このとき重視したのは、「壊れないものを作る」ことではなく、「決められた期間、必要な性能を維持する」ことでした。不具合が起きる前提で、それをどうカバーするかまでをシステムとして設計に含める。この考え方によって、地上用の部品にも十分転用の余地があることに気づき、地上技術を宇宙に活用する可能性が広がりました。 こうして当研究室で民生部品を活用して開発したカメラは、小惑星探査機「はやぶさ2」やJAXAのソーラーセイル実証機「イカロス」にも採用されました。「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」への最初のタッチダウンに成功した瞬間の映像を撮影したのは、当時、車のバックモニターに使われていた民生部品をベースにしたカメラでした。 このように、地上用の部品でも適切に評価すれば宇宙での転用が可能です。日常的に使われる計算機やセンサーも「宇宙で使えるかもしれない」という視点で見直せば、新たな可能性が広がります。新規開発に比べてコストを抑えられますし、実績のある民生品には信頼性も備わっています。 「宇宙機器は高い信頼性が求められて大変だ」と言われますが、私はむしろ、地上製品の方がはるかに厳しいと思います。何千、何万という製品がさまざまな環境で使われ、そうしたなかで不具合を一切起こさないという要求を満たすのは至難の業です。もちろん、宇宙は特殊な環境ではありますが、宇宙機器が使われる「環境」と「期間」は明確に定義されている場合が多い。例えば、地球低軌道では地磁気に守られて放射線量は比較的穏やかですが、静止軌道や月面、さらに外側の空間では放射線環境が厳しくなっていきます。加えて「極低温になった場合はヒーターを入れてほしい」というように、運用条件で対処することができます。 こうしてみると、宇宙は一見過酷な環境でありながら、使用条件が明確で制御可能な「やさしい」側面を持っているとも言えます。だからこそ、地上で実績のある製品や技術を正しく評価し、宇宙に転用するというアプローチは非常に合理的なのです。 私が現在注力しているテーマのひとつが、「宇宙で暮らす」ための技術開発です。これまでの宇宙開発は「行って帰ってくる」ことが目標でしたが、近年では宇宙観光や民間宇宙ステーションの構想が進み、「宇宙で暮らす」時代が現実味を帯びてきました。 宇宙で一定期間生活するには、ロケットや宇宙船といった機器だけでなく、空気や水の循環、温湿度管理、資源再利用といった環境制御技術が欠かせません。言うなれば“ミニ地球”を構築するような取り組みであり、生命維持・環境制御・資源循環といった、従来の宇宙開発とは異なる領域の技術が深く関わってきます。 こうした視点で見ると、宇宙と地上はまったく別の世界ではなく、目指す技術の方向性は表裏一体であると言えます。私たちのスペースシステム創造研究センター(SSI)では、これを「地上–宇宙デュアル開発」と呼んでいます。 宇宙製品に求められるのは、小型・軽量で、かつメンテナンスフリーであること。とりわけ宇宙空間では、専門の技術者による修理が難しいため、故障せずに動作し続けることが重要です。こうした技術が確立されれば、宇宙に限らず地上でも高く評価されるはずです。例えば、災害時の仮設インフラや、孤立地域での生活支援など、宇宙と同様に過酷な条件下でも活用が期待できます。冒頭で紹介したカメラのような電子デバイスにとどまらず、より広い分野において、日本の産業技術が「宇宙で暮らす」ための基盤を支える可能性は大いにあると感じています。 「 はやぶさ2 」に搭載されたカメラスペースコロニーデモンストレーションモジュール10宇宙は特殊な環境だが、使用条件が明確で“やさしい”側面も地上の技術を宇宙につなげる「地上- 宇宙デュアル開発」という視座from Z_Vol.35_2025
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