アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

8.グラウンドと信号配線のパターン・レイアウトを最適化する(2)

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.03.24

8-1 コンバータをレイアウトするときのグラウンドの考え方

多くのADコンバータやDAコンバータ(以降「コンバータ」と呼ぶ)は、アナログ・グラウンド(AGND)ピンとデジタル・グラウンド(DGND)ピンが別々になっています。これらのピンをICの外側で接続するように、データシートでは推奨しています。
これは、これまで説明してきた「AGNDとDGNDを電源のところで接続する」ということと矛盾するように見えます。また、複数のコンバータが使われるシステムでは、さらに矛盾するように思えます。


■このような接続は矛盾があるのではないか?
しかし、実際には矛盾はありません。AGNDピンとDGNDピンという「回路図・ネット表記」は、コンバータ内部回路との接続を表しているだけであり、基板上のグラウンドのどこに接続するかを意味しているものではありません。
これら2つのピンは、図8-1のように基板のアナログ・グラウンドに一緒に接続します。その理由はピン同士をICパッケージ内で接続できないことにあります。コンバータICのアナログ回路は、ボンディング・ワイヤに流れるデジタル信号電流で生じる電圧降下を許容できないからです。

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図8-1 AGNDピンとDGNDピンは基板上のアナログ・グラウンドに接続する



■こうしてもアナログ回路のノイズ特性の悪化は少ない
このようにすることで、コンバータのアナログ回路部分のノイズ特性劣化は、基板のアナログ・グラウンドに流れるコンバータ自体のデジタル信号出力電流からのみ、影響を受けるようになります。
実際にはこの電流はきわめて小さいので、アナログ・グラウンドのインピーダンスを十分低くしておけば、ノイズの増加を十分低く抑えることができます。コンバータが複数のディジタルIC(大きなファンアウト)を駆動しないようにすれば、さらに低く抑えることができます。
また、コンバータのデジタル電源ピンは、電源回路側と低抵抗で分離したうえで、コンバータ直近に0.1μF程度のコンデンサを接続し、アナログ・グラウンドとデカップリングします。こうすると、コンバータ内部のデジタル信号電流は、すべてこのコンデンサが分担することになり、グラウンド経路には流れません。
基板のアナログ・グラウンドのインピーダンスが十分低く、それが目的とするアナログ性能を実現するのに十分であれば、コンバータICのデジタル信号電流によってノイズが若干増えても、問題になることはまずありません。ここまでの要点を図8-2に示します。

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図8-2 コンバータにおけるAGNDピンとDGNDピンの考え方の要点


8-2 グラウンド・プレーン…現代は「多層基板」が解である

両面プリント基板の片面、または多層プリント基板の1層に連続した導体面(ベタ)を構成し、これをグラウンドにします。近年では多層構成を多用しますので、その内層をベタ、つまり「グラウンド・プレーン」として利用することが一般的でしょう。この様子を図8-3に示します。
ところで前回「一点グラウンド」について説明しました。この一点グラウンドの考え方は、実はグラウンド・プレーンを使うこととも深く関係しているのです。
グラウンド・プレーンを使う理由は、導体部分が広ければ広いほど抵抗値が低くなり、インダクタンスも小さくなるということからです。これは「一点グラウンド」の本来の考え方からすれば、矛盾するように思えるかもしれません。
しかし、電子回路を「物理システム」として考え、そして「グラウンド・インピーダンス」という視点にたてば、これらはすべて繋がり、全くもってそれぞれが合理的な考え方になるのです。

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図8-3 近年では多層基板構成で内層をベタ…つまり「グラウンド・プレーン」として活用することが一般的



■とはいえ、グラウンド・プレーンも万能ではない
グラウンド・プレーンを使用することによって、グラウンド・インピーダンスにまつわる多くの問題が解決できます。しかし、すべての問題が解決できるわけではありません。
ベタパターンであるグラウンド・プレーンでさえ、残留抵抗と残留インダクタンスがあり、場合によってはこの影響で、回路の正常な動作を妨げてしまうことさえあります。図8-4に、この不具合の例を示します。
この図のように幅100mmのグラウンド・プレーンの一端がグラウンドに接続され、もう一方にパワーアンプがあり、15Aの電流が流れているレイアウトを考えてみます。
一般的なパターン銅箔厚は38μmで、ここに15Aが流れると0.7mV/cmの電圧降下が生じます
この電圧降下は、このプリント基板上でグラウンドを共有している高精度アナログ回路に対して、きわめて深刻な問題を引き起こしてしまいます。(この問題については、第一回連載の中の【「物理現象」がシステム全体の性能へ与える影響度はどの程度なのか】LinkIconをご参照ください。)



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図8-4 グラウンド・プレーンを活用しても問題になるケース



■それでも物理的な視点で考えれば、最適なパターン・レイアウトが得られる
図8-5に解決策を示します。グラウンド・プレーンに切りかき(スリット)を入れて、高精度アナログ回路の領域に大電流が流れないようにします。こうすると、グラウンド・プレーンに大電流が流れることで生じる電圧降下により、電位傾斜が増加しても、影響を受けないシステムを実現することができます。

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図8-5 図8-4の問題になるケースのグラウンド・プレーンを改善したようす