今回は、充実感、満足感、幸福感を実感できるよりよい日常を過ごすためのポジティブ心理学を、その理論やデータとともに紹介したいと思います。


こんにちは、RDPi 石橋です。

前回は主観的ウェルビーイングについて解説し、その主要な要素である人生の満足度を計測し、何が幸福に関係するのかについて解説しました。ただ、人生の満足度や幸福感は人によって様々ですし、収入や学歴、社会的地位などとの相関も様々だということをお伝えしました。

実際、人生の満足度を高めることが幸福度を高めることになるというのは、幸福を少々単純化しすぎているという懸念から、当初は人生の満足度を高めることを目標にしていたポジティブ心理学も、今は幸福について新しい考え方を構築して研究を進めています。今回はこの新しい考え方を紹介したいと思います。

 

幸福理論の限界

ポジティブ心理学がテーマとしていた幸福は、人生の満足度尺度によって計測でき、それを高めることが目標でした。これを「幸福理論」とよんでいます。しかし、人生の満足度尺度は、回答しているときの気分に左右されるという問題があります。また、気分が幸せに関係することは間違いありませんが、気分だけで幸せが決まってしまうわけではないはずです。ポジティブ感情(気分)が低くても充実した日々を過ごしている人もいるはずです。

幸福を人生の満足度で考える「幸福理論」は、気分という感情を計測し、気分がよい状態を最大化することを目的としているわけですが、単純にひとつの尺度で幸福をとらえることには限界があるのです。さらに、幸せを感情で評価するのか、理性で評価するのかという問題もあります。人生の満足度尺度は、気分(感情)で質問に答えている割合が多いわけですが、人生のハシゴは感情よりも理性を優先して回答することがわかっています。

 

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図193 感情と理性

 

人生の満足度尺度や人生のハシゴ以外にも幸福度を計測する尺度はいろいろあり、使う尺度によって、感情(気持ち)を優先するのか理性(合理性)を優先するのかの傾向はあるのですが、そもそも、人は感情と理性の間で揺れながら幸せかどうかを評価するという性質を持っています。たとえば、「幸せはおカネで買える」ということを肯定するのは感情(気持ち)では納得いかないと思うものの、理性的(合理的)に考えるとおカネはあった方がいいという判断になることも特別なことではありません。幸せの評価にはいろいろな要素が複雑に絡み合っているのです。

このようなことから、幸福は単純な一元的な尺度では計測できないことが明らかになり、ポジティブ心理学において幸福理論を継続することには限界が見えてきました。その結果、ポジティブ心理学は、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解することが大切だという姿勢に変わったのです。

 

ウェルビーイング理論

現在のポジティブ心理学は、幸福は一元的なものととらえていた「幸福理論」から、幸福は多元的なものであり、その構成要素を理解するのが大切だという「ウェルビーイング理論」に変わっています。そして、「Flourish」とよんでいる「持続する幸福」が目的になっています。

持続する幸福を求めるというのはウェルビーイングを高めることであり、ウェルビーイングは計測可能な独立した5つの要素で構成されています。つまり、人生における幸せとは、持続する幸福を追求することであり、そのためにはウェルビーイングの5つの要素を高める必要があるということです。5つの要素はどれも単独ではウェルビーイングを定義できるものではありませんが、どれもがウェルビーイングに関係するのです。

 

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図194 幸福理論 vs. ウェルビーイング理論

 

図194 は、幸福理論とウェルビーイング理論との違いを整理したものです。幸福理論が目標としていた人生の満足度は、ウェルビーイング理論ではポジティブ感情の中に含まれています。

さらに、ウェルビーイングの5つの要素を支えるものとして、「強みの徳性(Character Strength)」 があります。人間には、親切心や、勇気、ユーモア、正直さなど、時代や民族、国などによって変わることのない普遍的な 24 の「徳」があり、誰もがその中でもとくに自分の強みとなる「徳」を持っています。それをその人の「強みの徳性」とよびます。自分の強みの徳性を知って、活用することがウェルビーイングの5つの要素を高めるために大切なことです。

 

PERMA

それでは、ウェルビーイングの5つの構成要素を紹介しましよう。

ポジティブ感情(Positive Emotions)」「エンゲージメント(Engagement)」「関係性(Relationships)」「意味・意義(Meaning)」「達成(Accomplishments)」の5つです。それぞれの頭文字をとって「PERMA」とよばれています。そして、「強みの徳性(Character Strength)」が5つの構成要素を支えています。
各構成要素は次のような内容です。

 

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図195 PERMA

 

ポジティブ感情(Positive Emotions):

楽しみ、歓喜、快感、ぬくもり、心地よさなど自分が感じるプラスの感情です。人生の満足度を含む主観的ウェルビーイングはこの要素に含まれます。ポジティブ感情を重視する人は「快の人生」を過ごしたい人ということができます。

 

エンゲージメント(Engagement):

音楽や芸術などとの一体感や、没頭して時が経つのを忘れてしまう状態のことです。この状態を「フロー状態」とよび、その最中には思考や感情は存在せず、振り返ったときに「あれはすばらしかった/楽しかった」と感じます。エンゲージメントを重視する人は「充実した人生」を送りたい人ということができます。

 

関係性(Relationships):

他者とのポジティブな人間関係のことです。関係性を重視する人は、人生における素晴らしい出来事はすべて、他者がいることで起きると考え、他者を頼れる存在として人生を送る人です。

 

意味・意義(Meaning):

使命など自分よりも大きな存在を信じたり、人生に意味や意義を求めることです。意味や意義を重視する人は「有意義な人生」を送りたい人ということができます。

 

達成(Accomplishments):

一時的な「達成」や、達成のために達成を求めることです。達成を重視する人は、自分がやっていることに没頭し、夢中になって快を求め、勝負に勝つことでポジティブ感情を得るような人生を送る人です。勝利を得ることを人生における使命のように考えることもあります。

 

ウェルビーイング尺度

ウェルビーイングの構成要素 PERMA はそれぞれ独立して計測できるものになっています。以下(図196)のウェルビーイング尺度を使うと自分が PERMA のどの要素を重視しているのか、もしくは、今の自分にとって幸せに強く関係する要素が何かを知ることができます。

 

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図196 ウェルビーイング尺度

 

以下の URL にアクセスして質問に答えていただければ、図196 に示すように、PERMA の一つひとつについて最低の0点から最高の 10 点までで計測結果を返します。ウェルビーイング尺度を使うとウェルビーイングに対する志向性、つまり、幸福感の傾向を知ることができます。

 

ウェルビーイング尺度
https://docs.google.com/forms/d/19fRbuKICrMHAlD5pOjOEiFmkjf80t5Z4dh24REocD2k/edit

 

図197は私の計測結果です。この計測結果では、ポジティブ感情と達成が 7.5 以上の高い点数で、関係性と意味・意義が相対的に低い結果となっています。普段の行動や考え方を振り返ってみると、できるだけ気分良く取り組むことを意識していて、そのために好き嫌いを優先しがちになり、やることの意義や高い志にもとづいた判断が少ないように思います。目標をクリアすることやゲームの勝ち負けにはこだわりがちで、集中、没頭することも多いところ、内向性なところなども、計測結果にあらわれているように思います。

 

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図197 ウェルビーイング計測結果

 

このようにウェルビーイングの傾向を計測することで、普段から点数の高い要素に結びつくような行動や考え方をしていることが多いことや、反対に、点数が低い要素についてはあまり重きを置いていないことに気づくのではないかと思います。幸福感を得ることができるように考え、行動している傾向が強いと言えるでしょう。

さらに、人とウェルビーイングの計測結果を比較すると、同じような出来事や状況に対するとらえ方や行動に違いが生まれるのがよくわかるはずです。低い要素があって高くしたいとき、その要素が高い点数となっている人の考え方や行動は参考になると思いますし、相手のウェルビーイングの傾向を知ることはよりよいコミュニケーションにつながります。

 

持続する幸福(Flourish)

人によって幸福の感じ方やとらえ方は違いますが、PERMA というメトリクス(尺度)を使うことで、総合的、かつ、シンプルに幸福(ウェルビーイング)の傾向、志向性を知ることができることがわかったと思います。

人によってウェルビーイングの志向性は様々ですが、PERMA のひとつだけが高いよりも全体的に高い方がより幸福な人生を送ることにつながります。たとえば、エンゲージメントだけが高い場合、熱中できる対象や没頭できる環境があれば幸福を感じることができますが、そういう対象や環境が手に入らないこともあります。そんなときは幸福を感じることができなくなってしまいます。生きている間にはいろいろな出来事があり、様々な状況下に身を置くことがあるわけですが、より多くの要素を高くすることができれば、より多くの状況下で幸せを感じることができます。

 

持続する幸福(Flourish)を手に入れるためには、ウェルビーイングの5つの要素をバランス良く高めることが大切だということを忘れないでください。そして、そのためには自分の強みの徳性を把握し、各要素を高めることに活用することを意識する必要があります。自分の強みの徳性を知って、自分に合わせた取り組みをすることが効果的だからです。強みの徳性や、PERMA のそれぞれの要素についての詳細は、第3回以降でひとつずつ紹介したいと思います。

このように、自分のウェルビーイングの傾向を知ることで、よりよい日常や人生を続けるにはどのような取り組みをすればいいのかが考えやすくなるはずです。

 

今回は、幸福理論に変わる新しいポジティブ心理学の理論であるウェルビーイング理論を紹介しました。ウェルビーイングとは、ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、良好な関係性、達成という5つの構成要素(PERMA)の組み合わせであり、これら5つの要素すべての最大化を目指すことが持続する幸福(Flourish)につながることをお伝えしました。

そして、PERMA を計測することで、人によって違う幸福の形を可視化でき、一人ひとりがどうすればより幸福になれるのか、よりよい日常や人生を続けるにはどのような取り組みをすればいいのかを総合的に考えることができることをお伝えしました。実際に5つの要素それぞれを高めるためには自分の強みの徳性を活かすことが大切です。その強みの徳性については次回解説したいと思います。

 

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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●執筆者プロフィール  石橋 良造

日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、設計・製造改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。

コンサルティングを続ける中で、より良い改革のためには個人の意識改革も合わせて実施する必要があるとの思いが強くなり、独立して株式会社 RDPi を設立した後、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いた(株) チームフローのコーチ養成コース、および、一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会の公式プラクティショナー・コースを修了し、個人のやる気を引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革とを融合した改善活動を続けている。

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