私は大学で宇宙工学を専門とし、宇宙構造物の研究Intrviewefrom Z_Vol.35_2025に取り組んできました。折り紙の発想を応用した展開構造を実験する超小型衛星「OrigamiSat-1」の開発を主導し、現在は「OrigamiSat-2」プロジェクトを学生と共に推進しています。達成を最優先とした全体設計が特に重要です。人工衛星のような複雑なシステムの開発には、電源・通信・構造・熱など多様な専門分野の連携が不可欠ですが、日本の理系教育の多くは縦割りで、たとえば機械系の学生が通信や電源系に触れる機会は限られています。 そうした中で、分野を跨いでミッション全体への理解と連携を促すものが、システムズエンジニアリング(SE)です。ミッション達成という上位目的から逆算して設計するSEは、分野をつなぐ“共通言語”として重要な役割を果たします。整理・共有できるモデルベース・システムズエンジニアリング(MBSE)にも注目が集まっています。視覚的モデルで表現することで、システム全体の整合性や機能の背景がより明確になり、認識のずれを防げる点で有用です。 設計・開発の現場で重要になるのが、「検証(Verification)」と「妥当性確認(Validation)」という2つの概念です。前者は「設計通りに正しく作られているか」を問い、後者は「目的やニーズに合っているか」を問います。日本の製造業や理系教育では前者が重視されがちですが、宇宙システム開発では後者の妥当性確認の視点が不可欠です。 宇宙ではメンテナンスそのものが難しいため、初期段階から「どうすれば成功するか」を考えた設計・検証が求められます。要求を早期に明確化することで、無駄や手戻りが抑えられるためです。ところが、たとえ設計通りに完成していても、顧客の期待や使用環境に合っていな 打上げコストの高い宇宙開発においては、ミッション 近年では、要求・設計・検証などの情報を視覚的にければ、最終的な成果にはつながりません。したがって開発のプロセスの中で必ず妥当性確認を反復し、設計・製造へ反映する全体最適化が欠かせません。 妥当性確認の重要性を示す象徴的な例として、2011年の原子 力災 害時の放 射 性 物質 拡 散 予測システム「SPEEDI」が挙げられます。予測精度としては検証されていたのでしょうが、肝心の住民の避難行動にはほとんど活用されませんでした。データ解析での検証は行われていたものの、それを現場の避難行動に結びつける妥当性確認が不十分だったと考えられます。 このような事例を通じて、両者の違いを学生に理解してもらうよう努めています。日本の工学系の学生は「仕様通りに設計する力」は高くても、「なぜその仕様なのか」「どの場面で役立つのか」といった視点を見落としがちです。妥当性確認を開発過程で意識することで、より広い視野から設計に向き合う力が養われると考えています。 学生を指導していて強く感じるのは、モノづくりに取り組む際、多くの学生が 「何から始めればよいか分からない」状態に陥ることです。これは、理系教育が分野個別の専門知識に偏り、顧客に価値をもたらすシステム全体を俯瞰する機会が少ないことの弊害だと考えています。 こうした状況で、「CanSat」のようなプロジェクト型の学びが非常に有効です。模擬人工衛星を自ら設計・製作・運用する過程で、通信の途絶やロケット放出時の破損、運用のしにくさといった失敗体験を通じて、学生たちは「どうすればミッションを成功させられるか」という最上位目的への意識が芽生えます。そこから自然と、「なぜこの部品が必要なのか」「どこがボトルネックなのか」といったシステム全体を見通し細部へ分割する視点に至ります。これこそがSEのプロセスを体感する貴重な機会であり、私はあえて学生に小さく失敗をしてもらうことを重視しています。 また、異分野のメンバーと協働するには、責任の分担や情報共有が欠かせません。そうした経験を通じて、役割分担の意味や人間関係構築の重要性にも気づくことができます。このプロセスは製造業の人材育成にも適用13複雑な要素が絡み合うシステム開発でMBSEは分野横断の連携を支える“共通言語”「正しく作る」だけでは不十分求められるのは目的志向の設計小さな失敗の積み重ねでSEの重要性に気付く
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