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「最後で最大のチャンス」を生かすために『日本列島改造論』の精神に学び、「デジタルで列島を進化」させる、と熱く語る書!著者▪若林秀樹、日経BP総合研究所発行▪日経BP 日本経済新聞出版発行日▪ 2022年6月21日定価▪2750円(税込)体裁・ページ数▪四六判・408ページfrom Z ビジネス選書18本書の目次前書き第1章 総括「列島改造論」から「列島進化論」へ第2章 「列島進化論」が目指す姿第3章 デジタルインフラ戦略第4章 半導体再生シナリオ第5章 復活へのキーテクノロジー第6章 あるべきR&D戦略第7章 日本企業の競争力分析第8章 日本企業の成長戦略仮説対談 列島改造のビジョンこそが重要だ著者は東京理科大学大学院教授だが、複数の証券会社でのエレクトロニクス部門アナリストとしての実績で知られる。現在は、専門職大学院ビジネススクールで社会人に技術経営(MOT)を教え、経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略会議」の有識者メンバーも務めている。『経営重心』『日本の電機産業はこうやって蘇る』など著書多数。本書の「デジタル列島改造論」は、これら第1~3の課題を、デジタル技術で一気に解決しようというものである。すなわち、日本列島改造論のデジタル版である。当時は、課題解決を、工場再配置と交通網整備という鉄やセメントで実現しようとしたが、今回は、情報通信網とそれを支える半導体を中心に実現する。第2章では「列島進化論」の目指す姿として必ずしもGDPや半導体シェアの数値目標だけではなく、課題先進国が問題を解決した知恵で尊敬される、存在意義や新たな価値観を示すべきではないかと提言する。データセンター・基地局・充電ステーションの三位一体で情報通信網を整備し、次にその通信網の活用を図り、第3段階ではそのノウハウを輸出する、という提言のハードルは高いものの、夢のあるプランといえるだろう。「中間とりまとめ」には、こうした費用について「一定程度、財政支援を行うことが適当」との記述があるが、それでは「too Late too Small」になりかねない。米国では、インフラ老朽化対策に100兆円予算との報道もあるが、日本も老朽化インフラ対策を含め、まさにニューディール的な政策、さらにはデータセンターを特区として規制緩和した、外資を含めた誘致政策が必要であろう。有識者として参加している著者の熱い思いが行間に漂っているように感じた。残された時間はもうない。この5年が勝負である。少なくとも、決断と着手を見せないと、米国からも、やはり日本は遅すぎると、愛想をつかされるだろう。そして、経済だけではなく、国家安全保障上も、危機的な大問題になることを自覚すべきだ。ほぼ1年前に発行されているので、半導体再生のために残された時間は極めて少ない。巻末には田中角栄が通商産業大臣時代の秘書官小長啓一と著者との対談が掲載されている。官庁、新聞記者などのスタッフがいかにして田中の熱い思いを1冊の書に昇華させたかが語られている。2nm半導体への挑戦などを含め本書が示す目標のハードルは高い。だからこそ、ビジョンと熱意で省庁間の壁を破壊し、官民一体となってプロジェクトを推進させた先人たちに学ぶべきことは多いはずだ。「鉄・セメント」から「半導体」へ著者は50年前、昭和47(1972)年に発表された田中角栄の『日本列島改造論』は、その後のインフレや土地投機などへの批判があるものの、掲げられた安心、安全、生きがい、格差解消、平和主義などのビジョンは今も変わらないと評価する。今日、デジタル技術でそれらのビジョンを実現するためには「都市集中」「インフラ老朽化」「少子高齢化」という3つの課題があると指摘し、執筆の狙いをこう記している。国家プロジェクトへの危惧第3章ではデジタルインフラについて詳述されているが、データセンターを大都市に集中させずに列島を俯瞰して最適配置する構想は、著者が指摘するように国家戦略としていち早く取り組むべき課題に違いない。しかし、著者も参加する経済産業省のプロジェクトは、土地や電力などの予算化なども含め、必ずしも順調に推移していない。著者は指摘する。半導体再生への道第4章は経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略」をベースに書かれている。ロードマップのステップ1のサプライチェーンの変革、ステップ2は次世代技術の日米連携強化、ステップ3は将来の技術基盤構築となっている。日本の得意分野を生かすことに加え、ゲームチェンジを狙える先端技術や3Dパッケージ、チップレット技術などを紹介し、今が最後で最大のチャンスと主張して次のように章を締めくくっている。歴史に学ぶビジョンと熱意第5章では日経BP総合研究所によって3次元積層技術や光電変換・融合、スピントロニクスといった、大学や企業の最先端の研究について詳述されている。第6章はリスクとリターンのマップに基づくあるべきR&D戦略、第7章、第8章では、著者独自の「経営重心論」をベースに日本企業にとっての「ストライクゾーン」やリーダ像が提示されている。なかでも、QCDの次にくるべき価値の考察は示唆に富んでいる。『デジタル列島進化論』

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