fromz-vol35
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できると思います。たとえば、新入社員研修の段階でSEの考え方に触れることができれば、自身の業務がモノづくり全体の中でどのような位置にあり、何を目的としているのかを意識できるようになります。その結果、自律的に行動できる人材が育ち、現場の活性化や組織の変革にもつながっていくのではないでしょうか。 日本の製造業には、「すり合わせ文化」と呼ばれる高度な調整力が根付いており、複雑な製品を高品質に仕上げる強みとなっています。一方で、職人技や経験といった暗黙知に依存しているため、属人化や技術継承の難しさが課題となっています。 モデルを用いてSEを行うMBSEは、こうした暗黙知を形式知化し、システムの構造や関連する情報を可視化するのに有効な手段です。システムに関わる情報をMBSEで一元的に管理することで、要求・設計・検証の関係性をトレースでき、矛盾や抜け漏れの防止、設計変更に伴う影響範囲の特定にもつながります。その結果、技術継承やノウハウの応用も円滑になります。 UNISECに 参 加 す る 多くの 学 生 が 模 擬 人 工 衛 星「CanSat」を自作し、ARLISS(国際学生宇宙衛星打ち上げ競記述形式だったため、記載漏れや仕様の曖昧さによるトラブルが頻発していました。そこでSEの考えに基づき共通フォーマットを作成し、情報の抜けや曖昧さを可視化することで、共有を円滑にしました。しかし、フォーマット内ではまだ自由記述なので一貫性の確保や情報更新のトレースが未だ難しい状況です。 先日、図研がある大学のARLISSチームのCanSatの設計プロセスをGENESYSでモデル化する取り組みを行っているという話を聞きました。「ここにMBSEの手法を取り入れれば、要求・設計・検証の関係性がトレースでき、先輩の失敗を後輩が繰り返すことなどがなくなり開発効率が向上するのでは」と評価されているようですね。確かに自由記述のレポートだと抜け漏れに気づけない、情報の関係性も一意でないなどの課題が多いので、とても良い取り組みだと思いました。技)に参加しています。以前は、レポートが完全な自由 SEやMBSEを企業に導入するに当たっては、トップダウンだけでは現場に根付かないと思います。重要なのは、現場で必要性を実感できる場を設けることです。学生の「CanSat」の事例のように、SE的アプローチがいかに役立つかを体験することで、理解はより深まります。 日本企業には「現場力」や「現物重視」といった優れた文化があります。これらはSEの理念と対立するものではなく、「暗黙知を形式知へ」「優れた職人技を再現可能な仕組みに」と発展させることで、組織全体の生産性向上やミッション達成に大きく貢献できると考えています。現代におけるアジャイル開発の普及は、重厚長大なSEの思想に、日本式の「すり合わせ」文化を融合させた好例とも言えるでしょう。 さらに、SEの普及は働き方そのものにも好影響をもたらします。私が留学したフィンランドでは、書類の作成一つをとっても目的や意義を確認するなど、SEの考え方が広く根付いていました。形式知化が進んでいるため、業務の引き継ぎが円滑に行われ、子育て世代にとっても働きやすく、生産性の向上や長時間労働の是正に大きくつながっていると感じました。 日本でSEが浸透しにくい背景には、「一つの専門を深める」ことを重視する職人気質や教育文化があるのかもしれません。しかし、本田技研工業における“ワイガヤ”のように、日本の成功事例の背後には実は、SE的な集合知の効果を最大化する思考が見え隠れしています。そうした事例を単なるカリスマ経営者の美談としてではなく、「暗黙知としてのSEが実践されている成功例」として捉え直すことで、SEやMBSEの重要性が見直され、日本の製造業の強みをより引きだせるようになると信じています。4kg級超小型衛星OrigamiSat-1地上検証モデル(左)と1kg級模擬人工衛星CanSatの例(右)14暗黙知に頼る設計現場をSE・MBSEで形式知化トップダウンだけでは根付かない導入には「現場での実感」が必要from Z_Vol.35_2025

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