☑Club-Z特集
《 Zuken Innovation World 2015 特別レポート② 》
「デライトデザイン技術開発を目指して」
東京大学 大学院工学系研究科 鈴木宏正教授による講演内容のご紹介
2015.11.26
■ 検証プロジェクト
ここまではヘアドライヤーの話をしてきましたが、いくつかの違う製品カテゴリーに対して我々が考えている手法を適用し、デライト設計が行えないかという検証を行っています。
その中のひとつが介護機器です。ベッドから車椅子に人が乗り移る時の支援をする「移乗装置」を対象にしています。寝ている方を釣り上げて車椅子に乗せるリフト型や、寝ている人が前かがみになって乗り移る前傾タイプのものなど、すでにいろいろなものがあります。
ここでは、モーションキャプチャと呼ばれる技術を使い、介護者と被介護者の動きを撮り、介護する人や介護される人にとって、どのような動きが楽なのかということをひとつひとつ実験を行い、データを集めました。さらに実際に利用してもらった後に、官能試験を行い、動きがスムーズだったかとか、負担感がなかったかなどいろいろなアンケートをとって点数付をしています。
先ほどのヘアドライヤーの音の場合は、Sound Quality Metricsを求めれば人の感性にどのように影響するかを「感性指標」として定量化できましたが、人の動きに関しては、どういう動きをすると人の負担感はどう変わるかなどを評価できる明確な指標が無いので、今はまずそれを求めようとしています。
図11 (クリックで拡大表示)
図11に示すように、我々は介護される人の「重心の位置」に注目し、モーションキャプチャで介護される人の動きを検証・分析し、「ジャークの和」と呼ばれる値を計算しました。この「ジャークの和」という指標と、介護する人の仕事量との関係性をある関係式で表現すると、先ほどのヘアドライヤーの音の心地よさと同様に設計ツールとして実現することができます。動きのデータを測定するのは大変なことですが、いくつかの介護機器でデータを測定しておけば、先ほどのデライトマップのナビゲーションのようなことができると思います。
理想的な重心の軌道というものを計算できるようになると、重心がこういうように動くと作業が割と楽だということが計算でき、それに合わせて移乗装置を作ればいいとなります。現在は、その試作研究も同時に行っています。
この他にも、建設機械のキャビンのデザインを工夫して運転しやすいような環境を作ることや、一般的なユーザーが自分自身で求める魅力品質を指定して製品を購入できないかと思い、シューズマッチングシステムの研究を行ったりしています。
■ まとめ
本日は「デライトデザインプラットフォーム」の4つの技術についてお話しました。製品の特性と感性あるいは魅力を定量的に評価するための感性データベース技術、従来のMBDに感性に関わるモデルを組み込んで製品設計を行う感性モデリング技術、そしてその感性を含めてモデリングしたものを詳細設計CADシステムに繋げる感性統合化技術。最後に実物から完成モデルを詳細に作り込む感性リバース技術です。
我々は、このプロジェクトを通してこれらの技術を開発することで、少人数で製品を作られている、またはなかなか感性を評価するところまで実現できていない企業や設計者に対して、感性を考慮したものづくりができる環境を適宜提供していきたいと思っています。
ご清聴ありがとうございました。
革新的デライトデザインプラットフォーム技術の研究開発
http://www.delight.t.u-tokyo.ac.jp/
謝 辞
この成果は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。ここに謝辞を表します。