技術を高めることで更なる進化を目指す伝統的な磨き工具のヘラを使って地金の表面を磨き上げていく。初めは細いヘラで全体を磨いてから、太目のヘラで仕上げ磨きをする(左上)3本から最大18本までの線材を万力に固定して手作業で編み込んでいく(右上)手編み材と枠をつなげるための「ロウ付け」。融点の低い貴金属ロウをガスバーナーで溶かして接合部分に流し込むことで接合する。温度やロウの量など、細心の注意を払って作業する難しい工程(左)割れを防ぐためにナマシて柔らかくしたら、リング状になるようゆっくり曲げていく (右)不要なロウを擦り落としたり、枠の表面を整えたりするため、やすりがけを行うやすり跡などが残らないようていねいに下地処理をする。ペーパーは1,200番の少し粗めのものから3,000番、5,000番と細かくしていく※「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」という格言東京都葛飾区金町4-17-2 ☎ 03-5648-7056公式サイト http://www.teami-higaki.com/を線状に引き延ばす)、②撚り線加工(よりせんかこう・貴金属糸2本を1本に撚り合わせる)、③手(枠のあるデザインの場合のみ)、⑤ロウ付け(溶接)、⑥やすりがけ(不要なロウなどを擦り落とす)、⑦磨き(光沢を出す)の7つに分けられる。を超えられないと思っていた檜垣氏にとって、彫金の作り手としての新たな可能性を見出した瞬間だった。この時、檜垣氏は39歳。その後、会社を辞め、職人としての人生をスタートさせた。 「現在、市場に流通するジュエリーの多くは樹脂ワックスなどを使ったキャスト製法で作られています。CADや3Dプリンターで原型を作れば、大量生産は容易ですが、細部へのこだわりが表現できず、似たようなデザインになりがちです。一方、伝統的な職人技で仕上げればオリジナリティの高い面白い作品ができます。ただし、生産性が低いため商売として成り立つのかが大きな課題でした。それでも、非常に手間のかかる手編みジュエリーはキャスト製法では絶対に真似できない繊細な美しさがあるため、宝石中心の一般的なジュエリーでは満足できない個性的なジュエリーを求めるお客様に受け入れられる自信があり、挑戦しました」は伝統技法とオリジナリティの高さから、2015年には葛飾ブランド、2019年には東京手仕事に認定された。新たな販売ルートの開拓に力を注ぎ、百貨店の催事場での実演販売や自社サイトのオンラインショップ、そして大手貴金属会社のOEMと、さまざまな取り組みを通じて顧客を獲得し、事業を拡大していったのだ。手編みジュエリーに使用する貴金属は金やプラチナ、シルバーなど。金もピンク、イエロー、ホワイトの3色のカラーゴールドを使い、単色または複雑に組み合わせて独自のデザインに落とし込んでいく。製作工程は大まかにいうと、①線引き(貴金属編み(撚り線や丸線を手作業で編む)、④枠作りどの工程も気の抜けないものだが、中でも難しいのがロウ付けなのだそう。「編み目と枠、そして編み目同士を接合檜垣氏の目論見通り、手編みジュエリーする場合、なるべく最小限のロウで仕上げないと美しいジュエリーにはなりません。また、編み目は枠よりも熱伝導率が高いため早く高温になりやすく、溶けたロウが編み目に流れてしまうという傾向があります。そのため、編み目をロウでつぶさないよう、ガスバーナーでの作業を慎重に行う必要があります。やり直しがきかず、仕上がりを左右する重要な工程なので一番緊張しますが、その分やりがいがあります。うなぎ職人のような例え※を用いると、“手編み3年、仕上げ8年、ロウ付け一生!”ですね(笑)」そんな檜垣氏に、今後の夢を聞いた。「手編みジュエリーを生み出して20年経ち、ようやく少し成果が出てきたように感じます。貴金属の種類や撚り線の太さと配色、その組み合わせなど、工夫すべき点はたくさんあります。そして、それらのアイデアを実現させるためには技術力を高めることが不可欠。心身ともに健康でいて、誰も見たことのない新しい手編みジュエリーを作り続けたいです」檜垣彫金工芸21from Z_Vol.34_2025
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