はじめまして、今回、基礎講座『おしえて電源IC』を執筆させていただくことになりましたリコー電子デバイスのSと申します。
さて、回路・基板設計に関係する技術者の方々であれば電源ICという言葉を見聞きされることが多いかと思います。ただ、電源ICと一言で言ってもいろいろ種類も多く、特に初めて接する方にはなかなかわかりにくい部分が多いアナログICでもあります。
この講座の第1回では、電源ICがどんなところで使われているのかからはじめて、電源ICの種類やそれぞれの役割について概要を紹介し、次回以降、数回に分けて各電源ICについて詳しくお話していこうと思います。


電源ICとは

私たちの身の回りでたくさんの電源ICが使われていることをご存知ですか?電源ICは電気製品が動くため・機能するために適切な電圧を供給します。つまり電気製品にはなくてはならないものなのです。

電源ICとはどのようなものでしょうか?

「電源」という言葉でまず思い浮かべるのは家庭の中のコンセントではないでしょうか?多くの家電製品は、ACコードをコンセントに差し込んで使用するので、100Vの電源が必要なことは知っていると思いますが、どの家電製品も100Vの交流電源をそのまま使用しているわけではありません。100 Vの交流電源は、直流電源に変換され、複数の電気回路や電子回路に供給されています。さらに、最近の家電製品のほとんどは、電子制御に必要な様々な電子回路が集積回路として搭載されており、それらは電源電圧や必要な電源特性が異なっています。そして、それぞれに合わせ安定した電源電圧を供給するのが電源ICの機能または役割の一つです。

*100Vの交流電源そのまま使用しているのは、例えば従来型の照明器具の白熱電球、蛍光灯、ヒータを使うトースター、電気ストーブ、ドライヤー等です。

*電源特性とは、電源ICのいわゆる性能としての供給電力や効率やノイズ等です。

 

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なぜ電源ICが必要なの?

ここでは、ノートパソコン (以下、ノートPC) を例に、搭載されている様々な機能の集積回路が必要とする電源電圧を、電源ICを組合せることでどのようにして100 Vの交流電源から作り出しているかをみていきましょう。

ノートPCを構成するデバイスは、仕様、性能、コストに合せてさまざまな選択枝や組合せが可能です。また、それぞれのデバイスが必要とする電源電圧や電源特性 (供給電力、効率、ノイズ) が異なっています。そのため、電源ICについても、その選び方や電源ツリー構成もさまざまな組合せが考えられます。 図2.はノートPCのいくつかの主なデバイスへの、電源供給方法の一例です。

*デバイス: IC, LED等々電子部品の総称

 

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ノートPCの電源はACアダプターとLi-ion二次電池です。ACアダプターは、コンセントから取り出した100 Vの交流 (AC) 電圧を16 Vの直流電圧に変換してノートPCに供給します。同時に、充電制御ICによってLi-ion二次電池に充電されます。また、ACアダプターが接続されていないときはLi-ion二次電池から電源供給されます。

CPUやGPU (グラフィック処理ユニット) は、最先端の微細プロセスで製造されているため、集積度が一番高く、消費電流が非常に大きいので、効率を重視して降圧DC/DCコンバータで1.2 Vを電源供給しています。オーディオアンプはノイズが回り込むと音質低下を招くため、スイッチングノイズの発生するDC/DCコンバータは使えません。よって、一旦降圧DC/DCコンバータで電圧を下げてからリニアレギュレータ(LDO)で2.85 Vを電源供給しています。バックライト用LEDの駆動では、LEDは縦列接続するために16 Vより高い高電圧が必要ですので昇圧DC/DCコンバータにより30 Vを電源供給しています。このように、デバイス毎に必要とする電源電圧や電源特性が異なっているので、電源ICが必要となります。

*レギュレータ (安定電源) には リニア方式とスイッチング方式の二種類があります。リニア方式をリニアレギュレータと呼び、スイッチング方式のレギュレータをDC/DCコンバータと呼ぶことが多いので、この講座ではそれに倣っています。

*LDOとは、入力電圧と出力電圧の差が小さくても動作する、リニアレギュレータの一種です。

*リニアレギュレータは、入力電圧に対して出力電圧は必ず低くなります。DC/DCコンバータは、入力電圧に対して出力電圧が低くなるものを降圧DC/DCコンバータと呼び、入力電圧に対して出力電圧が高くなるものを昇圧DC/DCコンバータと呼びます。

 

電源ICの種類と分類

電源ICには、前述したような一定の電源を供給するもの以外にも、電源を監視する等さまざまな機能を有する種類があります。

図3.は電源ICの種類と分類です。図の左側は、リニアレギュレータ、DC/DCコンバータ、AC/DCコンバータ等の一定電圧を供給するためのIC、電源を監視するためのリセットIC、電源ラインに挿入して電源をON/OFFするためのスイッチIC等、単一機能のみを搭載することで用途を限定せず汎用的に使用可能な電源ICです。図の右側は、Li-ion二次電池保護IC、Li-ion二次電池充電制御IC、LED照明用電源IC、複数の機能を1つのパッケージに集積した複合電源IC等の特定用途に向けた電源ICです。

 

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電源ICの役割

以下に主な電源ICの役割および機能について、電源入力がそれぞれの電源ICを通ってどのような出力になるかを簡単に説明します。

1. 一定の電源電圧と電力を供給するIC : リニアレギュレータ、DC/DCコンバータ

それぞれのデバイスには正常に動作する電源電圧範囲、必要とする電力 (消費電流) が決められていて、デバイスに対してその決められている電源電圧と電力を供給するのが電源ICの役割のひとつです。その役割を担っているのが、リニアレギュレータやDC/DCコンバータで、図4.が動作イメージです。入力側の電圧が変動しても、また出力側につながる電子回路が消費する電流が変動しても一定の電圧を出力しています。

 

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例えば、携帯電話やスマートフォンでは、電源はLi-ion二次電池でフル充電直後の電池電圧は約4.2 Vですが、中に搭載されているプロセッサの動作電源電圧は1.2 Vですので、そこでLi-ion二次電池とプロセッサの間に電源ICが必要となります。つまり、電源ICの入力電圧であるLi-ion二次電池の電池電圧は、使用していくに従い低下していきますが、入力電圧の変動にかかわらず一定の出力電圧1.2 Vを維持するのが、電源ICの役割と機能です。

 

2. 電源電圧を監視するIC : リセットIC

それぞれのデバイスには正常に動作する電源電圧範囲が決められています。電源電圧が決められた値を外れるとデバイスは正常に動作しなくなります。そのため、各デバイスの電源電圧が決められた値を外れるとそのデバイスの動作を停止させる必要があります。さらに電源電圧が決められた値に復帰しても、それだけでは正常な状態に戻ることはありません。

同様のことはシステムの電源を起動する場合にも言えます。各デバイスに電源が投入されて決められた電源電圧に到達しても内部状態はランダムな不定状態ですので内部を初期化する必要があります。そのため、それぞれのデバイスにはその動作を停止するとともに内部をあらかじめ決められた状態に初期化するためのリセット端子が設けられています。内部を初期化することで正常な動作を開始することができます。

電源電圧を監視して決められた値の電圧を外れるとリセット信号を出力するのが電源電圧監視ICであり、リセット信号をデバイスのリセット端子に接続することで電源電圧が決められた値を外れるとデバイスの動作を停止して内部を初期化させることができます。電源監視用ICは、このようにリセットの用途がほとんどであることからリセットICと呼ぶのが一般的です。本講座ではこれに倣い電源監視ICをリセットICとしています。

図5.はリセットICの動作イメージです。入力電圧(監視電圧)が決められた値(設定電圧)を下回った期間、リセット信号は0 Vを出力していて、この信号が各デバイス用のリセット信号になります。

 

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3. 電源供給をON/OFFするIC : スイッチIC

スイッチICは電源ラインに挿入して電源供給をON/OFFするICです。

同一電圧の電源ラインに複数のデバイスが接続されている場合には、スイッチICを挿入することで各デバイスの動作/停止状態に合せて電源供給を個別にON/OFFすることができ、システムの低消費電力化が可能になります。このような使い方をするスイッチICをロードスイッチと呼びます。

例えば、電源供給のON/OFFだけなら単品のFETを使えば良いわけですが、FETをOFFからONに切り替えると入力側から出力側に短時間に大電流が流れ、これを突入電流と呼びます。そして、突入電流によって入力側では過渡的な電圧低下などの問題が生じてしまいます。スイッチとしてのFETだけでなく、保護機能の一つとしてこのような問題を防止するためのソフトスタート機能や、電源供給OFFと同時に出力側の電荷を放電するディスチャージ機能等が搭載されているのがスイッチICです。また、同じ電源電圧をリニアレギュレータやDC/DCコンバータを複数設けて供給する方法もありますが、スイッチICで電源をON/OFFする方が、消費電流、外付け部品の削減等に効果があります。

図6.はスイッチICの動作イメージです。制御信号が”High” ⇒ “Low”になると、出力側への電源供給が停止すると同時にディスチャージ機能によって出力側の電圧がすみやかに0 Vに遷移します。また、制御信号が”Low” ⇒ “High”になると出力側への電源供給が開始されますが、出力側の電圧を緩やかに上昇させるソフトスタート機能によって入力側の電圧低下を防止できています。

 

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おわりに

ロジック回路やオペアンプを使用したアナログ回路には電源ラインを描くことはほとんどありません。それは、全てのデバイスには電源が必要なためにあえて描いていないだけで逆に電源がないと電子回路や電気回路は動作しません。スマートフォンの性能を表すのに「デュアルコア」とか「クァッドコア」とかプロセッサの搭載個数を競っていますが、これらのプロセッサも電源ICなしには動かすことができません。電源ICは表には出てきませんが、システムを裏で支えている縁の下の力持ち、無くてはならない存在です。

第1回の電源IC講座では汎用的用途のいくつかの電源ICを簡単に紹介しましたが、次回からはそれぞれの電源ICの詳細について説明していきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 


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s執筆者プロフィール

S先生 (リコー電子デバイス株式会社 設計センター 設計技術部)入社以来長期に渡り、ゲートアレイ・マイコン・メモリ・電源ICなどアナログ・デジタルの各種設計に携わる。その後、複合電源ICのテスト技術も極める~設計・テスティングとその教育のスペシャリスト。毎年入社してくる技術者の卵に対する、聞き手目線の優しい解説と丁寧な指導は社内でも有名。その実績を買われ、現在はシニアエンジニアとして後進の育成や新規技術の相談役として活躍中。

リコー電子デバイス株式会社について

世界に先駆けて製品化を実現したCMOSアナログ技術をコアとして、携帯機器市場向けには小型・低消費電力の電源ICを、車載・産機市場向けには高耐圧・大電流・高性能を特長とした電源ICを、Liイオンバッテリ市場向けには小型で高精度な保護ICを提供し、お客様製品の付加価値向上に貢献しています。

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