第10回 電源監視ICってなに?(その1)

※旧リコー電子デバイス株式会社は、2022年1月1日より新社名 日清紡マイクロデバイス株式会社となりました。

 

皆さんこんにちは、日清紡マイクロデバイスの講師Sです。前回まで入力電源から各デバイスが必要とする電圧と電流を供給するための電源ICとして、リニアレギュレータとDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)について説明してきました。これらの電源ICが正常に動作するためには、入力電源から正常な電圧が供給されていること、また電源IC自身が期待する動作をしていなければなりません。そのため、これらの電源が正常に動作しているかを監視する必要があります。今回から、この役割を担う電源監視ICについて説明していきたいと思います。


電源監視ICの概要

それぞれのデバイスには正常に動作する電源電圧範囲が決められています。電源電圧が決められた値を外れるとデバイスは正常に動作しなくなります。そのため、そうした際にはそのデバイスの動作を停止させる必要があります。さらに電源電圧が決められた値に復帰しても、それだけでは正常な状態に戻るわけではありません。同様のことはシステムの電源を起動する場合にも言えます。各デバイスに電源が投入されて決められた電源電圧に到達しても、内部状態はランダムな不定状態にあるので内部を初期化する必要があります。そのため、それぞれのデバイスにはその動作を停止するとともに内部をあらかじめ決められた状態に初期化するためのリセット端子が設けられています。内部を初期化する操作によって、正常な動作を開始することができます。
監視対象のデバイスの電源電圧を監視して、決められた値の電圧を外れるとリセット信号を出力するのが電源監視ICの役割のひとつです。電源監視ICの出力端子をデバイスのリセット端子に接続することで、電源電圧が決められた値を外れたときにデバイスの動作を停止して内部を初期化させることができます。電源監視ICは、このようなリセットの用途に使われることからリセットICとも呼ばれます。また電源監視ICは、電圧をモニターし、異常を検出して信号を発行するので VD:Voltage Detector とも呼ばれます。

マイコンの電源監視とリセット

ここでは電源電圧監視対象としてマイコンを例に、リセットICとしての電源監視ICの機能動作について説明したいと思います。

【マイコンのリセット】

マイコンはその中心にCPUがあり周辺にプログラムなどを格納したROM、一時的にデータなどを記憶するRAM、タイマー、I/O などが配置されます。CPUの内部にはプログラムカウンター、レジスタなどの記憶回路や順序回路が搭載されています。
例として、プログラムカウンターの場合を考えます。プログラムとは、ある処理を行なわせるための手順を記述した命令の集まりです。各命令はプログラムメモリに格納されています。プログラムカウンターは、次に実行すべき命令が格納されているメモリ上の番地(アドレス)を格納するレジスタです。プログラムカウンターもレジスタの一種です。
マイコンの電源を OFFすると、プログラムカウンターに記憶されていたメモリ上の番地が消えてしまい、再度電源を ONしても電源OFF前のメモリ番地を再現することはできません。電源起動後に何もしなければこのプログラムカウンターが示すメモリ番地の値はランダムででたらめな値になってしまうため、この状態でマイコンを動作させるとプログラムどおりの動作が出来ません。これをCPUの暴走と呼ぶこともあります。プログラムカウンター以外にもマイコン内部には様々なレジスタがあり、それらもでたらめな状態になっています。このようなレジスタの状態を『不定』と呼んでいます。

【マイコンの初期化に必要なリセットタイミング】

これらのレジスタを予め決められた値(初期状態)にするのがリセット(初期化)です(例えばプログラムカウンターの初期状態は、一般的にはメモリの0番地になります)。マイコンには初期化のためのリセット端子(RESETB)があります。マイコンを初期化するためにはマイコンへ供給される電源電圧がマイコンの動作下限電圧を下回った場合、規定された期間 RESETB端子へのリセット信号を “L”レベルに維持する必要があります。また、マイコンはクロックに同期して動作していますが、クロックを発生させる水晶発振回路は電源が起動しても発振を開始して安定するまでには例えば数msの時間が必要です。このような電源起動後のリセット信号(RESETB)の状態をタイミングチャートで示したのが図1-(1)の左側です。電源起動時のリセットのことを特にパワーオンリセット(POR:Power On Reset)と呼びます。
また、マイコンへの電源供給が停止してマイコンの電源電圧が、動作下限電圧を下回った場合には直ちにマイコンの動作を停止して初期化する必要があります。この状態を図1-(1)の右側に示します。そのほか、何らかの原因で一時的にマイコンの電源が検出電圧を下回った場合にも、図1-(1)の中央に示すように規定の期間 RESETB端子は “L”を維持必要があります。

電源監視ICによるマイコンのリセット

図1.電源監視ICによるマイコンのリセット

【マイコンと電源監視ICの接続】

このように電源起動時のパワーオンリセット信号や、電圧低下時のリセット信号をマイコンに入力するため、マイコンと電源監視ICは図1-(2)に示すように接続します。
リニアレギュレータやDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などの電源ICからマイコンに電源電圧が供給されている場合に、電源電圧を監視するために電源監視ICの SENSE端子を接続します。電源監視ICの出力をマイコンの電源にプルアップ抵抗で接続し、マイコンのRESETB入力に接続します。
では、このような動作はどのように回路で実現しているかをここから説明したいと思います。

日清紡マイクロデバイス 電源監視(電圧検出/リセット)製品の『★図研の回路モジュール無料ダウンロードサイト「Module Station」』はこちら!

電源監視ICの内部回路と動作

ここまで説明してきた電源監視ICの機能を実現するための回路構成について簡単に説明しておきたいと思います。
図2に SENSEタイプの電源監視ICの内部回路ブロック構成を示します。電源監視ICは次の5つの回路要素で構成されています。基準電圧源Vref、電圧検出抵抗、電圧コンパレータ、遅延回路、出力ドライバーです。

電源監視ICの内部ブロック構成

図2.電源監視ICの内部ブロック構成

(1)基準電圧源(Vref)

入力電圧や温度が変動しても、常に一定の電圧レベルを高精度で維持することができるのが基準電圧源であり 1V 前後の電圧を出力します。本講座の第2回『リニアレギュレータってなに』(前編)で説明した基準電圧源と同じです。この「基準電圧源の電圧」と「SENSE端子電圧を電圧検出抵抗で分圧した電圧」を比較することにより電圧を監視します。

(2)電圧検出抵抗(SENSE抵抗)

SENSE端子で監視している電圧が検出電圧値になったときに SENSE端子電圧を電圧検出抵抗 R1 と R2 で分圧した電圧が基準電圧源の電圧値と等しくなるように検出抵抗分圧比を決めています。
例えば、Vref = 1V と仮定します。SENSE端子電圧が 3V になった場合に RESETB信号を発行する電源監視ICでは、SENSE端子の電圧を R1 と R2 の抵抗で 1/3 に分圧した電圧と Vref = 1V を電圧コンパレータで比較することになります。このような検出電圧値は R1 と R2 の抵抗比をレーザートリミングによって調整することで、例えば 10mV 刻みで設定することが可能です。

(3)電圧コンパレータ

電圧コンパレータは、2つの入力(+入力と-入力)の電圧の大きさを比較して、その大小間係によってコンパレータの出力電圧VOのレベルが決まります。
コンパレータの+入力の電圧を V+、コンパレータの -入力の電圧を V- とした場合、

V+ > V- のとき VO は “H”レベル(電源電圧レベル)

V+ < V- のとき VO は “L”レベル(GND = 0V)

 

になります。

電源監視として使用する場合には+入力側は基準電圧源、-入力側は監視対象の電圧を SENSE抵抗で分圧した電圧を入力します。
また、監視対象の電圧が検出電圧付近で揺らいでいた場合に RESETBが “H”、”L”を繰り返して動作が不安定になることを防止する必要があります。そこで、検出電圧に対して RESETB信号が復帰する場合の監視電圧(解除電圧)を高く設定します。検出電圧と解除電圧の差をヒステリシス電圧と呼びます。これにより、監視電圧の変動がヒステリシス電圧以下の場合の動作を安定させることができます。

(4)遅延回路

マイコンを正常に初期化するためには、マイコンの電源が動作電源電圧範囲になってからも一定の期間リセットをかけ続ける必要があります。マイコンに規定されたリセット信号パルス幅を確保するために、電源監視IC内部の電圧コンパレータの解除動作後、RESETB信号の解除(RESETB信号が “L”から “H”に遷移)を遅らせるための遅延回路です。マイコンのリセット用に使用する電源監視ICでは一般的に解除動作時のみに遅延時間を設けることから、この遅延時間のことを解除遅延時間、リセット遅延時間などと呼んでいます。

遅延時間が電源監視IC内部で固定しているタイプと外付けのコンデンサーによって可変できるタイプなどがあります。

※解除遅延時間設定用のCD端子外付け容量値の選択

データシートに解除遅延時間の計算式が記載されている場合には、その計算式を使って、またデータシートにCD容量と遅延時間の特性グラフが掲載されている場合にはそれを参照し、システムに必要なリセットパルス幅に合せて外付け容量値を決めます。

(5)出力ドライバー

マイコンなどのRESETB端子を駆動するための出力です。2つの出力タイプがあります。

① CMOS出力

監視電圧が検出電圧以下のとき “L”レベルを、解除電圧以上のときに “H”レベルを出力します。電圧監視ICの電源電圧とマイコンの電源電圧が異なる場合には電源監視ICからのRESETB信号をマイコン側で正しく受け取れない場合があります。

② Nchオープンドレイン出力

出力端子を外付け抵抗でマイコンの電源にプルアップします。監視電圧が検出電圧以下のときはNchトランジスタがONして “L”レベルを、解除電圧以上のときにはNchトランジスタが OFFするのでマイコンの電源電圧レベルにプルアップされます。電圧監視ICの電源とマイコンの電源が異なる場合でも “H”レベルはマイコンの電源電圧に等しくなりますので、RESETB信号伝搬が可能になります。ただし、プルアップ抵抗値の選択には以下のような注意が必要です。

※Nchオープンドレイン出力端子の外付けプルアップ抵抗の選択
・プルアップ抵抗の下限値

電圧監視ICが検出および解除遅延時間中は、オープンドレイン出力のNchトランジスタがONしてマイコンのRESETB入力に “L”レベルの信号を出力します。ただし、端子はプルアップ抵抗でマイコンの電源に接続されているため、マイコン電源電圧をプルアップ抵抗とNchオープンドレイントランジスタのON抵抗で分圧した電圧が、マイコンのRESETB端子への “L”レベル信号として入力されます。このときの “L”レベルは、マイコンのRESETB端子の VIL規格(端子が “L”レベルを認識できる最大電圧)以下である必要があります。
データシートには、Nchオープンドレイン出力の出力電流と出力電圧の特性グラフが掲載されています。そのグラフの出力電圧値にマイコンの VIL規格を当てはめれば、そのときの出力電流値が読み取れますのでON抵抗がわかります。ON抵抗がわかればマイコンの電源電圧をプルアップ抵抗とON抵抗で分圧した電圧が VIL規格となるプルアップ抵抗値を求められます。この具体的な事例を図3に示します。

プルアップ抵抗値の決定方法

図3.プルアップ抵抗値の決定方法

・プルアップ抵抗の上限値

マイコンの VIL規格を満足させる目的だけに着目してプルアップ抵抗に非常に高い抵抗値を選択してしまうと、マイコンの電源電圧が電源監視ICの低電圧検出以下になっていないにもかかわらず高温になっただけでマイコンがリセットされてしまう恐れがあります。電源監視ICが解除状態の場合にはNchオープンドレイントランジスタは OFF状態なので、理想的なON抵抗値は無限大です。このとき、RESETB端子電圧はマイコンの電源電圧と等しくなります。しかしながら、トランジスタにはその特性として高温になると急激に増加する OFFリーク電流と呼ばれる微少電流が流れています。例えばマイコンの電源電圧3.3V、プルアップ抵抗値が 1MΩの場合に OFFリーク電流の最大値が 1uA とすると RESETB信号の “H”レベルは 2.3V まで低下することになります。
データシートに OFFリークが記載されている場合にはプルアップ抵抗の上限値が計算できます。

日清紡マイクロデバイス 電源監視(電圧検出/リセット)製品の『★図研の回路モジュール無料ダウンロードサイト「Module Station」』はこちら!

ウインドウタイプの電源監視IC

ここまでは監視対象としてマイコンを例にあげて、電源電圧の低下を検出する電源監視ICについて説明してきました。これはマイコンに電源を供給する電源ICを起動する際にマイコンにパワーオンリセットをかけたり、電源ICのOFFを検出してリセットをかけたりするといったような、システムが正常動作していることを前提にした電圧監視の仕組みです。あるいは、電源ICの出力電圧が過負荷などによって低下することだけを想定しています。しかしながら電源ICが故障して出力が過電圧となる可能性も考えられます。
このように、マイコンへ電源供給する電源ICの故障による異常動作を想定して過電圧を監視する機能を追加することは、システムに対するリスクへの備え、つまりは安全機構となります。
例えば自動車には運転などの制御用に多くのマイコンが搭載されています。そのマイコンへ電源供給する電源ICが1つでも壊れることで、エンジンのコントロールができない、ハンドルが操作できない、など直ちに致命的故障に至ることは、あってはならないことです。このような故障に対して「故障はある確率で起こるもの」として、例えば「部品Aの異常(故障に至る前兆)を部品Bで監視すること」などで異常を検出し、システム(車両)を安全方向(路肩に停車できるなど)に持っていくことが機能安全と呼ばれるものであり、機能安全を確保するための仕組みが安全機構です。
電圧監視ICの中には、電源電圧の低下だけでなく過電圧も検出できるものがあり、そのような目的のために図4に示すように一つのICの中に電圧低下(UV:Under Voltage)だけでなく過電圧(OV:Over Voltage)監視機能を搭載したウインドウタイプの電源監視IC製品も開発されています。

ウインドウタイプの電源監視IC

図4.ウインドウタイプの電源監視IC

 

電圧監視ICに求められる特性と検出電圧設定値の決め方

ここまでは監視対象としてマイコンを例に、電源監視ICの動作について説明してきました。では、電源監視ICに求められる特性は何でしょうか?電源監視ICを選択する基準は何でしょう。また電源監視ICの検出電圧はどのように決められるのでしょうか?

答えを先に言ってしまうと、一番重要な特性は検出電圧の精度です。
例として、動作電源電圧範囲が 3.3V±0.3V のマイコンの電源電圧の低下を監視する場合を考えてみます。

マイコンの電源電圧がマイコンの動作下限電圧の 3.3V-0.3V つまり 3.0V を下回った場合には電源監視ICはマイコンに対して RESETB信号を発行しなければなりません。
電源監視ICはトリミングによって必要とする検出電圧に合わせこむことが可能ですが、トリミング精度、温度変動などによって検出精度誤差が生じてしまうため、製品ごとに保証可能な検出精度が規定されています。したがって検出精度誤差を考慮して検出電圧ばらつきの最小の電圧値がマイコンの動作下限電圧となるように、所望の検出電圧値を決めることになります。また安定した電源監視のために、検出動作から復帰させる解除電圧は検出電圧からヒステリシス電圧分高くなります。このヒステリシス電圧の精度も規定されています。
したがってマイコンに電源を供給するリニアレギュレータや DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などの電源ICの出力電圧の下限は、電源監視ICの解除電圧MAX以上でなくてはなりません。 大小関係で表すと以下のようになります。

電源ICの出力下限電圧

     V

電源監視IC  解除電圧MAX ( 検出電圧MAX+ヒステリシス電圧 )

     V

電源監視IC  検出電圧MIN

     V

マイコン動作下限電圧

これは、マイコンの電源を監視するために、マイコンへ電源電圧を供給する電源ICはその動作電源電圧範囲の 3.3V±0.3V よりも絞り込まなくてはならないことを意味します。
それでは動作電圧範囲が 3.3V±0.3V のマイコンを前項目で説明した UV と OV を有するウインドウタイプの電源監視ICで監視する場合について、検出精度が異なる次の2つの例を使って、マイコンに電源電圧を供給する電源IC(リニアレギュレータ、DC/DCコンバータ)に要求される出力電圧精度を比較したいと思います。

例1)UV/OVの検出電圧:設定電圧×(±2.50%)、ヒステリシス電圧:設定電圧×3.0%
①過電圧(OV)の検出電圧設定値の決め方と解除電圧

・OVの検出電圧設定値

電源監視ICの OV 検出電圧は精度誤差が±2.5%ですので、2.5%上側に振れていた場合でもマイコンの動作電源電圧の上限 3.6V を超えないよう検出電圧を設定する必要があります。

したがって、

OVの設定値は 3.600V / 1.025 = 3.512V

と計算されます。

例えばレーザートリミングによって設定可能な検出電圧値の刻みを 10mV とすると、設定値は 3.510V になります。ここで検出電圧の最大値を再計算すると 3.510V × 1.025 = 3.598V であり、マイコンの動作電源電圧の上限以下です。

・OVの解除電圧最小値

検出電圧の設定値から検出電圧が 2.5%下側に振れた場合の電圧が計算できます。解除電圧は検出電圧からヒステリシス電圧分低い電圧ですので、解除電圧の最小値は次の式で計算されます。

3.510V × 0.975 – 3.510V × 0.03 = 3.317V

②低電圧(UV)の検出電圧設定値の決め方と解除電圧
・UVの検出電圧設定値

電源監視ICの UV検出電圧は精度誤差が±2.5% ですので、2.5%下側に振れていた場合でもマイコンの動作電源電圧の下限 3.0V を下回らないよう検出電圧を設定する必要があります。

したがって、

UVの設定値は 3.000V / 0.975 = 3.077V

と計算されます。

設定値が 10mV 刻みとすると、設定値は 3.080V になります。ここで検出電圧の最小値を再計算すると 3.080V × 0.975 = 3.003V であり、マイコンの動作電源電圧の下限以上です。

・UVの解除電圧最大値

検出電圧の設定値から検出電圧が 2.5%上側に振れた場合の電圧が計算できます。解除電圧は検出電圧からヒステリシス電圧分高い電圧ですので、解除電圧の最大値は次の式で計算されます。

3.080V × 1.025 + 3.080V × 0.03 = 3.249V

したがって、マイコンに電源電圧を供給する電源ICの出力電圧許容範囲は 3.249V~3.317V になるので、例えば 3.3V±0.5% という精度の電源ICが必要になります。
現実的な電源ICとして 3.3V±1.00% 精度のものを使用するために UV を緩和するとして再計算してみます。
電源ICの出力電圧の最大値 3.3V × 1.01 = 3.333V を OV の解除電圧の下限とすると、OV の検出設定電圧は以下の式で計算されます。

3.333V / ( 0.975 – 0.03 ) = 3.527V

すなわち設定値は 3.530V になります。この値で再計算すると検出電圧最大値は 3.618V でありマイコンの動作電源電圧の上限を 18mV 超えてしまっています。

これを図示したのが図5の左側です。

ウインドウタイプの電源監視ICの検出精度誤差と電源ICの許容誤差

図5.ウインドウタイプの電源監視ICの検出精度誤差と電源ICの許容誤差

例2)UV/OVの検出電圧:設定電圧 ×(±1.25%)、ヒステリシス電圧:設定電圧 × 1.5%

例1と同様の計算を、説明を省略して記載すると以下のようになります。

① 過電圧(OV)の検出電圧設定値の決め方と解除電圧
・OVの検出電圧設定値

OVの設定値は 3.600V / 1.0125 = 3.5556V ⇒ 設定値は 3.550V

検出電圧MAX = 3.555V × 1.0125 = 3.594V < 3.600V

・OVの解除電圧最小値

3.550V × 0.9875 – 3.550V × 0.015 = 3.452V

②低電圧(UV)の検出電圧設定値の決め方と解除電圧
・UVの検出電圧設定値

UVの設定値は 3.000V / 0.9875 = 3.038V ⇒ 設定値は 3.040V

検出電圧MINを 3.040V × 0.9875 = 3.002V > 3.000V

・UVの解除電圧最大値

3.040V × 1.0125 + 3.040V × 0.015 = 3.124V

したがって、マイコンに電源電圧を供給する電源ICの出力電圧許容範囲は 3.124V~3.452V に広がりますので、電源ICの出力電圧精度要求が緩和されるとともに、負荷過渡応答(例えば電源ICが電圧を供給しているマイコンの電源電流の急激な変動に対する電源ICの出力電圧の過渡的な変動)に対してもマージンが取りやすいというメリットがあります。
これを図5の右側に示していますが、図の中では電源ICに要求される許容電圧誤差±4.5%と単純化して表現しています。

以上のように、電源監視ICを選択する上で検出精度が非常に重要であること、また検出電圧設定値を決める方法についてご理解いただけましたでしょうか。

おわりに

今回はマイコンの電源電圧を監視してマイコンの電源起動時のパワーオンリセット信号の生成や、マイコンの電源が短時間ドロップして動作電源電圧を外れる場合にマイコンにリセットをかける電源監視ICの機能、動作、さらにそれらを実現するための電源監視ICの内部回路構成も説明しました。また機能安全用途として電圧低下検出だけでなく、過電圧検出も同時に行なうウインドウタイプの電源監視ICについても言及し、電源監視ICの特性として検出精度が重要であることを説明しました。

次回はウォッチドッグタイマーを取り上げて説明したいと思います。ウォッチドッグタイマーはマイコンの電源電圧を監視するICではありませんが、マイコンから定期的に発行される信号を監視することでマイコンがプログラムどおりに正常に動作しているかどうかを判定するICです。マイコンからの定期信号が途切れた場合に異常判断してマイコンをリセットします。マイコンを監視するICという意味では同じ範疇に入ります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


他の「おしえて電源IC」連載記事

第1回 電源ICってなに?

第2回 リニアレギュレータってなに?(前編)

第3回 リニアレギュレータってなに?(後編)

第4回 リニアレギュレータってなに?(補足編)

第5回 DC/DCコンバータってなに?(その1)

第6回 DC/DCコンバータってなに?(その2)

第7回 DC/DCコンバータってなに?(その3)

第8回 DC/DCコンバータってなに?(その4)

第9回 DC/DCコンバータってなに?(その5)

第10回 電源監視ICってなに?(その1)

第11回 電源監視ICってなに?(その2)

第12回 リチウムイオン電池保護ICってなに?(その1)

第13回 リチウムイオン電池保護ICってなに?(その2)

第14回 スイッチICってなに?

第15回 複合電源IC(PMIC)ってなに?


★図研の回路モジュール無料ダウンロードサイト「Module Station」

<電源>
 DC-DC          公開中
 リニアレギュレータ    公開中

<複合電源>
 複合電源         公開中

<電源管理・システム管理>
 Liイオン電池保護   4月末 公開予定
 パワースイッチ     公開中
 電圧検出リセット    公開中
 ウォッチドッグタイマ  公開中

<タイミング>
 リアルタイムクロック   公開中

<LEDドライバ>
 DC入力タイプ      公開中

 
★日清紡マイクロデバイスサイトの技術ページ

リニアレギュレータ 民生用
産業用
車載用


 

DC/DCコンバータ 民生用
産業用
車載用


 

電源監視IC リセットIC
ウォッチドッグタイマ
リセットタイマ


 

  リチウムイオン電池用保護IC
 
  スイッチIC
 
  複合電源IC
 
  日清紡マイクロデバイス 技術・サポート
 
s 執筆者プロフィール
講師S (日清紡マイクロデバイス株式会社 設計センター 設計技術部)
入社以来長期に渡り、ゲートアレイ・マイコン・メモリ・電源ICなどアナログ・デジタルの各種設計に携わる。その後、複合電源ICのテスト技術も極める~設計・テスティングとその教育のスペシャリスト。毎年入社してくる技術者の卵に対する、聞き手目線の優しい解説と丁寧な指導は社内でも有名。その実績を買われ、現在はシニアエンジニアとして後進の育成や新規技術の相談役として活躍中。
日清紡マイクロデバイス株式会社について
世界に先駆けて製品化を実現したCMOSアナログ技術をコアとして、携帯機器市場向けには小型・低消費電力の電源ICを、車載・産機市場向けには高耐圧・大電流・高性能を特長とした電源ICを、Liイオンバッテリ市場向けには小型で高精度な保護ICを提供し、お客様製品の付加価値向上に貢献しています。
日清紡マイクロデバイス公式サイトはこちら
 
関連記事
第1回 電源ICってなに?
基礎講座「おしえて電源IC」
第1回 電源ICってなに?
第11回 電源監視ICってなに?(その2)
基礎講座「おしえて電源IC」
第11回 電源監視ICってなに?(その2)