Club-Zコラム第4回

印刷用表示 | テキストサイズ 小 | 中 | 大 |


clubZ_info_renewal.jpg

| HOME | コラム | グローバル化は設計・製造の仕組みを見直すチャンス | 第4回 | P1 |

更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


グローバル化は設計・製造の仕組みを見直すチャンス

【第4回】目指すべき開発体制は擦り合わせ型か組み合わせ型か

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造


2007.09.20

執筆者プロフィール
九州大学卒業後、日本HP入社(入社当時はYHP)。電子計測器、半導体計 測システムの研究・開発に従事した後、社内の開発製造革新プロジェクトで、 電気・電子設計およびソフトウェア開発のための統合システムを企画,開発。
この間に、日本HPにおけるソフトウェア・プロダクティビティ・マネジャー を兼務。日本HPの会社分割によりアジレント・テクノロジーに移籍した後、 この経験をもとに社外に対してコンサルティングを実施。その後、株式会社 RDPi を設立。 これまでに、家電、通信、電子機器、自動車業界に数十社の実績を持つ。ビジネスコンサル系とは一味違った開発現場やツールにも精通するコンサルタント。
著書(共著)に「デザイン プロセス イノベーション」「ザ・チェンジ」(どちらも日経BP)。また「日経ものづくり」での連載や「ソフトウェア開発環境展」専門セミナーなどのセミナーも多数実施している。

●Email :  ishibashi@rdpi.jp
●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/

前回は、開発における様々な業務が設計技術者に集中して、本来業務である新製品の開発に時間を割けない状況であること、そして、解決のためには、プロフェッショナル化という考え方で開発全体の業務設計を行う必要があることをお伝えしました。製品開発業務における各々のプロフェッショナルは、自らの知識や経験を体系化してDFXツールとして設計技術者に提供することが、設計業務における協調体制構築につながると解説しました。

しかしながら、実際にプロフェッショナル体制に移行するのは簡単なことではありません。 何らかの工夫が必要です。また、日本固有の組織文化を考慮することも大切なはずです。
最近「擦り合わせ型開発」というキーワードで日本の開発スタイルが競争優位性を獲得し維持する強さの根源である、というような論調をよく耳にしますので、この「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の視点で開発体制についてさらに考察したいと思います。

それではまず、「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」について整理しておきましょう。

「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の違いを図10に整理しました。「擦り合わせ型」は垂直統合型の製品開発であり「インテグラル型」とも言います。代表的な製品は自動車です。その他にも、複写機や液晶ディスプレイなどがあります。「組み合わせ型」は水平分業型の製品開発で「モジュール型」とも言います。代表的な製品はパソコンや携帯電話です。この両者の違いを決めるのは「製品アーキテクチャ」「組織能力」「能力構築環境」の3つの要素です。次に、それぞれの要素について解説しましょう。

column_20070920_1.jpg

「製品アーキテクチャ」とは開発する製品の基本設計思想です。製品の内部構造に反映されます。「擦り合わせ型」の場合は、部品や機能ブロックの仕様を相互に調整し、製品ごとに最適設計を行うことで高い性能を実現します。「組み合わせ型」の場合は、インタフェースが標準化された部品や機能ブロックを使い、これらの組み合わせ方法で製品としての魅力的な機能や性能を実現します。

「組織能力」とは重視される技術者個人の能力で、その組織に所属していることで技術者が身につけた能力と考えます。組織全体が重視しているスキルと言ってもよいでしょう。「擦り合わせ型」の場合は調整能力が重要で、そのためにコミュニケーション能力や関連領域における幅広い基礎知識も重要スキルになります。一方「組み合わせ型」の場合は、分業化された開発の各業務における専門知識や経験が重要視されます。

「能力構築環境」とは前述の組織能力を作っている制度や仕組みのことです。国として企業に対してどのような制度を提供するのかが大きな要因となります。「擦り合わせ型」に必要な調整能力やコミュニケーション能力は、年功序列や終身雇用の仕組み、ローテーションによる関連部署での業務経験蓄積などにより育成されています。「組み合わせ型」の場合は、成果主義を基本とする明確な目標設定と報酬制度が、専門性向上や機動的な専門能力獲得に役立っています。

このように、「擦り合わせ型」と「組み合わせ型」それぞれの開発は、製品や組織、制度などの統合的な観点から明確な違いを生じているのです。