「効率」から「適応力」へ。温暖化やパンデミックで露呈した地球の危機。著者■ジェレミー・リフキン訳者■柴田裕之発行■集英社発行日■ 2023年9月26日定価■3,080円(税込)体裁・ページ数■四六判・464ページ著者ジェレミー・リフキンは、経済社会理論家・文明批評家であり、メルケル元独首相をはじめ、EUや中国など各国の首脳・政府高官のアドバイザーを歴任し、現在、米経済動向財団会長兼TIRコンサルティング・グループの代表を務めている。本コーナーでは、2016年(vol.18)に著書『限界費用ゼロ社会』を取り上げている。「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」に転換するための指南書。あらゆる場所で人々が怯えている。全地球を呑み込んでいく恐ろしい破壊の波は、人間が引き起こしているという厳しい現実に、私たちは目覚めつつある。「効率」を追い求めてきた「進歩の時代」は、天然資源の収奪と消費、廃棄を最適化し、より速く、短時間で物質的な豊かさを求めてきた。その代償は大きい。今、求められるのは「効率」ではなく「適応力」であり、「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」への転換が必要と説く。地球の歴史という時間と、大気圏など空間と生物との関わりへの深い洞察を踏まえながら、著者の思索が続く。科学的管理法の原理は、効率は対立したり競合したりする利害の上を行くという、独自の理論的根拠を伴って現れた。急速に進められた「工業化」の間に世界の表土の三分の一が劣化し、地球上の人口を養うための表土は、あと60年分しか残されていないという指摘もある。その原因のひとつは、生育が速い高収量品種や単一栽培の導入、有毒な除草剤や殺虫剤の使用、大規模な灌漑など「緑の革命」と讃えられた高効率農業だった。本書の目次序第1部 効率vs.エントロピー ―近代の弁証法第2部 地球の財産化と労働者の貧困化第3部 私たちはどのようにしてここに至ったか ―地球上の進化を考え直す第4部 「レジリエンスの時代」 ―「工業の時代」の終焉選択される主要な戦略は、効率あるいは特定の報いを最大化するものではなく、何よりも柔軟性を維持することで持続を可能にするというものだ。ホリングのレジリエンス理論は、その後、心理学や社会学、物理学、化学など、ほぼすべての分野に広がったと著者は記す。「レジリエンスの時代」には、私たちは共感的な欲求を深め、共感の拡張の次なる段階、すなわち、人類を生命の家族の中に連れ戻す生命愛の意識を目指す必要がある。本書は、人類が地球上で誕生から最も日が浅い哺乳類であることを再認識させてくれる。そして、パンデミック、熱波、洪水、旱かん魃ばつなどの自然災害に見舞われる地球家族の一員として、少し立ち止まって「効率」から「適応力」への転換を考えるための指針を与えてくれる。from Z ビジネス選書16地球の「再野生化」による人類の危機著者は、新型コロナウイルスによるパンデミックや地球温暖化による変化を「再野生化」と形容している。「人間の制御が及ばなくなり、猛威をふるう」という意味だ。そして、その脅威を招いた原因を問う。「効率」を追い求めた代償チャップリンの『モダン・タイムス』で風刺の対象となったテイラー主義は、工場のみならず、家庭や学校教育などあらゆる分野の「効率化」を促進した。「良い生活」を追い求めた消費者また、「効率」を追求し多くのモノが作られていくと、広告は「良い生活」を消費者に訴求し「不満な消費者」を生み出した。新しいモノ、より多くのモノを求める快楽主義的、物質主義的な文化が蔓延。そのために、作り手の現場で労働者がどのような状況にあるのか、自然がどれほど破壊されてきたのか、という想像力の欠如も危機を招いた要因だと指摘することを忘れない。地球のための新しい科学危機を乗り越えるための指針のひとつとして紹介されている、カナダの生態学者クロフォード・スタンリー・ホリングの著書『生態系のレジリエンスと安定性』の内容は示唆的だ。ホリングはこう主張している。新たなインフラと政治形態著者は、先端技術によるパラダイムシフトに期待している。レジリエンスの理論を実践に移すためのインフラとして、ブロードバンド通信インターネットが太陽光発電、風力発電の電気が流れるデジタル化された大陸内エネルギー・インターネットと融合しつつあること、そして、これらのインターネットがデジタル化された移動・ロジスティクス・インターネットと一体化しつつあることに着目する。これらのインフラを活用した新たな政治形態は、中央集権的な代議制民主主義から市民参加型の分散型政治(ピア政治)に移行しなければならないと主張し、その事例として2019年に気候変動をめぐってイギリスとフランスで設立されたピア議会が対照的な結果となったことを紹介している。基本は生命愛(バイオフィリア)コロナ禍での数少ない効果として、ネイチャースクール(自然学校)が活発に行われ、世界観が社会化から自然化への転換していることを紹介しこう述べる。『レジリエンスの時代■再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換■』
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