アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

1. 基本的な物理現象を理解して回路設計やレイアウトを成功させよう

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2010.08.26

■この連載で示す「物理現象の基本法則」とはこんなもの
皆さんの設計業務でも、まさしくこの基本法則が当てはまるはずです。そしてそれを見くびってしまうと、最悪の場合「マーフィーの法則」の罠にかかってしまうかもしれません。
図1-5にこの連載で示していく「物理現象の基本法則」……設計とレイアウトで知っておくべきこと……を示します。これらを理解することでスムースに設計が完了し、余計なトラブルを大きく減らせることができるはずです。

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図1-5 連載で示していく「物理現象の基本法則」…設計とレイアウトで知っておくべきこと



「物理現象」がシステム全体の性能へ与える影響度はどの程度なのか

■16ビット・コンバータシステムで考えてみる
「物理現象」の影響を検討するとき、システム全体へ与える影響度を考えるべきです。この検討を怠ってしまうことが、これから示す問題のほとんどの原因になっていることが事実です。
たとえば図1-6のような、一般的ともいえる分解能の16ビット・コンバータ・システムでは、そのフルスケール(FS)レンジは、2の16乗つまり65536に分割されます。したがってFS 10Vのコンバータ・システムにおける1LSBは(一般的な16ビットのシステムであっても)わずか153μVになります。
「許容誤差0.5LSB」と仕様で規定したとすると、FS 10Vの16ビット・コンバータ・システムでは、合計誤差を76μV未満にしなければなりません。これは何と!銅/ニッケル・リード線構成のニクロム巻線抵抗で、抵抗両端間の温度差が約2℃のときに生じる熱起電力とほぼ同じ値なのです。この「熱起電力」も本連載で示していく「物理現象」のひとつなわけです。
いっぽうデジタル回路では、論理0と論理1という2状態しかなく、数百~数千mVのノイズ・マージンがあります。そのためデジタル回路しか知らない回路設計者は、ここで論じている誤差の発生源…つまり「物理現象」…を往々にして見落してしまいがちです。

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図1-6 16ビット・コンバータ・システムにおける1LSB


■さまざまな分解能で考えてみる
図1-7はさまざまな分解能での0.5LSBのサイズを示しています。FS 10Vを基準とした値をここでは示していますが、これは標準的なコンバータのレンジがその値であるためです。本稿ではLSBにmVの単位を表記する場合、特に明記しない限りFS 10Vを前提としています。ほかのFS値に変換するのも簡単です。
アナログ回路を設計する設計者であれば、この表を熟知しておくべきでしょう。この表があれば、さまざまな規格で規定されるコンバータを比較できるだけでなく、設計が合理的かどうかもわかります。ノイズまたはシステム誤差が1mVに達するのであれば、分解能が12ビットを超えるようなコンバータ・システムを設計する意味はほとんど無いということもわかります。

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図1-7 10Vフルスケール・コンバータのビット(0.5LSB)サイズ



まとめ

このように、アナログ&ミックスド・シグナル回路は、非常に緻密・精密であることがわかります。この複雑なシステムの設計を成功させるためには、これから引き続き示す「物理現象」の視点に立って、設計やレイアウトをおこなっていくことが大切なのです。
それを理解せずに設計やレイアウトを成功させることはできません。




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●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。

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