fromz-vol34
7/24

※3 能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか 藤本隆宏(著)(2003 中公新書)※4 「人工物」複雑化の時代--設計立国日本の産業競争力 藤本隆宏(編) 第7章「家電と自動車」を上野が担当(2013 有斐閣)DXの目的は複雑化を抑え込み付加価値を上げる組織能力を支援することているのは、自動車のアーキテクチャを変えて、日本の競争力を下げることが目的ではないかと私は思っているのですが、この点についてはいかがでしょうか。藤本氏 メカ的なハードウェアに関する限り、EVか内物理法則に支配された高速移動体であるという本質は変わりません。公道を時速100kmで走行し、万が一の場合には重大事故を引き起こす可能性のある鉄の塊を、ミリ秒単位で制御する必要があります。このような機能と擦り合わせ、つまりインテグラル型の設計思想が不可欠です。EV市場の筆頭企業であるテスラの場合も、自社製の半導体を採用するなど、ハードウェアと電子制御系の両面でインテグラル型を意識した取り組みを行っていますし、中国メーカーもBYDなどの先頭集団は、メカ面でも相当なレベルにまで達しています。高性能EVのメカ的ハードウェアに関する限り、当面はそう簡単にパソコン化、つまり「業界標準部品の寄せ集め」化することはないと思います。上野 先生の著書『能力構築競争』※3で、モノづくり組織能力の重要性を説かれています。その中で、3D CADやCAEなどのITについて、少し触れられていましたが、その10年後に編さんされた著書『人工物複雑化の時代』※4では、さらに深く一章を割いてモノづくりとITの関係を解説しています。この章は私が執筆担当させていただき、エレキ・メカでのCAD違いやBOMの役割について説明しました。さらにその10年後の今年、デジタルものづくり研究会を発足されて、モノづくりとITの関係を分析・フォーカスが大きくなってきていますが、ものづくり経営研究の視点からもITの関係はますます重要になってきているということでしょうか。藤本氏 製品やシステムの複雑化がこの20年急激に進んだ結果、技術的な見落としや知財の侵害、環境への負荷などモノづくりの課題も複雑化し、一部門だけで解決できないことが多くなっています。これは経営者や設計者にとって明らかな脅威である一方、この複雑化を抑え込み、かつ付加価値を上げていくことができれば、新たなビジネス機会の獲得にもなります。燃機関かに拘わらず、自動車が1トン以上の重量を持つ構造の複雑な連立方程式を解くためには、相当な設計議論する活動を始められています。この20年でITへの そのために、最適なアーキテクチャ、つまり機能と構造の関係をきちんと見定める仕組み、あるいはシステムアーキテクトの仕事が重要になるのです。機能を実現する構造の全部に最高級な部品や素材を使う必要はありません。勝負所については完全最適設計のカスタム部品を使うが、そこまでクリティカルでない部分については割り切ってコスト優先の標準部品を使うなど、切り分けも必要です。中国のモノづくりは多くが単なる低品質コピーで始まりましたが、今や上手な割り切りによってコストパフォーマンスを向上させています。日本企業は、こだわり設計をやれる力を維持する必要はありますが、そればかりだと、過剰品質に陥ります。競争の相手次第で、ライバルの割り切り設計にも対応できるようにしなければなりません。 ハイスペックを追求すればビジネスとして成功する良い商品になるとは限らないし、安ければ売れる製品ばかりでもありません。社会課題や市場、ユーザーの要求や技術的な制約条件を抜け漏れなく完璧に取り込んだうえで、それらと矛盾しない、つくるべき製品仕様の最適解を導き出すことが、不可欠です。 すでにフロントローディングによる課題の前倒しや、設計情報の転写など、開発の効率をあげていくためのITとして、3D CADやCAEが使われていますが、製品やシステムのアーキテクチャを導き出すためのITも必要でしょう。上野 まさにこれは、当社が提起している、「システム設計」の必要性とそのデジタル化です。そもそも要求が明確に定義されていなければ、割り切り設計もできませんし、システムが複雑であるならば、サブシステムとの整合性は上流で取っておかないと、後で手戻りが発生します。全体的な目標や設計意図をメンバー全員で共有する、その際に共通のフレームワークや言語を使うこと、つまりデジタル化することが、広義のフロントローディングにも貢献すると考えています。7from Z_Vol.34_2025

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る