アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

11. 外部からの電磁干渉などから回路を守れるレイアウト

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.06.16

11-2 無線周波数信号による干渉

無線周波数信号による干渉も、実際問題としては、ここまで説明してきたEMIと何ら変わるものではありません。しかし近年では特に注意すべきEMIのカテゴリーですので、節をあらためて説明します。

■「無線干渉」というEMIは近年では注意すべきこと
現在では広く無線通信が普及しています。とくに無線送信機が問題です。ラジオ放送局、TV放送局、移動無線サービス、アマチュア無線などは昔からある無線送信機ですが、近年では携帯電話やコードレス電話、ガレージ・ドア・オープナなどが電波を放射する機器(無線送信機)として身近なものでしょう。これ以外でもレーダー、リモート・コントロール機器、テレメトリ機器などが身近なものとして考えられます。
自分の設計したプリント基板や回路が、その機器が稼働している間(寿命まで)、「絶対に無線送信機に近接することがない」ということは、考えられない状況と言えるでしょう。

■無線干渉がアナログ回路/アナログICに影響を与えるRFI
これらのEMIや無線干渉から一番影響を受けやすい回路は、やはりアナログ回路だといえるでしょう。
アナログ回路の中でも、特に計装アンプを用いたアプリケーションはその可能性が高いと言えます。この用途は信号を伝送する配線が長く、同相ノイズが大きく、信号レベルが低いものです。計装アンプは優れた同相ノイズ除去性能を持っていますので、こうした用途には昔から計装アンプが用いられてきました。
しかし計装アンプIC内部で、無線干渉による高周波信号(ノイズ)を整流してしまうという問題があります。IC内部で整流された無線干渉は、アンプ出力にDC出力オフセット誤差として現れます。このメカニズムは計装アンプIC以外のアナログIC(たとえばOPアンプ)でも全く同じです。
影響を与える無線干渉が数10kHz程度の周波数でも、この高周波整流が発生します。一方、周波数がGHz帯になっても同じです。
整流されて一度DCオフセット誤差になってしまうと、計装アンプの後段でいくら補正処理してもこの誤差は取り除けません。無線干渉が断続的に生じる場合には、誤差が変動することにより、さらに厄介な問題にも発展します。
これを「RFI; Radio Frequency Interference」と呼びます。この問題に対してはプリント基板上で、図11-5のようなレイアウトをすることで対策できます。抵抗で高周波電流を制限させ、コンデンサでフィルタするというイメージです。
一方で抵抗による熱ノイズ(ジョンソン・ノイズ)の発生や、オフセット増加については十分に注意してください。アナログ・デバイセズのアプリケーション・ノート※も参考になるでしょう。

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図11-5 高周波整流によるRFIを抑えるための回路

※Charles Kitchin, Lew Counts, Moshe Gerstenhaber; "計装アンプ回路でRFI整流誤差を低減する方法," AN-671, Analog Devices.

11-3 光による干渉(光電効果)

光は電磁放射であり、半導体デバイスに影響を与えることがあります。原理的にも半導体のPN接合はフォト・ダイオードになる可能性があり、光エネルギーが電気的エネルギーに変換されてしまう現象が生じます。これを「光電効果」と呼びます。
光電効果の変換効率と影響度は、半導体デバイスごとで大きく異なります。一番のポイントとしては、周囲光からデバイスのチップ部分が遮蔽されていないと、光電効果が「ノイズとして生じる」可能性があるということです。

■光電効果はデジタルICでも生じるが影響はほとんどない
一般的にほぼすべての半導体ICは、遮光性パッケージで封止されています。そのため光電効果が問題になることはありません。
EPROMは最近では使用されることはありませんが、このEPROMだけは例外です。
EPROMに照射される光度の変化に伴って、スレッショルド電圧が変化するという現象があります。しかしEPROMはデジタル・デバイスであり、光量レベルが変化しても、スレッショルド電圧が仕様の範囲を超えることはありません。そのため現実問題としては影響はほとんどないでしょう。

■オペアンプの入力保護回路にはよくダイオードが用いられるのだが
ところでオペアンプの電源電圧を超える入力電圧であったり、信号源で高電圧が生じる場合、図11-6のようにダイオードと電流制限抵抗を使用して、オペアンプの入力回路を保護することも多いでしょう。
通常はダイオードは逆バイアスされ、非常に低いリーク電流が流れています。ここに高電圧(異常電圧)が加わると、抵抗とダイオードを経由して電源に短絡電流が流れて、オペアンプの入力回路が破壊することを防止できます。

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図11-6 オペアンプの入力保護回路

一方ダイオードは、半透明のガラス・パッケージに封止されているものが、今でも多く販売され、使用されています。このためこのパッケージのダイオードが、100Hzか120Hzで明滅する蛍光灯の光に照らされると、光電効果が生じ、それによりダイオードの動作が変調を受け、ハム・ノイズ(ジーという音で聞こえるノイズ)を発生することがあります。
このため、このような(信じられないような)ノイズが生じないよう、非透過のパッケージを使うなどして、光が加わらないように適切にレイアウトする必要があります。

■実際にこのメカニズムで光電効果によるトラブルが発生!
欧州の弊社(アナログ・デバイセズ)で実際にあった事例をご紹介します。お客様が設計・製造した、センサ信号を増幅するアンプ・システムの約10%が、電灯線周波数(50Hzや60Hz)の2倍の周波数で大きなハム・ノイズを生じてしまう、というトラブルに遭遇したのです。
このお客様は「オペアンプの電源電圧除去性能が問題」だと主張していました。しかしこの回路の電源をバッテリに変更しても、問題は解決しませんでした。
いろいろ解析したところ、蛍光灯がオペアンプの入力を保護する保護ダイオードに影響を与えていることが原因だと判明しました。このダイオードはガラスケース入りのダイオードでした。
このダイオードのうちの約10%は、本当にフォト・ダイオードのように動作しており、それが50Hzの電灯線周波数で明滅する蛍光灯の光で、ダイオードに流れていたリーク電流が(2倍の周波数の)100Hzで変調されていたのです。これがこのトラブルの物理的な原因でした。
その100Hzのノイズ信号はセンサ信号と共に増幅されて、出力で大きなハム・ノイズを生じていたのでした。
このダイオードを、黒いエポキシ・パッケージで封止されたダイオードに交換することで、この問題は完全に解決できました。

11-4 まとめ

今回はこれまでと少し異なる視点で、アナログ回路に影響を与える外部要因について考えてみました。このような影響も考慮して、普段から注意してアナログ回路やミックスド・シグナル回路の設計や基板レイアウトをしていくことが重要といえるでしょう。





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●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。

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