なる硯石の採掘を行ったり、隕石や月の石で硯を製作したりといった活動につながっていったのだろう。もっと多くの人に硯を気軽に使ってほしいオーダーメイドを受けた際の青栁氏の硯の制作過程の一例を紹介すると、まずは採石してオーダーに沿った硯石を調達する。次に設計図を引き、原石を大まかに切り出したら、手彫りをしていく。ものにより数日から数週間、長いものだと1年以上かかるものもあるそうだ。その後、丹念に磨きをかけ、全体の調整を行っていく。そして墨がけや漆がけなどの仕上げを施して、いよいよ完成となる。製作活動に加えて、硯をもっと知ってもらう活動にも力を入れている。ひとつの例がアウトドアブランドの「モンベル」社とコラボレーションして作られた携帯用毛筆セット「野筆」だ。採石で山へ行くと川の水で墨を磨り手紙を書くという青栁氏の行動にインスピレーションを得て生まれた商品で、これが見事にヒットした。石に触れていろいろな角度から見ながら、形はもちろん、強度や密度など、石の性質を探るデザインによって、側面などに彫刻を施す。数種類の鑿を使い分け、石に表情を付けていく。青柳氏は中国の伝統的なものから日本の製法まで、幅広い硯を製作できる。祖父の時代から、製作してきた硯の製法に関する情報を蓄積しているため、あらゆる時代の硯を再現できるそう石の硬さや場所により、さまざまなタイプの砥石ややすりを使って丹念に磨き、研いでいく。青柳氏によれば、その石の持つクセに抗わないようにするのがコツだとかと思っています。硯から作者である自分という存在を切り離し、使ってくださる方にスポットライトを当てたい。ですから、オーダーされた方からの依頼がない場合は銘を切らないようにしています」げるとしたら、石にかける情熱だろう。「中国で1000年以上使い続けられるような古硯は、石の美しさが最大限に引き出されているものが多いです。その石が持つ本来の姿を損なうような造形や彫刻はされていません。良質な石を探し出し、石紋の美しさを生かしながらも、墨を磨りやすくするのが製硯師の仕事。使ってくださる方が長く大切にしたいと思う硯を作るため、石について学び、実際に触れ、その石の本質を見抜くことはとても大切なことだと思っています」そういった青栁氏の信念は硯職人である祖父や父の影響もあるのだろう。持ち主より前に出ることなく、硯の修復や製作を手掛けてきた“職人としての魂”を自然と受け継いでいるのだ。もうひとつ、青栁氏ならではの特性を挙そんな青栁氏だからこそ、北海道で初と厚みを測る。硯にする場合、少なくとも何センチ以上というような規定はなく、薄くても十分なのだとか完成した硯をあらゆる角度からじっくり見て検品する。復元する場合は、その時代に合わせて蛍光灯の色や種類も変え、硯の色を吟味するという緻密ぶりだ形が決まったら、鑿を使って手彫りしていく。石に図面を書くことはせず、設計図に沿っておもむろに掘り出す。石の密度や硬度は場所によって異なる場合もあり、都度調整していく。ちなみに、台の両サイドにこんもり積もっているのは削った石の粉である「毛筆は、実は今の生活でも取り入れやすい身近で便利な筆記用具であることを知って欲しかったのです。実際、サッと手軽に書けるので、私も最近では年賀状を野筆で書くこともあります」そんな青栁氏には、現在、ふたつの夢があるという。「ひとつは約40億年前のもので地球最古の石といわれる“アカスタ片麻石(へんまがん)”を使った硯の製作です。地球のルーツともいうべき石が、どんな硯になるのか、とても興味深いですね。もうひとつは、王道の“ザ・硯”の製作です。これは夢というより、職人を目指して以来、日々絶えず行っていることですが、石と向き合い技術を磨いて硯を製作する、その自己ベストの更新です。今よりも、ずっと高みを目指していきたいです」2023年には、紫式部が『源氏物語』の着想を得た時に使用していたとされる硯を再現するプロジェクトにも参加した青栁氏。今後も、どのような石を見つけて新しい硯を製作するのか、青栁氏の活動から目が離せない。寶研堂東京都台東区寿4-1-11 ☎ 03-3844-2976公式サイト http://houkendo.co.jp/21
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