fromz-vol31
21/24

ProfileTakashi Maeno組織や合理的オレンジ組織よりも、家族的なグリーン組織や自由を尊重するティール組織の方が有効だと言えそうです。もちろん、極めて天才的なイノベーターがトップにいる場合には、そのトップの言うことを聞く集団から成るアンバー組織がイノベーティブである場合もあるでしょう。しかし、100名を統率するトップが優秀である一方で100名の部下の創造性が封じられる場合よりも、100名のクリエーターが自由にアイデアを出し合う場合の方が、イノベーティブなのではないでしょうか。現代社会はVUCA(Volatility“変動性”、Uncertainty“不確実性”、Complexity“複雑性”、Ambiguity“曖昧性”)の時代と言われます。時代変化が急で、先が見えない時代。こんな時代には、優秀な1名が100名をリードするよりも、100名それぞれの考えを生かす方が、多様な考えを吟味でき、結果としてイノベーションを起こしやすく生き残りやすいと考えられます。つまり、何をすればいいかがわかっているときには統率型のアンバー組織が強力で、何をするのが合理的かがわかっているときには合理的なオレンジ組織が有効だということです。しかし、何をすればいいか、何が合理的かという問題の定義や構造自体が変化するようなVUCAの時代には、人間の多様性や自由を生かすグリーン組織やティール組織が有効であると考えられます。あるいは、使い分けることが重要でしょう。何をすればいいかが明確なタスクにはアンバー型やオレンジ型で対処し、不確定な状況に対処するときやゼロから新しいものを生み出そうとするときにはティール型の組織を編成するというように。そういえば、私が勤めていた1980年代のキヤノンには(今もあるのかもしれませんが)、タスクフォースという過渡的組織形態がありました。タスクフォースとは、緊急性のある課題を解決するために一時的に結成されるチームを意味します。社員は普段、ピラミッド型の組織に分けられていたのですが、特定のイノベーションを起こすべきときには部署横断的にタスクフォースが組織されていたのです。私もあるタスクフォースで仕事をしたことがありますが、精鋭部隊に抜擢されたみたいで、やりがいを感じて働いたものです。今思えば、ヒエラルキーを越えて結集したあの舞台は、ティール的な部分もありました。もちろん、昔の組織でしたので、組織形態はアンバー・オレンジ的でしたが、マインドはティール的だったと言いましょうか。実際、ある困難な技術課題を解決して無事解散したものでした。以上、成人発達理論・組織論とイノベーションの関係について述べてきました。みなさんは、どんな組織形態で、どんなイノベーションを目指しますか?※Whole Earth Catalogue アメリカの編集者、スチュアート・ブランドによって1968年に創刊され、継続的に発行されたヒッピー向けの出版物。発行元は、サンフランシスコの非営利団体ポートラ・インスティテュート。〈参考文献〉(1) 前野隆司編著,システム×デザイン思考で世界を変える  慶應SDM「イノベーションの作り方」,日経BP,2014(2) フレデリック・ラルー、ティール組織―― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現、英治出版、29181984年東京工業大学卒業、1986年同大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月から2019年9月までSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『幸せな職場の経営学』(小学館)、『幸福学×経営学』(内外出版社)、『幸せのメカニズム –実践・幸福学入門』(講談社)など。SDM慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科。現代世界が直面する環境・安全・健康・平和・幸福などに関わる複雑な問題をシステムとして解決し、より良い世界を築く、文理融合の大学院。2008年設立。21前野 隆司

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る