感性リバース技術

 

感性リバース

図9(クリックで拡大)

最後に感性リバース技術をご紹介します。全くの経験がない設計者が、ゼロから新しいヘアドライヤーを作り上げることは、時間と手間がかかるだけでなく、その実現方法を具体化するだけでも非常に負担がかかります。そのため、既存の製品からできるだけ多くの情報を抽出し、設計初期段階に活かしていく必要があります。具体的には、既存製品を分解して解析したり、3Dスキャナーを使い既存製品の3Dデータ化を行い、製品分析に役立てる技術になります(図9)。

 

3Dスキャナーを利用すると、製品を構成する各パーツを素材・材質単位で情報を抽出することができ、その情報をもとに3Dデータ化を行うことができます。同じ素材・材質同士が接続された複数のパーツも、それぞれのつなぎ目で分けて別々のパーツとして抽出し、3Dデータ化できます。ヘアドライヤーのような、人の手で分解できる製品だけでなく、大型の製品や分解が困難な製品に関しても3Dスキャナーを使って3Dデータ化し、データの中で分解・分析が行えるようになります。設計者が3Dデータを分析することで、製品構造や形状などを把握でき、1Dモデルを構築する際の参考情報として利用できるようになります。また、既存の製品ではなく、自ら開発した試作品の分析に利用することも考えられます。

 

 

デライトヘアドライヤーのモックアップ

図10(クリックで拡大)デライトヘアドライヤーのモックアップ 

デライトヘアドライヤーの試作

 

設計支援という分野は設計そのものではないので、中々分かりにくい分野となります。我々の開発目的を理解してもらい、アピールするためには、実際にデライトな製品を試作してお見せするのが効果的と思いました。そのため、まだプラットフォームは研究開発中ですが、ヘアドライヤーを試作しました。図10にその写真を示します。このヘアドライヤーは、コードレスで持ち易くなっており、またコードレス化によるパワー不足を補うためにジェットポンプの原理に基づいて風量を稼いでいます。また、インダストリアルデザイナーの方にも意匠デザインを担当いただき、その点でもデライトなものができたと思っています。この試作を通じて、新しい原理や構造による製品を設計するには、より本質的な感性モデリングが必要なことも認識し、現在研究を行っています。

 

 

検証プロジェクト

 

ここまではヘアドライヤーの話をしてきましたが、いくつかの違う製品カテゴリーに対して我々が考えている手法を適用し、デライト設計が行えないかという検証を行っています。

 

その中のひとつが介護機器です。ベッドから車椅子に人が乗り移る時の支援をする「移乗装置」を対象にしています。寝ている方を釣り上げて車椅子に乗せるリフト型や、寝ている人が前かがみになって乗り移る前傾タイプのものなど、すでにいろいろなものがあります。

 

移乗支援装置

図11(クリックで拡大)

ここでは、モーションキャプチャと呼ばれる技術を使い、介護者と被介護者の動きを撮り、介護する人や介護される人にとって、どのような動きが楽なのかということをひとつひとつ実験を行い、データを集めました。さらに実際に利用してもらった後に、官能試験を行い、動きがスムーズだったかとか、負担感がなかったかなどいろいろなアンケートをとって点数付をしています。

 

先ほどのヘアドライヤーの音の場合は、Sound Quality Metricsを求めれば人の感性にどのように影響するかを「感性指標」として定量化できましたが、人の動きに関しては、どういう動きをすると人の負担感はどう変わるかなどを評価できる明確な指標が無いので、今はまずそれを求めようとしています。

 

図11に示すように、我々は介護される人の「重心の位置」に注目し、モーションキャプチャで介護される人の動きを検証・分析し、「ジャークの和」と呼ばれる値を計算しました。この「ジャークの和」という指標と、介護する人の仕事量との関係性をある関係式で表現すると、先ほどのヘアドライヤーの音の心地よさと同様に設計ツールとして実現することができます。動きのデータを測定するのは大変なことですが、いくつかの介護機器でデータを測定しておけば、先ほどのデライトマップのナビゲーションのようなことができると思います。

 

理想的な重心の軌道というものを計算できるようになると、重心がこういうように動くと作業が割と楽だということが計算でき、それに合わせて移乗装置を作ればいいとなります。現在は、その試作研究も同時に行っています。

 

この他にも、建設機械のキャビンのデザインを工夫して運転しやすいような環境を作ることや、一般的なユーザーが自分自身で求める魅力品質を指定して製品を購入できないかと思い、シューズマッチングシステムの研究を行ったりしています。

 

 

まとめ

 

本日は「デライトデザインプラットフォーム」の4つの技術についてお話しました。製品の特性と感性あるいは魅力を定量的に評価するための感性データベース技術、従来のMBDに感性に関わるモデルを組み込んで製品設計を行う感性モデリング技術、そしてその感性を含めてモデリングしたものを詳細設計CADシステムに繋げる感性統合化技術。最後に実物から完成モデルを詳細に作り込む感性リバース技術です。

我々は、このプロジェクトを通してこれらの技術を開発することで、少人数で製品を作られている、またはなかなか感性を評価するところまで実現できていない企業や設計者に対して、感性を考慮したものづくりができる環境を適宜提供していきたいと思っています。

ご清聴ありがとうございました。

 

●革新的デライトデザインプラットフォーム技術の研究開発
http://www.delight.t.u-tokyo.ac.jp/

 

謝 辞
この成果は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。ここに謝辞を表します。

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