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山末英嗣氏立命館大学理工学部機械工学科エネルギー・資源循環工学研究室 図12.8kg-TMR/kWh8.2kg-TMR/kWh10素材代替で起こる資源パラドックス問題※2 TMR…資源の採取等において目的の資源以外に採取・採掘される、または廃棄物等として排出される鉱石や土砂など、資源獲得に費やした物質の総量を表す。資源の価値や資源を獲得する際の生産性などを測る指標のひとつ。※3 鉱石品位…鉱石中に含まれる目的の鉱物・金属の含有率を示す値。 2000年3月東京工業大学理工学研究科金属工学専攻 博士後期課程修了。博士(工学)。京都大学大学院エネルギー科学研究科寄附講座職員、助手、助教、ウィーン工科大学客員研究員、国立環境研究所客員研究員を経て、2016年より立命館大学理工学部機械工学科准教授。2019年4月より同教授。48kg-TMR/kg360kg-TMR/kgCuAlCuAl高木 資源パラドックス問題は、一般的にまだ認知されていない言葉ですので、まずはこの問題について教えていただけますか。山末氏 地球温暖化をはじめとする環境問題を解決する手段のひとつとして、世界中でグリーンイノベーションの動きが広がっています。脱炭素社会に向かう潮流の中で、この動きはさらに加速していくものと考えられますが、その裏でグリーンイノベーションそのものが過剰な資源利用を引き起こしている場合があります。そのような現象を私たちは「資源パラドックス問題」と定義しています。 この問題を客観的に認知してもらうために、私たちは資源使用量を評価できる指標のひとつである関与物質総量(Total Material Requirement:以下、TMR)※2に注目して、機能単位(重量、エネルギー、栄養素等)あたりのTMR係数を15年間にわたり計測し続けています。そして現在までに1,000以上の物質についてデータベースを構築してきました。これらの活動を通じて、ライフサイクル全体を視野に入れてグリーンイノベーションを再評価すると、素材レベルから製品レベル、そして国レベルで資源パラドックス問題が生じていることが分かってきました。 国レベルとして、日本における直接物質導入量の推移を見ると、製品の高機能化や小型化の流れから過去と比較して減少していますが、TMRは増加傾向にあり、資源パラドックス問題が生じています。その原因のひとつとして、高機能を実現するために銅やレアメタルなどTMR係数の高い素材が代替品として多用されるようになっていることが挙げられます。 素材レベルでも、代替において資源パラドックス問題が生じる可能性があります。例えば、銅とアルミニウムとの代替について考えてみます。アルミニウムは「電気の缶詰め」と呼ばれるほど、精錬に大量の電力が必要になるため、精錬が容易な銅に置き替えられます。しかし、銅は粗鉱平均品位※3が1%を切るほどに鉱石品位が低いのです。一方でアルミニウムの原料であるボーキサイトの粗鉱品位は50%以上と高く、採掘活動量としてはアルミニウムの方が少ないわけです。したがって、銅とアルミニウムの安易な代替は素材レベルの資源パラドックス問題を誘発することが分かります(図1)。山末氏 製品レベルの資源パラドックス問題の一例として、先に述べたようなEVをはじめとする次世代自動車と従来型自動車の関係性が挙げられます。低炭素化を推進するために開発された次世代自動車ですが、従来型自動車と比較して製造段階におけるTMR値が高く、製造段階から走行段階までの全体を見ても、従来型自動車よりも高いTMR値で推移してしまうのです。特に低炭素化の象徴とされるEVのTMR値の推移は、せいぜい10 km/Lの燃費を持つ従来型自動車と同程度という結果になっています(図2)。グリーンイノベーションで見過ごされがちな「資源パラドックス問題」とはEVのTMR値は、10 km/Lの燃費を持つ従来型自動車と同程度CuAl

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