fromz-vol30
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「母ゾウが子ゾウを鼻でやさしく押し動かす」ように、「より良い選択」に導くナッジについて説く、行動経済学を知る良書!本書の目次完全版への序文はじめに第1部 ホモ・エコノミクスとホモ・サピエンス     「なぜナッジは必要か?」第2部 選択アーキテクト(選択設計)のツール    ーそれぞれの「よりよい選択」を実現する方法第3部 お金のことfrom Z ビジネス選書18く、もっと安全になるかを明らかにすることである。例えば、「臓器提供」については、国によってデフォルト設定が異なるが、潜在的ドナーが多くなる「推定同意(みなし同意)」の仕組みを必ずしも支持しているわけではない。この問題には、患者や潜在的ドナー、ドナーの家族といった関係者全体を考慮する必要があることを踏まえ、著者は選択促進方式を支持し、こう記している。年金の例で見たように、あるものに自動で加入している人は、自分で加入することを選んだ人と同じように扱われるとはかぎらない。それと同じことはここでもいえる。個人が何かの判断に迫られた時には、同調圧力や現状維持バイアスなどさまざまな介入や干渉を受けることになる。だからこそ、強制や命令ではなく、個人の自由を尊重しながら、より良い選択ができる仕組みが必要であることを、本書はわかりやすく説いてくれる。行動経済学を知るためにも良書といえるだろう。著者の一人リチャード・セイラーは、シカゴ大学経営大学院教授で、行動経済学の研究で2017年にノーベル経済学賞を受賞。キャス・サンスティーンは、ハーバード大学ロースクール教授。ナッジ(nudge)とは、「ひじで小突く」「そっと押して動かす」の意味で、行動変容をそっと促すナッジは、しばしば母ゾウが子ゾウを鼻でやさしく押し動かす様子に例えられる。2008年版に大幅な加筆を行ない、著者は「ほぼ新作」と語っている。「人びとが十分な注意を払い、完全な情報をもち、認知能力に制約がなく、完璧なセルフコントロールができていたらするであろうと思われる選択をするように、手助けすること」命令や禁止ではなく、個人の自由を尊重しながら「より良い選択」を導く、選択アーキテクチャーのあらゆる要素が「ナッジ」であると著者は主張する。ナッジが必要なのは、人間はホモ・エコノミクス(自分の利益がつねに最大になるように判断し行動する人間)ではなく、さまざまなバイアスに影響を受けるホモ・サピエンス(ヒューマン)だからとして、バイアスと誤謬に関して詳述している。例えば、現状維持バイアスは、利用されやすい。著者のサンスティーンの元に「好きな雑誌を5冊、3カ月無料」という手紙が届き、彼女は雑誌を選んだ。しかし、無料期間が過ぎても自動的に購読料を支払い続け、彼女はほとんど読んだことのない雑誌を10年以上購読し続けた。また、フレーミングは、同じ事実でもまったく違う効果を生みだす。重い心臓病の手術を提案する医師が「この手術を受けた100人の患者さんのうち、10人が5年後に死亡しています」と言うのと、「100人のうち90人が生きています」と言うのでは患者の反応は違う。思考法には「自動システム」と「熟慮システム」があり、多忙な現代人は必ずしも常に慎重に『スター・トレック』のミスター・スポックのように 「熟慮システム」で考えるのではなく、『ザ・シンプソンズ』のホーマー・シンプソンのように「自動システム」になりがちだ。本書の主な狙いの一つは、私たちのなかにいるホーマーにとって、どうすれば世の中がもっと暮らしやす著者▪リチャード・セイラーキャス・サンスティーン訳者▪ 遠藤真美 発行▪日経BP発行▪ 2022年11月21日定価▪2,530円(税込)体裁・ページ数▪A5・454ページ第4部 社会を見渡す第5部 「ナッジの苦情、受け付けます」エピローグなぜ「ナッジ」が必要なのか本書に登場するキーワードに「リバタリアン・パターンナリズム」がある。「個人の自由を何よりも重んじ、それに対する介入・干渉に反対する」考え方がリバタリアン。「強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるという理由で、行動に介入・干渉する」ことがパターンナリズムである。一見、矛盾しそうな言葉の組合せを提唱する著者は、目標をこう記している。デフォルト設定の重要性さまざまな選択場面で、デフォルトの設定は重要になる。経済開発協力機構(OECD)の職員たちの例で、冬場に空調のデフォルト設定値を1℃下げた時は、平均室温が下がったが、2℃下げると平均室温の低下幅が小さくなった。多くの職員が2℃下げると寒すぎるとして、設定温度を上げたのだ。本書は、年金プランや保険、臓器提供など幅広い課題に関してナッジの可能性を探り、適切なデフォルト設定とは何かを模索している。もちろん、良さそうなデフォルトがすべてを解決するのかというとそうではない。 地球環境問題にもナッジは有効地球環境問題についても、効果的なナッジが紹介されている。オーパワーという企業が「ホーム・エネルギー・レポート」という、自分の家のエネルギー使用量が近隣住民の標準量と比べてどうなのかと、節約方法をひと目でわかるレポートを出すことで、エネルギー消費量が減少したことが紹介されている。本書では、「スマート・ディスクロージャー」という言葉が使われているが、すぐれた情報開示が効果的なナッジとなるという主張には、説得力がある。    『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』

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