fromz_vol11
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中村圭一さん1961(昭和36)年生まれ。錫師。厚生労働省認定卓越技能者「現代の名工」で黄綬褒章受勲の先代・中村光山氏が1987年に「錫光」として独立。先代亡き後を圭一氏が継承する。埼玉県川口市産業技術・技能者顕彰「チャレンジ賞」受賞、第25回朝日現代クラフト展入選。伝統技法を踏襲する半面、若手デザイナーとのコラボレート作品など、新たな分野にも精力的に取り組む。手指の感覚を頼りに、ろくろを挽き、鎚を打つ昔馴染みのほっとする感覚と、刺激的なモダニズムの両立。机の上に置かれた、銀色に光り輝く酒器や茶器には不思議なたたずまいがあった。これら銀色の器は「錫(すず)」製品である。加工しやすく人体に無害な錫でできた器は、洋の東西を問わず広く使われてきた。特に、錫の器に酒をつぐと味がまろやかになるといわれ、酒器として愛用する人々も多かった。やがて、アルミニウムが安価に製造できるようになると錫器の需要は次第に減っていき、今では日本国内に手作り錫器職人は十数人ほどしかいない。錫光の中村圭一氏は、そんな錫器の伝統技法を今に受け継ぐ職人の1人である。錫器は、溶かした金属を型に入れて冷やし固める鋳造によって作られる。ピューター(錫に銀と銅などを少量加えた合金)のインゴットを、鍋に入れて熱すると銀色の「湯(液体になった金属)」になる。錫の融点は230℃ほどなので、小型のガス器具でも融かせるのだ(ちなみに、アルミニウムの融点は660℃、鉄は1538℃)。湯になっても、比重が鉄とほぼ同じ錫はずっしりと重い。この湯をセメントでできた型に流し込む(「鋳込み」)とすぐに錫は冷えて固まるのだが、型にくっつかないよう、ひび割れが入らないよう鋳込むのは、簡単そうに見えて細心の注意と経験を要する。型から取り出された錫の塊はすでに大まかな器の形をしており、これをろくろに取り付けて、かんなで形を整えていく。「ろくろ挽き」で使うかんなは200種類近くにもなり、刃物職人が作ったものを中村氏自身が微調整している。錫器にかんなをすっと当てると、薄くて長いかんなくずが削り出され、同時にかんなを当てられた部分が銀色に輝き出す。長いかんなくずは、ろくろの回転が安定し、最適にかんなを使えているという証だ。器の外側がきれいに整ったら、ろくろから外し、「鎚目(つちめ)」を付ける作業に入る。自作の治具で器を固定し、小さな鎚でリズミカルに叩いていく。器を回転させながら、斜めに鎚目を付けていくのだが、その間隔、並び方は手作業とは思えないほどきれいに揃っている。鎚目を入れたあとは、底に刻印を打ち、今度は内側をろくろ挽き。これで、細かな鎚目の入ったロックタンブラーの完成だ。錫器によっては、さまざまな色が付けられているものもある。これらは硝酸で表面を溶かして梨地(ザラザラとした表面加工)を作り、そこに漆で彩色を施している。埼玉県川口市にある「錫光」(すずこう)は、手作り錫器の数少ない工房だ。銀色に輝く錫器には、伝統と現代的感性の両方が息づいている。古から未来を照らす、錫器の輝き(左)錫合金(ピューター)のインゴット。錫は主にインドネシアなどから輸入される。(右)錫の「湯」の表面に浮かぶ、細かな埃などを取り除き、型に流し込む。(下)型に入れて固まった錫。気温や湿度によって、錫の固まり具合も変わってくる。(右)作りたい器の微妙なラインに合わせてかんなを選び、ろくろ挽きを行う。22from Z_Vol.11_2012

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