電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広 氏

昨年3月(96号)に掲載した「セット機器/プリント基板業界の最新トレンド」総括記事。大変好評だったため今年も電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広氏に寄稿をお願いしました。2016年以降の電子回路業界の動向について、アプリケーションならびに技術革新に注目し、2回に分けて総括して頂きました。


はじめに

1回目は、プリント配線板など電子回路業界の命運を握っていると言っても過言ではないスマートフォン(スマホ)や自動車などの主要アプリケーションの需要動向を中心に述べたいと思います。

 

スマートフォン、15年は失速

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スマホ出荷推移

14年秋から15年前半は、アップルのスマホ、iPhone6/6 Plusの予想以上の出荷増により、国内外の電子回路業界や電子部品業界は好景気に沸きました。過去最高の売上高・営業利益を計上する企業も出てきて、まさしく“アップル特需”で潤った企業も多かったと思います。しかし、15年秋に登場したiPhone6S/6S Plusの売れ行きはいまひとつで、足元である日系部品メーカは業績の下方修正や事業の再構築を余儀なくされています。受動部品をはじめアップルに大量納入している電子部品業界やフレキシブルプリント配線板(FPC)などの国内主要サプライヤは、2016年3月期の業績について軒並み下方修正を余儀なくされています。

一方で、心配なのがスマホ市場の飽和です。グラフにもあるように年々、スマホの出荷台数が減速しています。15年は前年比10%増の14億台となり、16年はいよいよ一桁成長にとどまるとの観測が専らです。さしものスマホもその成長に限界が来ているようです。

最大の要因は、中国市場の変調です。これまで市場を牽引してきたスマホが、中国市場でも飽和状態となり、そこに中国の国内景気の失速も重なり全体市場に勢いがなくなりました。そこで、ポスト・中国として次のスマホの期待市場として注目されるインドやインドネシアなどの新興国での新規需要を見てみると、中国市場が低迷する中、両国を中心に出荷台数が増えており、今年もその動きが一層、加速されそうです。それら新興国では、サムスン電子やアップルのようなグローバルなスマホメーカ、それに対抗して進出する中国メーカ、そして昨今台頭し始めた地場メーカなど、各社が入り乱れた新局面が始まっています。16年の世界スマホ市場は前年比8%増の15億台、中国市場は横ばいの4.5億台と予想されます。世界全体ではまだ1億台の増加が見込めますが、その大半はインドやインドネシアなどの新興国市場に限られてくるでしょう。

インドなど新興国市場に熱視線

インドやインドネシアでは、フィーチャーフォンからスマホへの買い替え需要や、3G通信と4G(LTE)通信サービスへの移行による買い替え需要がおきており、潜在需要の大きな両国でスマホメーカによる激しいシェア争いが繰り広げられています。

インドのスマホ市場は、14年の8,000万台から15年は1億台の大台に乗ったと見られます。さらに、16年には1.3億台が予測されています。携帯電話販売に占めるスマホ比率はまだ35%しかなく、大きな買い替え需要が期待されると地元の報道機関や業界関係者が試算しています。しかし、インド市場では依然、海外からスマホの大半を輸入しおり、同国での生産比率は2割前後にとどまると見られています。

そのため、中国メーカのインド進出も加速しています。ファーウェイは、マハラシュトラ州ムンバイ周辺に研究開発センターを設立しました。フォックスコンも同地に製造拠点を持ち、アンドラ・プラデシュ州のティルパティにも新工場を建設します。そこでは、中国スマホのシャオミーやジオニー、オッポ、ビーボ向けの受託生産を予定しています。

ティルパティでは、インドのスマホ大手4社の共同出資による合弁工場の建設も進んでいます。投資額は最終的に200億ルピー(約400億円)に達し、50万㎡の工場用地が手当てされています。最終的に4社合計で年産能力7000万台の工場に拡大する見通しです。

中国に準ずる人口を抱えるインド市場は、いずれ中国と同じ4億~5億台のスマホ市場に拡大するといわれています。つまり、まだまだ4億台近い伸びしろがある巨大市場ということです。今後数年にわたり、年平均30%の高成長を続ける市場と読み解くこともできます。

インドネシアのスマホ市場は、14年の約2,500万台から15年は3,000万台に拡大したと見られます。サムスンが20%台のトップシェアを築いていますが、現地スマホブランドのスマートフレンやフィーチャーフォンから参入したエバークロス、モニターから参入したアドバンが上位を占めています。

インドネシア政府はスマホ業界に対し、17年以降にインドネシアで販売するLTE対応スマホには国産部品を30%以上使用することを要請しています。海外端末メーカは現地での生産を視野に入れざるをえません。


自動車の電装比率が向上

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HV EV販売状況

自動車の生産台数は堅調です。特に、今後は地球温暖化など環境意識の高まりから、CO2の排出量をエンジン車よりも大幅に抑制できるハイブリッドカー(HV)や電気自動車(EV)の市場は、大きく伸びるとみられます。14年時点で200万台強(富士経済)が販売され、これが20年には440万台へと倍増します。パワートレインはモーター駆動となり、パワーエレクトロニクスなど電気系が活躍します。さらにADAS(Advanced Driving Assistant System)などの安全運転支援システムの搭載比率が、ドライバーの安全性志向の高まりや政府の後押しもあり、ゆくゆくは新車販売の半数に及ぶとされます。

現在、最先端のミリ波レーダーなどADAS関連向けのセンサーをはじめ、エアバッグ用の加速度センサーなどを含めれば、高級車には120個を超える(国内大手ティア1)センサーが平均して搭載されているという話です。

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新型プリウス

この市場の牽引役となっているのが欧州勢の自動車完成車メーカです。日本でも、トヨタやホンダが14年末から15年にかけて、自動ブレーキシステムの搭載に本腰を入れ始め、北米では、一部の高級車におけるオプション搭載であったものが、モデルチェンジを機にミドルクラスでも搭載する動きが見え始めています。また、ダイハツのように軽自動車にも各種センサーを搭載して、ADAS対応機能を積極的に取り込んでいる自動車メーカも登場しています。これらの最先端の機能を搭載した中古車のほうが、車格が上の車の実売価格よりも高くなるという現象も起こっており、ADAS人気は本物といえます。

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ADASを牽引するステレオカメラ

ADAS向けセンサーの世界市場は14年の約3,000億円から15年は4,000億円強、そして20年には9,000億円強にまで拡大すると予測(矢野経済研究所)しています。

新車販売におけるADAS搭載率は、14年の10%から20年には50%前後に達する計算になります。今後は、検知精度のさらなる向上やシステムの多機能化により、車両1台に搭載されるセンサー数も増加していくことになるでしょう。

電子回路業界においても特需となるのが、これらのセンサーを搭載するモジュール部分やそれらのデバイスや制御・ドライバ機能などを集約化するECU(Electronic Control Unit)向けのセンサーモジュール基板やECU基板です。特にミリ波レーダーなどは、高周波などに対応した高周波基板などが求められています。現在はテフロン材などをベースにした比較的高価格帯の材料を使用した基板が実車に搭載されていますが、加工も難しく片面板が主流です。今後は表層部分にテフロン材を使用して、内層部分はFR-4ベースなどを活用したハイブリッド構成にすることで価格を引き下げ、層構成も4層などの多層化を可能にしてコンパクト設計に貢献します。


注目のロボット市場

また、今後面白い市場の1つがロボットです。従来の産業用ロボットに加えて、最近ではソーシャルロボットともいわれているジャンルの製品です。もちろんまだ大きな市場を形成しているわけではありませんが、ソフトバンク社の「ペッパー」に代表される製品です。ビッグデータ解析などを手掛けるUBICとロボットメーカのヴイストン社が共同開発した「キビロ」も16年から市販されます。会話のやり取りや顔の識別などの基本コミュニケーションのほかに、ネットワークと接続させることで利用者の好みや感覚を理解できたりする癒し系のロボットです。顧客層は個人向けをはじめ、例えば、ペッパーなどのように銀行をはじめ自動車メーカの販売店や商業施設、業務用店舗などで幅広く導入が進みそうです。

ヒト型製品や動物を模したロボット製品は、白物家電やデジタル家電などとは異なり、比較的複雑な形状をしているため、そのメーン基板なども様々な形状に加工しなければならず、結構手間ひまがかかります。折れ曲がったり、複雑な動きに追従しなければならず、小型薄型のFPCも必要になります。また、モーター駆動をさせるため、比較的大電流や高放熱性の特殊な基板やパワー半導体(MOSFET)も要求されます。バッテリーの問題もあり、長時間駆動に耐えられるような小型で高性能な電池の開発も急務となります。

ロボットの普及のカギを握っているのは半導体などを中心とした電子デバイスの安定調達にある、とする人もいます。これらのソーシャルロボでは、例えば個人ユースの場合は「愛着」が生まれ、仮に故障した場合などは、使い捨てではなく修理依頼する事例が多いといいます。通常の家電製品でもそうですが、壊れた場合など修理に持ち込むようになるからです。

実際に、ソニーがかつて販売していた犬型ロボットの「AIBO」では、購入者はペットのように扱い、接する傾向が見られ、ソニーのサポートは14年春に終了しているにもかかわらず、修理会社にはいまだに100台以上の修理待ちの状態というのです。今後、ソーシャルロボや癒し系のロボが普及するためには、長期のメンテナンスサービスをしっかりと保証するようなビジネスモデルが不可欠になると言われています。

家電以上に長期間かつ高度なメンテナンスサービスの継続が求められてくることは明白で、もはや修理工場ではなく、「ロボット病院」のようなものまでイメージする必要があるといいます。それほど愛着や情が移る製品なのです。

このように、コアデバイスとなる半導体や特殊な基板の安定確保が急務となることは間違いありません。製品サイクルが短いため、製造打ち切りデバイス・部品の安定調達をいかに担保しておくかといった課題を解決する必要がありそうです。これらを包括的に提供できるサービス会社やロボット会社が新たなビジネスモデルを構築していく可能性があります。

以上の内容は、最近の電子デバイス産業新聞に掲載された内容(写真を含む)を主にまとめたものです。

次回は、基板業界での技術革新の動きについて述べたいと思います。ご期待ください。

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電子デバイス産業における半導体、一般電子部品、製造装置、電子材料業界を報道する国内唯一の専門紙です。液晶をはじめとするフラットパネルディスプレイ、太陽電池、2次電池、プリント配線板などの市場動向に加え、自動車や医療、ロボット、FA、航空・宇宙といった、電子デバイスを多用する成長産業のニュースもお届けしています。

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