今回から、最近の自動車に関わるさまざまな無線システムについて、その測定方法を一つずつ掘り下げて説明していきます。最初は、スマートフォン(以降、スマホ)/IoT(Internet of Things)機器に搭載されているLTE(Long Term Evolution)の無線性能を評価する手法であるOTA(Over The Air)測定です。

無線部のモジュール化・小型化により様々なデバイスに無線機能が搭載され、IoT機器と呼ばれるデバイスが急増しているのは、皆さんご承知の通りです(図1)。
図2に示すように、2010年までには世界人口よりIoT機器の数のほうが大きくなっています。以前まで一人一台の携帯電話などの保有だったのが、近年は一人で複数台の端末を保有することが多くなってきたことが一因です。

 

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図1:IoT機器の急増

 

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図2:IoT機器と人口

 
その流れで、端末の無線性能を正しく評価するOTA測定の重要性が高まってきています。後述しますが、間もなく始まる5G(5th Generation)では、OTA測定が必須になってきています。

さて、無線性能は、実際使用される状態での測定でなければ正しく評価できません。測定対象がスマホやIoT機器などの小型のデバイスである場合はもちろん、車に搭載されている場合も同様に、実際使用される状態で試験を実施します。
しかし、OTA測定の登場以前は、図3に示すようにアンテナ側と無線回路側を切り離して、アンテナ側の試験、無線回路側の試験と別々に評価してきました。無線部とアンテナ部を一緒に評価することが、技術的にできなかったのです。

 

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図3 アンテナの性能試験例

 
近年は、測定機の進化により無線性能を総合的に評価できる機器が開発されたことから、無線部とアンテナを統合評価できるOTA測定が登場しました。これまでは、無線部・アンテナを切り離してそれぞれで評価してきましたが、図4に示すように機器全体の総合性能を評価することが可能となり、電波暗室などで行うその総合性能の試験がOTA測定と呼ばれています。
(このOTA測定は、別の意味ではその製品の内部動作やノイズも含めた計測ができることになり、例えばEMCでいう、自家中毒とかイントラシステムEMCの影響のようなものを無線性能の観点で評価ができるということになります)

 

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図4 デバイスの無線総合性能評価

 
OTA測定では、基地局と携帯電話間のUP LinkとDown Link間の伝搬環境を模擬して無線性能評価を行います。OTA測定システムでは、TRPとTISの結果で無線性能を判断します。

TRP (Total Radiated Power)・・・全球面放射電力 ⇒ Up Linkの試験
TIS (Total Isotropic Sensitivity)・・・全球面放射受信感度 ⇒ Down Linkの試験

TRPとTISの指標は、米国セルラー通信工業(CTIA)と3GPP(3rd Generation Partnership Project)でアンテナ性能とRF性能を総合的に評価するために導入されおり、これらの機関で測定方法やRF性能の要求値について細かく規定が定められています。

端末の無線部とアンテナ部を総合的に評価する手法のOTA測定は、実際の使用シーンと同じ状態で評価できることから、総合無線性能を評価する上で非常に重要になります。また、端末自身から放射されるノイズで、無線性能が劣化する場合、TISの結果に表れるため、様々な使用シーンを想定した評価が可能になります。

TRP/TISを計測するためのOTA測定法には、「全方位指向性測定法」と「ランダムフィールド法」があります。
「全方位指向性測定法」とは電波暗室を用いた試験、「ランダムフィールド法」とはリバブレーションチャンバを用いた試験のことです。

それではまず、「全方位指向性測定法」の試験の概略図を図5に示します。

 

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図5 全方位指向性測定法

 
電波暗室内では、端末を保持する回転台、端末との送受信をするアンテナ・性能を評価するアンテナが兼用されており、そのアンテナには基地局シミュレータが接続されています。
基地局シミュレータにて、端末の送信電力、受信感度が測定されます。
端末は3D(3次元)で、放射する電力の測定、受信感度の測定が必要になります。

参考までに、TRP/TISの計算式を下記に示します。

 
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mw_B33出典:ctia EverythingTM Wireless
https://api.ctia.org/wp-content/uploads/2018/05/ctia-test-plan-for-wireless-device-over-the-air-performance-ver-3-7-1.pdf

 
端末を保持する方法は、図6に示すように2種類あり、(a)(b)それぞれに適する試験対象物があります。
(a)は端末を中心として、測定アンテナ(十字のアンテナ)がΘ方向に回転して、端末を保持する回転台がφ方向に回転することで3次元での評価を可能にします。一方(b)の方法では、端末を横方向で保持し、測定用アンテナは固定され、端末をΘ方向、φ方向へと回転させることで、3次元での測定を実施します。
一般的には(b)の方法が、端末と測定アンテナとの距離を横方向で確保できるため、多くの電波暗室で採用されています。一方で(a)の方法では、(b)の方法より端末と測定アンテナとの距離を確保することが難しく、かつ比較的大型な電波暗室を保有する必要があるのですが、端末が重量物(車、バイク、ドローンなど)の場合に多く採用されます。

 

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図6 端末の保持方法と座標系

 
さて、車の話に戻りますが、自動車にLTE/5Gなどの無線機器が搭載される場合にも、スマホ/IoT機器のようにOTA試験が導入されることになります。お解りの通り、車のOTA試験の場合は(a)の方法となり、図7の右側に示すような大型な電波暗室での実施となります。

 

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図7 車のOTA試験

 
次に、「ランダムフィールド法」の概略図を図8に示します。

 

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図8 ランダムフィールド法:概略図と実機写真

 
「ランダムフィールド法」は、試験端末とアンテナ間の通信以外を排除した状態は同じですが、電波暗室のような無響室ではなく、電波反射をあえて起こすような反射環境で実伝搬を模擬し、無線性能を統計的に、簡易に評価する方法です。アンテナ指向性までは評価できませんが、非常に短時間で評価できるメリットがあります。

このようなOTA測定は、無線機の送信電力・受信感度の測定が可能になり、無線性能を評価する上で非常に重要な手法になります。急増するIoTデバイスの無線性能を評価してみてください。
第3回は、OTA測定をさらに発展させたMIMO OTAについてご説明します。