図6 人をつぶすDX モチベーションが下がるDX 「流行っている」からのDX DXのためのDX 流れづくりを忘れたハコものDX カイゼン意識を高めないDX※5 建築ものづくり論 -- Architecture as “Architecture”藤本 隆宏, 野城 智也, 安藤 正雄, 吉田 敏 (編) (2015 有斐閣)ものづくりは「流れづくり」であり、「流れをつくる人づくり」である。よって、ものづくりDXは、「流れづくり」「人づくり」を促進し、競争力の向上や従業員の「成長実感」に結びつかねばならない。「デジタルものづくり」とは人づくり人づくりと両立するデジタルものづくり競争優位「勝ち筋」の見えるデジタルものづくり三位一体流れづくり流れづくりと両立するデジタルものづくりプロジェクト推進役には強いリーダーシップと製品開発プロセス全体への理解が必要であり、そのリソースを確保できる組織能力も問われることになります。 先生がおっしゃる「賢人」とは、私の理解ではプロダクトマネージャーやシステム設計者など、アーキテクチャを担うプロフェッショナルを指していると思うのですが、多くの企業でシステム設計者は不足しており、詳細設計者に比べて圧倒的に少ないのが現状です。ただ、システム設計のデジタル化が進めば、詳細設計者の中から、システム設計に適性のある「筋のいい」人材を見出し、育成することが可能になるのではないかと考えています。藤本氏 まさに人づくりが重要であり、DXはこれを支援するものであるべきですね。 自動車産業を例に挙げてもわかるように、今後、モノづくりはますます複雑化していきます。大型人工物のモノづくりの複雑さが一定の閾値を超えると、その運営方法は「円卓会議方式」に近づいていくというのが、拙著『建築ものづくり論』※5の共著者で建築学者である野城智也氏の見解で、私もそのように考えます。現在のモノづくりが一つのオーケストラだとすれば、さらに複雑なオペラをまとめるようなものです。オペラでは楽団、合唱団、大道具など、各分野に責任者が存在し、それぞれを統括しています。このような環境では、従来の「俺のコンセプトについてこい」といったディレクター型のリーダーシップだけでは限界があるかもしれません。加えて必要なのは、複数のコンセプト・リーダーが円卓会議式に徹底的に話し合いを重ね、その中から最適な方向性を導き出す、プロデューサー型のリーダーシップです。そして、最終的には「要するにこういうことだよね」と全員が納得できる結論をまとめることが重要です。その一方で、プロジェクト遂行に必要な資源や正当性を確保するのもプロデューサーの仕事です。このように、単に「俺についてこい」型に留まらない、新しいタイプのリーダーシップが求められるようになってくるのです。上野 なるほど。これからのシステムズエンジニアには、指揮者ではなく、プロデューサーとしての能力が求められるようになるということですね。藤本氏 むろん従来型のディレクターも必須ですが、プロデューサーとディレクターの連携がより重要になるということでしょう。日本の製造業の勝ち筋は、プロデューサー、ディレクター、システムアーキテクト、現場リーダーなどの「人づくり」をしっかり行い、きちんと「流れづくり」をした上で、「めんどくさいモノを作る」ことにあります。複雑性を抑え込む優れたアーキテクチャに基づいた製品を変種・変量・変流で生産することができれば、その「めんどくささ」は他国には真似できないものになります。「面倒くさい仕事は日本に任せろ」という独自の競争力を確保できれば、生産人口が少なくても、日本のモノづくりはまだまだ成長できると考えています。上野 お話をうかがって、私たちエンジニアリングITベンダーの役割は、その「めんどくさい仕事」を簡単に精度高くこなせるよう、DX製品やサービスを向上させていくことにあると改めて学ばせていただきました。ぜひこれからもいろいろとご指導ください。本日はありがとうございました。9from Z_Vol.34_2025
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