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本田技研工業株式会社電動事業開発本部BEV開発センターBEV企画統括部開発プロセス改革部開発プロセス課課長チーフエンジニア飛鷹征志氏大手重工メーカーでの宇宙開発を経て2004年本田技術研究所入社。パワートレイン研究開発部署でエンジン先行研究や過給エンジン制御システム開発、アコードやNSXなどの量産開発に携わる。MBDやSE/MBSE、新制御システムアーキテクチャ、開発環境導入の開発プロセス改革プロジェクトリーダーを経て、2019年より四輪開発全体プロセス改革のリーディングを担う。2024年より現職。「実はMBSEの手法を取り入れて解決しました」と、後から明かす「正しい状態」の定義が重要方を同時に習得することは困難だと判断しました。そこで、途中から方針を変更し、システムズエンジニアとモデルエンジニアの役割を分け、それぞれ別の人間が担う体制にしました。現在では、システムズエンジニアを問題解決のための「目的」の設定を主導して行う専門人材、モデルエンジニアはシステムモデルを用いてシステムズエンジニアを支援する専門人材として育成しています。大久保氏 両者の役割が異なることから、それぞれに求めるパーソナリティーにも違いがあります。システムズエンジニアには「自身の責任範囲を限定することなく、複数の専門領域を跨いだ高い視座と柔軟な思考を持つこと」が期待されます。考えだけが崇高な「孤高の人」ではなく、相手の気持ちに寄り添い、うまく意見を引き出せるコミュニケーション能力の高さが重要です。ちょっとした井戸端会議に自ら参加し、雑多な問題をいったん自分事として捉え、それを適した誰かの問題に変換できるタイプですね。 他方モデルエンジニアは、システムズエンジニアの意図を理解し、その実現のために適切な言語とモデルを考える、いわば「参謀」であり、システムズエンジニアの抱える複雑な問題を切り分けて解決策を提案する能力が求められます。その視点で言えば、モデルエンジニアは必ずしも特定領域のエキスパートである必要はありません。もちろん、ある程度の知識は必要ですが、システムズエンジニアの意図を抽象化して捉えられる素養のほうが重要だと考えています。飛鷹氏 現在、パワーユニット開発の検証フェーズを題材に、情報の構造化とMBSEの活用を進めています。パワーユニットは「走る」と「止まる」を同時に担っているため、時に相反する要求を調停する必要があり、SEの実践に適した題材だと考えます。また、ブレーキ、モーター、バッテリーなど異なる領域の専門家の間で調整する点でも適しています。MBSEの活用テーマは簡単に決まるものではなく、現場で試行錯誤を繰り返しながら模索しています。一つ言えるのは、複数部門や専門分野のメンバーが関わるシステム開発の方が、最終的な効果が大きくなるケースが多いということです。そのため、視座が高く拡張性のあるテーマを選ぶことが重要だと考えます。また、労力の観点から言っても、初手で設計から検証までの全プロセスを対象にするよりも、特定のフェーズに絞る方が現実的です。大久保氏 加えて、MBSEに取り組む上では言葉の使い方にも気をつけています。MBSEは単なるツールではありませんから、「MBSEを適用する」というような表現は避けています。そのため、当社の優秀なシステムズエンジニアたちは「MBSEをやりました」といった発言は絶対にしません。むしろ「開発がうまくいった」「問題をスムーズに解決できた」といった評価を周りから受けた時に、「実はMBSEの手法を取り入れた」と後から「からくり」を明かすようにしているのです。このような工夫や苦労を積み重ねながら、MBSEが社内に浸透するように取り組みを進めています。飛鷹氏 また別プロジェクトとして、ホンダは図研と共同で、SEによって作られるあらゆる必要な情報とそれぞれの関係性を保持する情報構造体の運用管理と保守・保全についての試行実験を進めています。従来、開発情報は社内で異なるデータベースやフォーマットで点在し、例え一貫性や整合性が欠けていたとしても、そこに人が介在し、修正、補完することで対応できていました。しかし、MBSEではシステムモデルを「信頼できる唯一の情12from Z_Vol.34_2025

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