今回は、ZIW2018で発表しました図研のMBSEへの取り組みについて、ご紹介します。
※最後に、米国Vitech社長 David Long氏の講演資料をダウンロードできます。

 

取り巻く環境


製造業を取り巻く環境は ADAS、IoTなどによる技術・製品の高度化・複雑化が進み、顧客ニーズの多様化、グローバル化やスピード化、また新サービスの提供なども求められています。同時に、人材不足やセキュリティ要件への対応や様々な認証の取得など、開発現場が直面する課題も増えています。

 
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昨今、航空機メーカーと自動車メーカーが連携して空飛ぶ車のコンセプトを発表するなど、複数のシステムから構成される製品開発では、全体を俯瞰した最良のアーキテクチャを導き出し、機械工学だけでなくソフトウェア工学や電子工学、さらには都市工学や人間工学、人工知能、そして機能安全やセキュリティなど多くの専門分野での経験や知識を集約させないと、設計そのものが困難な時代に突入しています。

 
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このように様々なサービスやビジネスモデルがシステムの価値に大きく関与する現在のモノづくりでは、従来の「局所最適型」の設計手法では対応することができません。その解決手法として、複数の技術領域の共通言語としてモデルを用いた、MBD(モデルベース開発)や MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)が注目を集めています。
これは、製品設計における要求やその実現方法、振舞い、構造などをモデル化することで各開発担当間における解釈の違いなどの齟齬を防ぎ、実機テストの工程を待たずに妥当性の確認や解析、検証を行おうというものです。MBDではシステムをモデル化するのに対して、MBSEでは複数のシステムがつながった複雑なシステム全体をモデル化するという意味合いがあります。

 
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・なぜ MBSE か

近年のものづくりは、エレキ、メカ、ソフトウェア、サービスなど関連する技術領域が急増し、従来のような単一の技術領域でのエンジニアリングや、ドキュメントや会議による擦り合わせでは対応できなくなっています。そこで MBSEでは、異なる言葉を使う数多くの部門間や企業間において、UMLや SysMLなどの共通言語を用いることで、複数の異なるドメインをまたがったエンジニアリングを可能にしようとしています。
MBSEの活用によりシステムズとしての最適解を早期に導き出すことができるほか、開発コストや期間の大幅削減、さらには機能の再利用性向上やトレーサビリティの向上、機能安全規格への準拠を促進するなどの効果が期待できます。

 
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電気回路設計で取り組むべきこと

・設計環境の現状

現状の回路設計や基板設計の環境は、基板製造を目的とした基板のパターンを作るための情報作成に終始し、最終的なアウトプットがフラットなデータで、当初の要求や機能との紐づけができません。そのため、流用設計やバリエーション開発する場合には要求・機能からの見直しが求められ、MBDや MBSEのモデルに呼応する機能単位での設計環境にはなっていません。
要求や動作、アーキテクチャ、機能実現などを、メカ・エレキ・ソフトの領域で組み上げていくシステムズエンジニアリングの世界に、我々のCADもお客様も対応しきれていないが現状です。

 
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・MBSEに向けて ~ 機能単位での設計が重要

モデルベースデザインの世界に向かうべく取り組むべきことは、まずは機能単位での設計を推進することです。回路ブロック図、基板図、基板間接続を再利用できるように、機能ブロックを意識した設計をしていただき、機能単位で設計情報を蓄積することがモデル化に向けて重要になります。

 

・MBSEに向けて ~ 上流で論理の作り込み完了を目指す

MBSEを実現する設計環境で目指すところは、システム開発におけるV字フローの上流において、論理の作り込みを完了させることです。実装部分であるPCBの回路設計やレイアウト設計、さらに試作後のコンポーネント検証やシステム検証の段階で手戻りするのではなく、要件分析からシステム設計、詳細設計のそれぞれの工程で小さなイタレーションを繰り返しながら、しっかりと作り込みをすることです。
図研は、その環境構築において自社だけでなく、様々な企業と連携し、必要なツールと組み合わせて最適な環境を実現していきたいと考えています。

 
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電気回路設計で求められる設計ITは

・機能を回路ブロック(モジュール)として活用

モデルベースデザインの環境構築に向け、機能を回路ブロック(モジュール)として活用することは、図研の電気設計データ管理システム DS-2の環境で実際にできるようになっています。
回路図ブロックに対して、仕様書、制約条件、シミュレーションモデル、消費電力、コストなどの関連情報を紐付け一括管理することでモジュール化します。そして回路設計時には、回路ブロックとして配置することで、その後のレイアウト設計もブロックを意識して進めることができ、できあがった回路と関連情報をまとめて成果物の管理が行えます。また、情報を逆方向に展開することで、使用部品の検索や回路ブロックを適用した製品を特定することもできるようになっています。

 
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・論理検討時にモジュールをIPとして活用

構想設計環境 System Plannerでは、モジュール群を活用して回路ブロックのトップ図から階層的に設計を進めていくことができます。また、再利用すべく貯めてきた回路ブロックを検索してブロック図を作成でき、回路図のテンプレートからネットを出すことにより、回路を書く前から配置や基板割りのトレードオフを検討するといったことができるようになっています。このように、System Planner ではモジュールをIPとして活用することにより論理検討ができる環境を実現しています。

 
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・各種論理検討は連携し同時に進められるべき

さらに、論理検討する時には、実は全体回路、主要信号系統、機能別回路、電源リセットタイミング、消費電力、部品ポートなど、さまざまな側面の構想を組み上げて進められます。しかも製品開発はすでにある製品の派生や改版であったり、まったく新規の製品開発の場合もあります。
ここで重要なのは、さまざまな構想のどこからでも開始できること、順番に依存せずに同時進行で行える環境でなければならないということです。それでいて、要求分析やシステム構想、半導体設計や組込みソフトウェア開発、動作検証、物理的検討などと連携して進められることです。

こういった構想間における整合性を保ちながら、同時並行で製品開発を進められることがあるべき電気回路設計の姿だと考えています。

 
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・上流から詳細までコネクティビティ情報が共有される

電気回路設計は、あらゆる検討をさまざまな図面で表現し、図面を書き換えながら詳細設計へと引き継がれていきます。これはレイアウト設計やメカ設計とは大きく異なる点です。その設計プロセスにおいて一貫して変わらないデータとして、コネクティビティやコンストレインツ(制約条件)をメタデータのように蓄積し、電気設計者間で共有するべきなのです。現状は図面文化ですが、CADにとってはコネクトビリティとコンストレインツがあれば配線ができるので、この情報をベースに動作検証をしたり、状況に応じてレイアウトを変えていくことができるというのが、現在我々が構想している設計環境です。

 
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・実装用回路はレイアウト制約条件設定とレビュー環境

実装の情報を持ったモジュールライブラリを使って上流で論理設計が完成されることを考えると、実装回路設計は単にPCBレイアウト設計のためのものとなります。つまり製造用コンストレイツの設定やレイアウトレビューが目的となり、より自動化が求められることになるだろうと考えています。極端なことを言えば、ダンピング抵抗やプルアップ抵抗などはレイアウト設計で自動的に発生させれば、回路設計者は一切ケアしなくても済むような世界になるだろうと予測しながら環境開発を進めています。

 
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MBSEとの連携

・MBSEの設計情報を詳細設計領域へ情報連携

MBSEは、電気設計、メカ設計、ソフトウェア設計など、粒度や関心事がまったく異なる分野間でエンジニアリングということもあり、簡単に実現できるものではありません。
MBSEとの連携における将来像は、おそらくドメインによって異なるツールや手法を使いながら、それらを繋げるためのレポジトリを用意し、そこに機能や振舞いなどを管理していくことになると予想しています。

 
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・設計情報の授受、要求と設計データ連携とトレーサビリティ

この MBSE の領域に対してツールをマッピングしたのが下の図です。
システムズエンジニアリングの領域は、図研のパートナーである Vitech社のツールと連携する形で、下流の物理設計の領域は自動化され、CADがサポートする世界になると考えています。
従来、物理設計をうまく行うこと、いかにスムーズに物理設計に情報を渡せるかに時間を割いていましたが、これから必要となるのは物理設計をなるべく自動化し、その分、上流の論理を固める部分で要求仕様と連携しIP活用を図ることです。そして、その物理領域の自動化をサポートするのが図研の CR-8000製品、論理領域への橋渡しや論理的なIPを活用できる環境を提供するのが DS-2製品と位置づけています。
このような次世代のものづくりの世界を構想し、現在準備を進めていますので、これからの新しい図研にご期待いただきたいと思います。

 
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当セッションの後、米国 Vitech社の David Long氏が MBSE について講演します。
David Long氏は、SysML開発時にINCOSEの会長をされており、現在は Vitech社の社長としてシステムズエンジニアリングツールの開発を進めています。
(※)ZIW2018開催後の2019年1月29日に「米国Vitech社の買収について基本合意」についてニュースリリースを配信しました。

「A Unique Moment in Time: The Changing Environment For Engineering Systems」
「かつてない、システムズ・エンジニアリングを取巻く環境の変化について」


David Long
President, Vitech Corporation


David Long氏 講演資料のダウンロードは、こちら

 
 
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