電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広 氏

前号に引き続き、電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広氏に2016年以降の電子回路業界の動向について寄稿いただきました。今回は、「技術革新・機能変化がもたらす基板業界への影響」についてご紹介いただきます。


はじめに

いま注目すべき基板業界での技術革新の動きについて述べたいと思います。合わせてこの業界特有の問題、技術革新や機能の大きな変化により今まであった部品・材料市場が突然無くなったり、逆に台頭してきたりする事例も見ていきます。2016年はこうした動きが顕在化する年と見ています。

 

「基板レス」FOWLP登場の衝撃

半導体パッケージを起点に数十年に一度の大きな構造変化がやってきそうです。現在、業界内で大きな注目を集めている次世代パッケージ技術「FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)」の台頭は、それほどのポテンシャルを秘めた技術といえるでしょう。FOWLPの採用動向によって、OSATの業績動向や主要部材の需要動向が大きな影響を与えることはもちろん、その影響はウエハープロセスを担当する前工程分野にまで及ぶからです。

FOWLPは、既存のWLPのファンイン型と異なり、チップサイズに比べてRDL(再配線)領域が広いことが最大の特徴です。これにより、多ピンデバイスへの対応が可能となり、一気に適用範囲を広げることができます。魅力は、基板レスのため低コスト化や低背化が図れるほか、反り低減にも有効だとされております。具体的な用途として、スマホ向けのAP(アプリケーションプロセッサー)を筆頭に、ミリ波レーダーなどのRFデバイスなどが浮上しています。

とりわけ、アップルが主導するAPへの適用は、業界のサプライチェーンを根底から覆す可能性を持っています。同社は16年に市場投入予定のiPhone7に搭載されるAP「A10」でFOWLPを適用するといわれています。周知のとおり、アップルはスマホ分野におけるテクノロジードライバの会社です。同社がFOWLPを本格採用することになれば、他のスマホメーカに波及する可能性が非常に高いとみられます。

FOWLPの適用により、需要を絶たれしまう分野がパッケージ基板です。基板の代わりにRDLを用いるため、基板メーカにとっては大きな打撃となります。

 

有機ELも本格搭載か

アップルがiPhoneに有機ELディスプレイを搭載すると各メディアが一斉に報じています。搭載時期は18年に発売するとみられる新型iPhoneが最有力ですが、17年の一部モデルから採用するとの話もあり、FPD(フラットパネルディスプレイ)メーカの今後の投資戦略を大きく左右することになりそうです。

18年搭載説は、主要パネルサプライヤの1社であるLGディスプレイ(LGD)の投資計画から読み取れます。LGDは15年8月、亀尾工場に有機ELの6G新ラインを建設すると発表済みで、17年上期から月産7,500枚で量産を開始する予定です。さらに、坡州にも新工場(ガラスサイズは非公表)を建設して18年上期から稼働させると発表しました。

中小型有機ELの量産で先行するサムスンディスプレイ(SDC)は、すでにアップルにサンプルパネルを提供済みとされています。しかし、有機ELで自社のスマホを差異化してきたサムスンにとって、アップルへの供給は諸刃の剣になる可能性もあります。アップルもSDCをメーンサプライヤには指名しづらい面もあるでしょう。

そのため、もう一方の主要サプライヤであるジャパンディスプレイ(JDI)に対し、アップルは有機ELの供給を19年から18年へ前倒しするよう求めているとの声も聞かれます。当初の量産ターゲットは19年でしたが、JDIはアップルの要請に応じる構えで、今後は既存ラインの有機ELへの転換や、建設中の白山6G新工場の一部を有機EL専用へシフトする可能性が浮上してきました。

 

もし現在の液晶に変わり有機ELが本格採用となれば、まずバックライトとなるLEDや導光板などが必要なくなり、高放熱対応のLED基板やバックライトモジュールの組立企業などのサプライチェーンも消滅することになりかねません。さらに、有機ELを使う理由に、折りたたんだりできる、フレキシブルなスマホを狙っているとの情報も一部で囁かれています。

メイコーのモジュール基板

メイコーのモジュール基板

その場合、タッチパネルはガラス基板ではなくプラスチックのような有機材料になる可能性があります。そうなると、もはや薄型のメーン基板のような概念のものは無くなり、スマホの主要機能をモジュール構造にまで集約化して、それぞれの部分をFPCのようなものでつなげていく可能性があります。ここまで来ると空想の世界ですが・・・。

現在でも高周波モジュールや、無線LANモジュール、通信モジュール、カメラモジュールなどありますが、既存の基板構造は4~6層のビルドアップ基板が主流です。L/Sも40~50μm/40~50μmが一般的です。今後8層クラスまで多層化し、回路幅も20μmクラス以下となると、既存のモジュールやメーン基板も、現在MPU向けの製造で使用するSAPやM-SAP工法を適用するような時代がやってくるのかもしれません。

 

スマホ用カメラ 16年は「複眼化」元年

一方で、員数増や新規需要が期待される分野もありそうです。2016年からスマホのメインカメラが2個以上搭載される「複眼化」が本格化します。早くから業界で指摘されていたアップルの16年モデルが大きな節目となるようで、先んじて韓国サムスン電子と中国ファーウェイといった競合メーカも複眼モデルを市場に投入する予定です。CMOSセンサーやアクチュエーター、レンズなどの主要部材メーカは複眼化需要に対応すべく増産投資を進めており、コンパクト設計や高密度化で貢献できる部品内蔵技術など基板業界にも恩恵があるかもしれません。

複眼化のメリットは大きく2つあるとされており、1つはカメラ性能の向上と、もう1つが筐体の薄型化です。高画素化に伴い、カメラモジュールの高さが筐体厚みの制約条件となっており、スマホ各社ではこれを解消するために複眼化を推進しようとしているのです。アップルでは、現行のiPhone 6Sなどで筐体厚みよりもカメラモジュールの厚みが優っており、カメラ部が突起するデザインになってしまっているからです。


このように主要アプリケーションの技術革新や機能変化は、既存のサプライチェーンなど関連業界に大きなインパクトを与えます。ある日突然に市場が蒸発してしまうかも知れません。一方で大きな変化はビッグチャンスを生むことにもなります。新規市場が形成されるからです。これらの動きに迅速に対応するためにも、常に技術革新への目配りを欠かさず、しっかりと状況変化へのアンテナを張り巡らしておくことが肝要となるのです。

以上の内容は、最近の電子デバイス産業新聞に掲載された内容(写真を含む)を主にまとめたものです。

 

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