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本田技研工業株式会社電動事業開発本部BEV開発センターBEV企画統括部開発プロセス改革部部長シニアチーフエンジニア大久保宏祐氏2000年 本田技術研究所入社、先行エンジンのシステム開発を担当。GDIリーンバーンエンジン、アコード、NSX等の燃費・排ガスシステム、制御設計、適合テスト、パワートレイン開発手法改革に従事。システム設計から詳細シミュレーション開発、実機テスト、各種設備導入などの経験を活かすべく、2018年 開発プロセス改革室 マネージャーに着任し自動車の開発プロセス改革を推進、同時にMBSEの社内展開を開始。2024年より現職。※1 ここでは、MBDの一部にMBSEが含まれるという考えが前提となっています。目指したのは、「全体俯瞰による合理的なシステム開発」「目的」より「手段」を先行したことによる過去の失敗を乗り越えて飛鷹氏 ホンダでは、2010年頃から四輪車のエンジン制御開発において、車の振る舞いを明らかにするためのモデルベース開発(Model-Based Development、MBD)を行っています。また、その延長で、「知見の見える化」を目的に、欧米の動向も参考にしながら、MBSE導入に取り組んでいました。一方で量産開発では、開発初期の性能検討そのものの不足による手戻りが多発し、その結果、開発品質や効率の悪さなどが大きな問題になっていました。そこで、車一台分のシステムの全体俯瞰による合理的な開発を目指して、2017年から改めて、SEの本質的な考え方に立ち戻って、目的にフォーカスしたMBSEの導入を試みることにしました。大久保氏 ここ、7~8年の間に自動車の開発工数は急増し、開発現場の負担増や長期化が深刻化しています。その背景には、自動運転車の普及やシステムの大規模化・複雑化があります。車の基本機能である「走る」「曲がる」「止まる」が高度に連携するようになり、これまでのように部品を組み合わせるだけでは車全体の制御が難しくなっています。そのため、車両内部だけでなく「どのような環境で走るか」というようなコンテクストを考慮し、高度で複雑な要求を効率的に整理してアーキテクチャの設計を行うことが求められています。MBSEの導入により、車一台分のシステム全体を俯瞰できるようになれば、それぞれが相互に影響を及ぼし合う車両システムへの要求を、開発初期から明確化できます。そうすることで車両のシステムアーキテクチャ設計、構成システム、機能、振る舞い、構造などを段階的に詳細化していけると考えています。飛鷹氏 しかしながら、我々のMBSE導入の道のりは決して平坦ではありませんでした。2010年から始めたMBD※1の取り組みでは、「車を丸ごと見える化したい」という思いから、まずはSysML言語によるツール教育が必要だと考え、「モデルベース開発講習」としてマネジメント層を含む4,000人以上の社員に対し、要求分析やダイアグラムの書き方などの教育を実施しました。しかし、この取り組みを4年間継続したものの、受講者からは「ツールの使い方は学んだが、どう活用すればよいのか分からない」という声が上がる状況が生まれてしまいました。結果として、「MBD」というキーワードは浸透したものの、開発現場での効果的な実践にはつながらないという結果に終わったのです。大久保氏 この失敗はひとえに、「手段」の習得に偏りすぎたことにあると考えています。モデリングによって車を見える化できれば統合も容易になる、そのために大規模なツール教育を行うというロジックでしたが、現実はそう甘くはありませんでした。まず製品のコンセプトを明確に定め、そこから意図を持って機能を設計し、部品同士の最適な繋がり方やインターフェースを構築する必要があったのです。非常に苦い経験にはなりましたが、この過程を通じて、MBSEの目的は単なる「見える化」ではなく、「目的」を定め、それに沿ったアーキテクチャを設計することだと、身をもって理解しました。飛鷹氏 この失敗を踏まえ、2017年以降に行ったMBSEの取り組みでは、システムモデルを活用して現場の問題を解決できる人材教育に重点を置きました。当初は各開発部門から選ばれた少数精鋭のシステムズエンジニア候補に対し、SEの本質的な考え方に加え、SysMLツールを用いてシステムモデルも扱えるよう教育を施しましたが、現場の業務が多忙でモデルを扱う時間を確保できず、両11from Z_Vol.34_2025

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