Modeling_Technology

■ こんにちは。株式会社モーデックCDK事業部の落合です。第2回は次をお話しします。お付き合いください。

● SPICEの基本機能:直流/交流/過渡解析
● 基本機能の違い:変動要因を限定して、回路特性を確認する
● 直流解析:変動要因は、「電源電圧、温度、入力信号の直流電圧・電流値」
● 交流解析:変動要因は、「電源電圧、入力信号の周波数」
● 過渡解析:変動要因は、「時間」
● 効率よく回路設計するためには、解析の順番がとても重要

(※本連載では都合により、図に対して記事ごとではなく全体での通し番号を振っています)

 
第2回 SPICEにできること

 

2-1. SPICEの基本機能:直流/交流/過渡解析

SPICEにはいくつかの解析機能が実装されていますが、中でも次の三つがSPICEの主要機能となります。

 o 直流解析
 o 交流解析
 o 過渡解析

その他にも、素子のばらつきが回路特性に与える影響を解析する「モンテカルロ解析」や、素子で発生するノイズが回路特性に与える影響を確認する「ノイズ解析」などがあります。ただし、これらの解析は、どのSPICEでも実装されているとは限りません。しかし、先に挙げた三つの基本機能である、直流/交流/過渡解析はどのSPICEでも共通で使える機能となっています。

 

2-2. 基本機能の違い:変動要因を限定して、回路特性を確認する

基本機能として紹介した三つの解析機能ですが、これらは単に変動要因を限定して回路特性を確認しているに過ぎないのです。もう少し具体的に説明しましょう。回路の特性が変わる要因はいくつかあります。例えば、電源電圧、周囲温度、入力信号(電圧・電流)周波数、動作時間などです。実際の回路では、これらが同時並行で変動しています。ですが、実回路と同じようにSPICEでいくつもの要因を変動させて解析すると、どの要因が影響して回路特性が変化しているかが分かりづらくなってしまいます。また、変動要因が増えるに従い、解析時間も非常に長くなってしまいます。そのため、変動する要因を限定して回路特性への影響度を特定しやすくするために、さまざまな解析機能があるのです。

では、図6 に示すRCローパスフィルタ回路を例に、三つの解析機能の特徴を説明していきましょう。変動要因は何かを意識すると、どんな解析をしているかが理解しやすくなります。

 

fig6

図6.RCローパスフィルタ回路

 

fig7

図7.SPICE解析のイメージ図

 

2-3. 直流解析:変動要因は、「電源電圧、温度、入力信号の直流電圧・電流値」

直流解析の変動要因は、「電源電圧、温度、入力信号の直流電圧・電流値」です。図6 のRCローパスフィルタ回路において、IN 端子に直流電圧が印加された時のOUT端子の電圧値(これも直流値)がどうなるかを観測しているのです。このとき、注意しなければいけないのは、変動させているのはIN 端子の「直流」電圧値であるということです。すなわち、時間(あるいは周波数)は変動要因ではないということです。直流解析をイメージ図で示したものが図7(a) となります。

次のように考えとわかりやすくなるでしょうか。時間t[sec]でIN端子に5Vの電圧を印加します。厳密には、ある時間tにおいてIN端子およびOUT端子電圧は「変動する」のですが、直流解析ではこの瞬時的な変動には着目していません。仮に電圧変化が生じても、長時間そのまま放っておけばOUT端子の変動は一定値に収束していきます。一定時間経過したときに収束する電圧(あるいは電流)が何Vか? を観測しているのが直流解析です。ちなみに、一定時間経過した状態における回路特性を静特性といいます。反対に、時間変化したときの回路特性を動特性といいます。同様にIN端子電圧を5Vから6Vに変えてまたしばらく回路の変化を待ちます。変化が落ち着いた状態でまたOUT端子の電圧を観測するのです。これを繰り返したときのOUT端子電圧の変化を縦軸、IN端子の直流電圧値の変化を横軸にそれぞれプロットした結果が直流解析の結果になるのです。長々と説明してきましたが、実はここが意外と勘違いしている人が多いポイントでもあります。

 

2-4. 交流解析:変動要因は、「電源電圧、入力信号の周波数」

交流解析の変動要因は、「電源電圧あるいは入力信号(電圧・電流)の周波数(周期)」となります。周波数が変動するということは、当然、時間に応じて電圧・電流も変化するのですが、交流解析では周波数一定の正弦波が回路に印加された時の正弦波の振幅および位相の変化を観測しています。交流解析をイメージ図で示したものが図7(b)となります。

では、図6 のRCローパスフィルタ回路で考えてみましょう。IN端子に一定周波数の正弦波電圧を印加します。仮に、正弦波の振幅は1V、オフセット(直流)値は5V、周波数を1Hzとします。このとき、OUT端子に現れる正弦波の振幅値とIN端子の正弦波に対する位相差を観測します。次に、IN端子の正弦波の周波数を10Hzに変更してOUT端子に現れる正弦波の振幅、位相差を観測します。この繰り返しでIN端子に印加する正弦波の周波数を徐々に可変させ、その時のOUT端子の振幅と位相差をプロットした結果が交流解析の結果となるわけです。この時、横軸は正弦波の周波数、縦軸は振幅(通常は、入力正弦波振幅に対する割合=利得で表現します)と位相差となります。

ここで注意していただきたいのは、OUT端子のオフセット値は交流解析の観測対象ではないということです。なぜかというと、それは直流解析で観測すべき対象だからです。言い換えると、オフセット値がいくつであろうと、あくまでもオフセット電圧からの変動(振幅)が観測対象だからです。

 

2-5. 過渡解析:変動要因は、「時間」

最後に過渡解析です。過渡解析の変動要因は、「時間」です。すなわち、時間に対する応答を観測するのが過渡解析です。従って、観測対象は電源電圧、周囲温度、信号(振幅・位相差・周波数・オフセット値)すべてです。つまり、時間に応じて変化するものはすべて観測対象になるわけです。過渡解析の結果をプロットすると、横軸は時間、縦軸は時間変化するものすべてとなるわけです。これをイメージ図で示したものが図7(c) となります。

 

2-6. 効率よく回路設計するためには、解析の順番がとても重要

SPICEの基本解析機能を説明してきましたが、効率よく回路設計を進める上では三つの解析をどの順番で実行するかが大変重要です。実は過渡解析を実施すれば直流解析、交流解析を代用することができます。なぜなら、直流解析・交流解析は、変動要因が限定されているのに対し、過渡解析では時間変化に応じて変わる要素がすべて観測対象になるためです。では、過渡解析のみ実施すればよいのでは? という考えが出てくるかもしれませんが、果たしてそれでよいのでしょうか。答えはNOです。先ほども説明したように、過渡解析は時間が変動要因になるため、観測対象が非常に多くなってしまいます。そのため、解析時間が非常に長くなるというデメリットがあります。逆に、直流解析・交流解析は変動要因と観測対象を限定することで、解析時間を必要最小限にしているのです。

結論として、直流解析→交流解析→過渡解析の順番に実施するのが一番効率のよい解析順番となります。これをまとめたものが表1 となります。

筆者は直流解析が回路特性を決定する第一歩であり、かつ最も重要な解析と考えていますが、これを疎かにしている人が非常に多いと感じます。回路特性は、図8 のように静特性が土台となって周波数特性(交流解析)や時間応答(過渡解析)が決まりますので、まずは直流解析で静特性を固めることが重要です。

これも筆者の実体験ですが、意図した回路動作にならないと何時間もかけて過渡解析を実行していた同僚がいました。直流解析を実行するようにアドバイスした結果、バイアス電圧(直流値)が不適切であったことが瞬時に判明したということがありました。皆さんもこんな非効率的なことにならないように、解析順番には十分注意してSPICEを利用してください。

 

t1

表1.SPICE解析の比較

 

fig8

図8.SPICEにおける直流/交流/過渡解析の関係性

 
次回もお会いできることを楽しみにしています。

 
■次回(第3回)予定の内容
 3-1. 回路シミュレータとSPICEモデルの関係
 3-2. そもそもSPICEモデルとは何?
 3-3. SPICEモデルの種類
  ▲コンパクトモデル
  ▲マクロモデル
  ▲ビヘイビアモデル
 3-4. ICのような複雑な回路もモデル化できる!

 
本連載記事
 第1回 SPICEシミュレータの仕組み
 第2回 SPICEにできること
 第3回 SPICEモデルの作り方とSPICEへの組み込み
 第4回 モデルを作ってみよう(その1)
 第5回 モデルを作ってみよう(その2)

 

ochiai■ 著者紹介
落合 忠博(おちあい ただひろ)
株式会社モーデック CDK事業部 マネージャ

アナログ回路設計で培った技術で、基板設計ユーザ向けの「Model On!」サービスや、部品メーカからの受託サービスなどを統括しています。IC回路モデルモデリング、デバイスモデリングにとどまらず、設計へのアドバイスなども積極的に実施しています。