SDM慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科。現代世界が直面する環境・安全・健康・平和・幸福などに関わる複雑な問題をシステムとして解決し、より良い世界を築く、文理融合の大学院。2008年設立。〈参考文献〉(1) 前野隆司編著,システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションの作り方」,日経BP,2014(2) 前野隆司、前野マドカ、ウェルビーイング、日経BP、2023(3) DIAMONDハーバードビジネスレビュー2012年5月号、幸福の戦略、20121984年東京工業大学卒業、1986年同大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月から2019年9月までSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『幸せな職場の経営学』(小学館)、『幸福学×経営学』(内外出版社)、『幸せのメカニズム –実践・幸福学入門』(講談社)など。191 夢や目標は何ですか?2日頃から何に感謝していますか?3あなたは自分や他人に対してネガティブ? ポジティブ? 4人と自分を比較しないコツは?5ワクワクしていることは?6創造性を発揮する秘訣は?7今ここに集中するための秘訣は?8広い視野で物事をとらえる秘訣は?9金・モノ・地位に囚われすぎないために行っていることは?10他の人に対してどんな親切な行為を心がけていますか?ポジティブであるために気を付けていることは?す。ウェルビーイングを整えるとは、要するに幸福度を高めるということです。幸福度を高めるために行なっていることのひとつは、チームでのウェルビーイングダイアログです。ウェルビーイングダイアログとは、ウェルビーイングの条件から作った問いについてのダイアログ。例を以下に示します(私のブログにも載っています)。たとえばひとつ目の「夢や目標は何ですか?」これは、夢や目標のある人は幸せであるという「やってみよう因子」に関連する項目に基づいています。夢や目標のある人は幸せなのですから、自分の夢や目標について考え、夢や目標があることに気づくと幸福度が高まります。また、このことについて考えるうちに、夢や目標のある人は幸せであるという幸せについての知識も身につきます。さらに、チームで夢や目標を共有しますから、他の方との意思疎通にもなり、相互理解にもつながります。よって、チームビルディングにもなります。結果、各人もチームも幸せになるというわけです。もちろん、幸せであるということは創造性発揮能力が高まるということでもあります。クリエイティブ思考協会の講座では、これらの問いについてチーム内で発表し合うことを毎日の宿題にしています。顔は出さなくてもいいので毎日オンラインミーティングをしてウェルビーイングダイアログをしてもらう。すると、チームの幸福度が高まり、チームワークが良くなり、チームがとても仲良くなります。そんなチームがイノベーションを起こせるチームであることは、疑いようもありません。みなさんもぜひ、ウェルビーイングを高めてイノベーション力を高めてみてください。ProfileTakashi Maenoイノベーションとウェルビーイングに深い関係があることについて述べてきました。日本の多くの企業の社員が幸せに働けることを心より願っています。まず、不幸せに働くと創造性も生産性も下がりますし、そもそも不幸せは嫌ですからね。そして、本稿で述べてきたように、幸せな社員はイノベーションを起こせます。ですから、すべての人は幸せに働くべきなのです。私は、伊那食品工業株式会社、ネッツトヨタ南国株式会杜、西精工株式会社、石坂産業株式会社など、社員がとても幸せに働いていると知られている会社を見学に行ったり社長とディスカッションさせていただいたりしていますが、これらの会社はどこも社員が自らの成長と社会への貢献を心から目指しており、創造性を発揮してユニークな製品・サービスを提供しています。そして、その結果として会社が繁栄しているのを目の当たりにしています。幸せだと創造性を発揮できる。創造性を発揮すると会社が繁栄する。これは、紛れもない事実です。今回をもちまして、本連載は終了となりますが、みなさんの職場やコミュニティも、ウェルビーイングとイノベーションにあふれた職場やコミュニティになることを、心より願っています。前野 隆司おわりに
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