fromz-vol33
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「SEC」はスマホのカメラと光源を利用し、眼科医療機器と同等の診察を可能にするスマホアタッチメント型医療機器。これまでに、スリット光と白色拡散光、青色拡散光を切り替えられ、白内障やアレルギー性結膜疾患、ドライアイなどの眼の表面の診断が可能な前眼部モデルと、一部眼底の観察が可能な直前鏡モデルをリリースしている。高価な眼科医療機器がなかったり、眼科医が常駐していなかったりする医療僻地においても看護師などが眼の画像を撮影でき、それを専用アプリでクラウドにアップすることで、眼科医が遠隔地から診断を届けることが可能になる。OUI Inc.の創業者であり眼科医の清水映輔氏がNPO法人の活動でベトナムの農村に訪れた際に、眼科医がおらず医療機器も不足しているため、現地スタッフがスマホの光で診察しようとするのを見て着想を得たという。このSEC開発においてこだわった点や試行錯誤した点を同社の最高執行責任者である中山慎太郎氏に伺った。「SECの技術的な強みは、外部光源ではなくスマホの光源をそのまま利用している点です。外部光源を利用すると、どうしても本体が大きくなりますし、複雑な電気系統が入ることで故障のリスクも高まります。SECは約15gと軽量で、ポケットに入れて持ち運べるサイズを実現しました。また、眼科検査の経験のない非眼科の医師や看護師などのコメディカル※の方に使っていただく中で、デバイスと眼の適切な距離をつかみづらいという課題があったので、眉毛に沿わせるだけで正しい距離で撮影が可能になる補助具も発明しました。これにより、誰でも簡単に使いこなせるデバイスにレベルアップしたと思います」(中山氏)現状のモデルはApple社のiPhone SEや8といった単眼レンズ搭載機のみ対応だが、3Dプリンターで作成しているため、Android機への対応も技術的には十分に可能であり、将来的な対応も検討しているという。SECはすでに日本に加えて、EUやインドネシアなど海外6カ国で医療機器として登録されており、40カ国以上で実証を進めている。海外での展開の際には、医学部発のベンチャーならではの強みを活かしていると中山氏は話す。「SECによって診断を届けることはできますが、いかに現地の眼科医と一緒に診断から治療までのバリューチェーンを構築できるかが一番重要だと考えています。そのためには、医療機器のベンダーとしてではなく、新しい眼科医療を共創するパートナーとして、現地の先生方に認識していただかなければなりません。そのためにSECを活用した共同研究を世界中の先生方と行い、“SECのアカデミックなエビデンスを一緒に作っていきませんか”という提案をしています。このようなアカデミックな領域からの協働も提案できるのが、医学部発のベンチャーである我々の強みのひとつだと思っています」(中山氏)眼科医療をいかに患者に届けるかを最優先に考えている同社が今後どのように事業を展開していくのか、そのビジョンを伺った。「途上国の貧困層の方々など、本当に困っている人たちに、我々のテクノロジーを使っていかに医療を届けるかを常にこだわって活動しています。また、SECで収集した眼科的画像を機械学習にかけ、さまざまな眼科疾患の診断AIの開発にも取り組んでいます。また、SECの携帯性を活かし、企業検診など、より多くの方の身近に眼科診断を届ける取り組みも始めています」(中山氏)1スマートフォンに装着するアタッチメント型の医療機器「スマートアイカメラ」と実際の診察風景。画像のアタッチメントは眼の前側(前眼部)用で、細隙灯顕微鏡と同様に眼瞼、角結膜、前房、虹彩、水晶体、硝子体の観察を行い、白内障などの眼科疾患を診断できる。使用するのはスマートフォンの電源のみ。日本では2019年に医療機器として認められている。2撮影した画像や動画が専用アプリ経由でクラウドにアップロードされ、眼科医が遠隔読影を行う。診断書や紹介状の作成フォームも備えている。OUI Inc.最高執行責任者URL◦https://ouiinc.jp※ 医師を除く医療従事者の総称。世界には4,000万人を超える失明者がおり、原因の半分は予防・治療が可能な病気によるものだ。しかし、新興国など適切な診察が受けられない地域も多い。そこで注目されているのが、スマートフォン(以降スマホ)のカメラを活用して専用の医療機器と同様の診察を可能にする「Smart Eye Camera(以降SEC)」だ。SECは、現役の眼科医である清水映輔氏が起業した慶應義塾大学医学部発のベンチャーOUI Inc.(ウイインク)が開発を行っている。「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」をミッションに掲げる同社が、僻地医療の課題解決にどのように取り組んでいるのかを追った。13[ビジネス新潮流]Vol.20中山 慎太郎氏世界の失明を50%減らす世界の失明を50%減らす慶應義塾大学医学部発のベンチャー慶應義塾大学医学部発のベンチャー

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