基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

3.熱設計の意味

株式会社ジィーサス

2010.09.30

たとえば基板上にプロセッサを搭載する製品を考えてみます。
何も問題がないのなら、単にプロセッサを基板に搭載して筐体に入れればいいのですが、普通はプロセッサが熱くなって品質に影響を与えることが分かっていると思いますので、あらかじめ放熱対策が必要なことは理解していると思います。しかしその放熱対策がコスト・納期的にどの程度の規模になるかを事前に把握するには、どの程度の放熱対策が必要なのかがわからなければならないし、その対策に必要な部品や設計手法を選択できなければなりません。th_100930_2.JPG

たとえばそのプロセッサが100W程度の消費電力なら、パソコンのCPUに付属しているようなファン付きヒートシンクが必要そうなことが分かりますが、10W程度のプロセッサだと自然空冷か強制空冷か迷うのではないかと思います。
ここで熱設計を知らなければ、品質第一で強制空冷を選ぶかもしれませんし、ダメモトで自然空冷を選択して設計し、試作実験による手戻りを覚悟するかもしれませんが、どちらの方法もQCDバランスの悪い設計になってしまいます。熱設計を知っていれば、対策部品を選定する前にプロセッサの許容温度や環境条件(いずれも設計条件)を調べ、温度上昇計算を行って論理的に放熱方法とその規模を把握し、必要十分な放熱対策を選定できます。どちらのアプローチがQCDバランス的にいいかといえば、やはり後者でしょう。

このような事例は熱問題だけでなく、EMC問題や強度問題だって同じことですし、互いに関連しています。放熱性を重視して筐体を穴だらけにすれば、ノイズは出やすいし強度は低下し、その対策でまたお金と納期がかさむかもしれません。

製品設計は一つの技術を追求するものではなく、QCDバランスを取るために技術バランスを取る作業だと思います。これを行うためには少なくとも製品設計に必要な技術を知らなければならないし、その技術を使ってQCDバランスを取るためには経験が必要になります。

製品設計の難しさはこのあたりであり、製品設計における熱設計の立場は、「製品設計には熱設計も知っている必要がある」という関係だと思います。これはもっと広く捉えれば「回路設計」「基板設計」「機構設計」「ソフト設計」という製品を構成する設計分野の関係とも同じだと言えます。
つまり製品設計には回路設計も基板設計も機構設計もソフト設計も、もっと言えば製造技術もサービス技術も知っている必要があります。もちろんすべてを一人で行うことができないから設計部門が分かれているのですが、それぞれの設計部門がどう考えて設計しているのかを知らなければ、QCDバランスのとれた製品はできません。

プロセッサにファン付きヒートシンクが必要な場合、回路設計はそれを想定して電源に余裕を見る必要があるし、基板設計ではプロセッサ周辺に部品不可領域や取付穴が必要になることを考慮する必要があり、機構設計は冷却性能だけでなく基板取付強度や振動の影響を考慮する必要があります。またソフト設計では極端にプロセッサに負荷をかけない配慮も必要になるし、製造技術では基板リフロー後の後工程作業や、はんだ付け部に対する熱・振動等の影響を考慮する必要があります。
すべて製品設計は技術間・部門間のバランスの賜物なので、当然に部門間の協調やマルチ技術者化という施策が有効であるし、少なくとも同じ製品を開発している部門間では、常に情報共有を心掛ける必要があります。特に熱設計については上記のように各部門に関係し、それぞれの部門が作成する設計ドキュメントに設計結果を織り込む必要があるので、一つの部門だけが知識や経験を持つのではなく、全部門が平等に知識・経験を共有できるような方策が必要になります。

具体的には全部門対象の熱設計教育による知識の共有化や、設計結果の共通データベース化、設計プロセスへの熱設計の組込み(FMEAやDR項目としての取込み等)が有効ですが、その前に各部門のメンバーが「熱設計はどの部門も自責で考える」という意識が必要です。他人任せにはできない、部門単独問題ではなく協調解決が重要だということを、熱課題への取り組みの中で認識していただきたいと思っています。

また堅苦しいことばかり書きましたが、熱設計のポジションが何となく理解できたでしょうか?次回からは製品設計に必要な熱設計知識について説明したいと思います。



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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