1になるはずです。ということは吸収率と放射率は同じになります。
黒体が放出する電磁波の量は波長と温度(絶対温度)で決まりますが、これを全波長領域で積分すると黒体の単位時間、単位面積当たりに放出されるエネルギー量が温度(絶対温度)の4乗に比例することをステファンさんとボルツマンさんが発見し、その比例乗数σをステファン・ボルツマン定数と言っています。
一般の物質はブラックホールと違って全波長の一部しか吸収しないので、当然放出する量もその量になってしまいます。