試行錯誤を経て、KAWA-ORIGAMI®の財布が完成した。件の展示会では地味なブースながら、かなりの注目を集め、バイヤーから懇願され展示用のものまで販売することになったそうだ。使い手のことを考えて細部までこだわり尽くす「私は、モノにはある種の力が宿っていると考えています。だから、例えば財布であるなら、入れたらお金が喜ぶような、そして、使う人が豊かな気持ちになるような財布を作りたいです。財布に限らず、何かを作るときは使ってい表地に型を重ねて機械を通し、裏地を貼り合わせる部分が他と同じ厚みになるよう漉いていく(上)貼り合わせる部分など、コバ(端の部分)を漉いて薄くする (下)コバから一定間隔のところに直線の筋を付けていく。こうすることで革に陰影をつけ、立体感が増し、革の表情が引き締まるの職人が高度な技術を惜しみなく披露して作り上げるのが二宮五郎商店のモノづくりの真骨頂だろう。KAWA-ORIGAMI®着想のきっかけを尋ねてみると、このような答えが返ってきた。「『ピッティウオモ』(イタリアで毎年開催されるメンズファッションの見本市)に出展するものを考えていたとき、パリのJapan Weekなどで展示され注目を集めていた折り紙を思い出しました。折り紙の美しさを革で表現できたら、イタリア人を驚かせることができるかもしれないと考えました」(二宮眞一氏)漉き終わった表地を見ると、薄い部分は色が異なっているのがわかる(上)革を折紙のように折りたたみ、金づちでたたいて形を整えていく。力の加減でフォルムが変わるので熟練技が要求される (下)貼り合わせた部分を縫製するる人をイメージしています。どんな人がどんな風に使ってくれるか。人物像や使っているシーンを思い浮かべ、使う人が幸せになることを考えながらモノを作るようにしています」(二宮氏)そんな信念のもとに作られたモノのひとつがKAWA-ORIGAMI®である。工程を簡単に説明すると、まずは型紙を制作し、革を広げて型紙をあて、最適な部分を決めて型入れをする。そこに金型をあてて裁断したら、コバ漉き(コバすき・端の部分を漉くこと)などの下ごしらえをする。この漉く=革を薄くするというのは、重なり合うことでできる厚みを調整しなくてはいけない革製品を作るうえで非常に重要な作業だ。表地と裏地を張り合わせ、再度下ごしらえをしたら、縫製、組み立て、金具などの部品を取り付け、トリートメントなどの仕上げをして完成。オリジナルアイテムの場合、完成したらすぐ販売ではなく、まず二宮氏が最低でも3~6ヶ月以上使用し、使用感を確かめて細部を調整した後、世に送り出すそう。「革製品は長く使っていくと表情を変えます。お客さまの手に渡り、使われていくことで完成度が増すのが私たちの商品です。だからこそ、見えないところも絶対に手を抜かずに作ります接着剤で表地と裏地を貼り合わせる。接着剤も二宮五郎商店の特別仕様だし、使い勝手の良さやデザイン性の高さにも自信を持っています」(二宮氏)KAWA-ORIGAMI®はフルオーダーの子牛革を使用したブラック&ゴールドまたはレッドのほか、色違いのモデルが販売されている。そのほか、美濃和紙をピッグスキンに貼る斬新な試みから生み出された「和紙革 吉祥紋」、古典的な文様の網代編みを型押しした「網代編みグレイン」、金継ぎをイメージした加工を施したものなど、思わず目を奪われ、人に自慢したくなるものばかりだ。二宮五郎商店の今後の展開を聞いてみると、今の時代にそぐう、長く使える一生もののアイテムを作りたいという。「太陽光設備を導入してCO2排出を削減したり、LWG(Leather Working Group)の厳格な審査をクリアしたタンナーで製造された革を仕入れたり、SDGsを意識してモノづくりをしています。食肉の副産物として革を最後まで使い切るのもエコのひとつではないでしょうか。いただいた命に感謝して、世の中に役立つ製品を作りたい。最新技術を取り入れた機能的で美しいFuture Walletを完成させて、あっと驚かせたいですね」(二宮氏)二宮五郎商店東京都墨田区東向島3-30-8 ☎ 03-3610-2038公式オンラインショップ https://www.ninoworks.com/URL http://www.nino.co.jp/貼り合わせた革を今度は本型の金型を用いて裁断するボタンなどの金具を取り付ける。その後、トリートメントや艶出しなど念入りに仕上げを施し、仕様書通りに出来上がっているかを厳しく検査する21
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