fromz_vol11
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「緊縮ではなく景気対策と雇用だ」、というクルーグマンの主張は、アメリカ経済だけの処方箋ではないだろう。やや辛口の「啖呵」が心地よい本。著者は、2008年のノーベル経済学賞受賞者で、現在プリンストン大学とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授である。最近では「ニューヨークタイムズ」連載の辛口のコラムが有名だが、本書もその辛口の味が濃厚。翻訳者による科白使いの効果もあって、まるで江戸っ子の啖呵を味わうような趣もある。クルーグマンが本書で言いたかったことは、巻末の訳者解説冒頭で端的に説明されている。「本書の主張はきわめて単純明快。いま(2012年)はまだ、リーマンショック以後の不景気が続いていてまともに回復していない。そして失業者の技能や労働市場での価値の低下から、その害が一時的なものではなく、長期的な被害になりつつある。だから景気回復策をきちんとやろうということだ。」本書の前半は、このクルーグマンにとっては明白な現状認識と解決の方向性がなぜ政府やFRB、数多の経済学者にとって共有されていないのか、について具体的に指摘(あるいは、糾弾)している。問題の元凶として、ケインズに関する右派および保守派(共和党中心)の論者によるアレルギーが指摘される。「ケインズ経済学が主張する政府介入は慎ましい限定的なものだけれど、保守派はそれを許せばすぐに母屋まで取られかねないと思ってしまうのだ。政府が景気停滞の対応に有益な役割を果たせることを認めてしまったら、あれよあれよという間に社会主義一直線だ、という具合に。ケインズ主義を、中央計画経済や過激な再配分といっしょくたにするレトリックは、右派ではほとんど普遍的なものだし、それはもっと物知りであるべき経済学者ですら例外ではない。」「ケインズ恐怖症」と関連する問題として、高所得者層(「金ぴか」層)と近い距離にいる保守派政治家や経済学者、そして学会の問題などが指摘される。ヨーロッパの問題にも触れた後、「緊縮論者」たちへの遠慮のない批判が展開される。経済停滞の元凶は何か?─ケインズ恐怖症と政治家、緊縮論者─「緊縮論者たちの求めるもの―雇用創出よりは財政赤字に注目、インフレのかけらでさえ偏執狂的に抑えようとし、大量失業に直面しても金利引き上げを求める―を見ると、そのすべては債権者、つまり貸し手に有利なもので、借りたり自分で生活費を稼いだりする人々には不利だ。」前半から中盤まで、アメリカ経済停滞の問題認識と原因(元凶)に関して、クルーグマンならではの実名表記を伴う辛口な指摘と糾弾の後、第12章から最終章にかけて具体的な施策が提起される。その中で、11月に迫った大統領選挙で、誰が当選しどちらの党が主導権を握るか、パターン別の見通しが描かれる。「オバマ刺激策は失敗したわけではない。単に刺激策が実施されたときに起こっていた、大規模な民間による支出の手控えを相殺できる金額に達しなかっただけだ。高い失業率が続くことは考えられたどころか、確実なことだった。」という表現が、クルーグマンの政治へのスタンスを物語っているだろう。それぞれの施策を成功へ結びつけるために必要なものとして、やや精神論めいた内容で本書は締めくくられている。クルーグマンの「行間」を埋めて余りある訳者解説も読み応えがある。全編に渡る“クルーグマン節“による指摘は、もちろん日本の問題解決のためにも貴重なものだ。「何が」必要なのか─具体的な施策と回復を阻害するもの─はじめに これからどうする?第1章 事態はこんなにひどい第2章 不況の経済学第3章 ミンスキーの瞬間第4章 たがの外れた銀行家たち第5章 第二の金ぴか時代第6章 暗黒時代の経済学第7章 不適切な対応の解剖第8章 でも財政赤字はどうなる?第9章 インフレ:見せかけの脅威第10章 ユーロの黄昏第11章 緊縮論者第12章 何が必要か第13章 この不況を終わらせよう!後 記:政府支出については実際の    ところ何がわかっているの?訳者解説なんとも大胆なタイトルだが、原題は“End This Depression Now!”と「!」付きなことを考えると、クルーグマンの思い(怒り?)を表すには適切なのかもしれない。ノーベル賞経済学者が、一向に回復しそうにないアメリカ経済を立て直すための要諦を、まるで江戸っ子の“べらんめい”口調のような啖呵で語る書。著者▪ポール・クルーグマン訳者▪山形浩生発行所▪早川書房発行日▪2012年7月20日定価▪1,785円(税込み)ページ数 ▪323ページ『さっさと 不況を終わらせろ』from Z ビジネス選書本書の章タイトル21from Z_Vol.11_2012

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