アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

3. 抵抗素子に潜む寄生効果を熟知しておく

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2010.10.28

3-4 抵抗値の熱的安定性とマッチングが不適切だと誤差が生じる

抵抗を使用した回路では、熱電対効果以外の熱的効果も精度に影響を与えることがあります。
抵抗は温度に対して必ずしも安定ではなく、高精度回路で2本の抵抗の温度係数が合わない場合、あるいはプリント基板上で抵抗ごとの温度が異なっている場合には、回路性能が低下してしまいます。一方、プリント基板上の同じような環境下に置かれた、同じ2本の抵抗の温度が同じにならない原因は、自己発熱量の違いやその他の原因も考慮する必要があります。

■高精度アナログ回路用抵抗ネットワークを活用する
一般的な個別抵抗素子の温度係数は約100ppm/℃程度あります。抵抗の温度係数の影響を最小限に抑え、抵抗ごとの温度差による影響を除去するための最善の方法は、システム精度に対して(抵抗のマッチングにより)影響を与えるすべての抵抗が、一枚のサブストレート上に形成されている素子、つまり図3-5のようなアナログ回路専用の高精度抵抗ネットワークを用いることです。
これらの薄膜抵抗ネットワークは、全ての抵抗が同時に、同じプロセスで作られるため、非常に少ない抵抗差を実現できます。
ここでいうサブストレートの意味は、薄膜抵抗ネットワーク部品の抵抗体が形成されているガラス基板やセラミック基板のことです。

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図3-5 抵抗が一枚のサブストレート上に形成されている高精度抵抗ネットワーク

■ICのシリコン・サブストレート上で薄膜抵抗をレーザ・トリミングする技術もある
さらに優れた技術としてIC内部で実現しているものをご紹介します。ICのシリコン・サブストレート上にICプロセスで薄膜抵抗を形成し、それをレーザ・トリミングする技術です。
このような薄膜抵抗の温度係数は、20ppm/℃よりさらに低く、同一サブストレート上の2本の抵抗間の温度係数差は0.5ppm/℃以下のレベルにまで実現可能なのです。

3-5 高抵抗だと抵抗値が不安定であったり電圧変動してしまう

と言っても、薄膜/ICサブストレート上に極端な高抵抗値を形成することは不可能です。
そのためこのような場合は、まだまだディスクリート抵抗の出番になります。と言ってもディスクリートの高抵抗素子は、低い抵抗値の素子に比べて安定性がかなり劣ります。
したがって抵抗素子が高抵抗でありながら、「抵抗は安定なもの」とシステムを仮定して、性能を実現していくことは問題があります。
さらに高抵抗は、ものによってはさらに別の欠点もあります。電圧/電流曲線がわずかに非線形を持ち、オームの法則に正確に従わないのです。

3-6 抵抗体はジョンソン・ノイズと呼ばれる熱により発生するノイズがある

最後の「抵抗の不完全性」はとても厄介なものです。ただしこれは、どんな抵抗にでも備わっている物理特性であるため、必ずしも「不完全なもの」とは言えないかもしれません。それは熱ノイズ…すなわちジョンソン・ノイズのことです。

■絶対温度に比例してジョンソン・ノイズが発生する
絶対零度以上の温度であれば、すべての抵抗で、熱運動によりノイズが発生します。このノイズは次式で表すことができます。

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ここで、k = ボルツマン定数(1.38E-23 J/K)です。これがジョンソン・ノイズです。これを小さくするには、この式のR(抵抗そのもの)、B(対象となる帯域幅)、T(絶対温度)のいずれかを小さくするしかありません。

■「抵抗を冷却すれば?」というのは甘い考え
この式は平方根になっています。そのため温度が室温(298K)から液体窒素の温度(77K)まで低下しても、ノイズは50%ほどしか改善しません。したがって液体ヘリウムでも使わない限り、抵抗を冷却してノイズを低減するという方法はあまり現実的ではありません。

■リアクタンス成分からはジョンソン・ノイズは発生しない
ジョンソン・ノイズは、純粋な抵抗成分によるものです。ジョンソン・ノイズを、図3-6のような複素インピーダンスで考えた場合は、そのインピーダンスの抵抗成分のジョンソン・ノイズだけで構成されます。したがって純粋な容量やインダクタンス成分(リアクタンス成分)は、インピーダンス量の一部にはなっても、ジョンソン・ノイズは発生しません。

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図3-6 抵抗を複素インピーダンスで考えた場合は抵抗成分がノイズ発生源

3-7 まとめ

抵抗という電子部品を実際の電子回路に応用する場合は、説明してきたように、いろいろな寄生効果、寄生成分を理解して、適切に活用することがポイントです。
意外と安易に使用しがちですが、アナログ&ミックスド・シグナル回路は、非常に緻密・精密ですので、十分に注意して設計やレイアウトをおこなってください。




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●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。

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