感性データベース構築技術

 

ヘアドライヤーの音の性能品質を向上させるためには、なるべく騒音ノイズが低く、うるさくないヘアドライヤーを開発することを考えますが、デライト品質の向上では、なるべく心地よい音のヘアドライヤーを開発することを考えます。

 

感性品質の定量化

図4(クリックで拡大)

例えば、騒音レベルのような物理特性は、騒音計で定量的に計ることができますが、人が感じる「感性量」を計ることは非常に難しいです。「音」の場合は、以前より世界的に研究が盛んに行われており、Sound Quality Metrics(SQ)と呼ばれている「ラウドネス」「シャープネス」「ラフネス」などを感性量として扱うことで、人が感じる音の特性を定量的に表現することができます。我々は、これを「感性指標」と呼び、データベースに製品情報として蓄えます。

 

その一方で官能試験も行います。複数の被検者に各ヘアドライヤーの音を聞かせてアンケートを実施し、魅力の大きさを表す指標(魅力指標)をデータベースに蓄えます。これにより、ヘアドライヤーの音について「感性指標」と「魅力指標」がデータベースに蓄えられたことになります。この後は、データベースに対して簡単な統計解析を行うことで、「感性指標」と「魅力指標」との関係式を導き出すことができ、音の「感性指標」から定量的に「魅力指標」を評価できるようになります。

 

感性指標空間

図5(クリックで拡大)

図5は、ある「魅力指標」に関連する「感性指標」にドライヤーの音をマップしたものです。この図では「感性指標」は4つですが、一般的にはこの指標は多くなり、「魅力指標」の全体像を把握することは難しくなります。そこで対象の「魅力指標」に最も関連性のある「感性指標」からなる主成分だけを利用し、2次元グラフ上にプロットします(図6)。この2次元グラフのことを我々は「デライトマップ」と呼んでいます。各ヘアドライヤーの「感性指標」の値を使い、「デライトマップ」上に各ヘアドライヤーをプロットしていきます。これにより、自社のヘアドライヤーが感性空間の中で、他社製に比べてどのような位置付けになるのかを視覚的に捉えること可能になります。

 

デライトマップによるナビゲーション

図6(クリックで拡大)

例えば、デライトマップ上に対象の魅力指標を表す等高線を表示することで、「自社のヘアドライヤーの心地よさという観点の魅力指標値が3点だった」「競合他社製品の魅力指標値は4点である」ということがわかるようになります。これを利用し、心地よいドライヤーを狙おうと思った時に、魅力指標の目標値をどこに持っていたらいいかということが、デライトマップを利用して検討していくことができます。

 

このように感性データベースに蓄えられた情報からデライトマップを作り出し、その上に他社品も含めた既存品をプロットすることで、新規開発製品の目標の策定を視覚的に捉えられることができるようになります。さらにデライトマップ上でまだ市場に出ていない領域を見つけ出し、これまでにない新しい魅力の実現方法を探索することができるようになります。

 

こういったことは各社が独自にやろうと思えばできることですが、忙しい技術者や設計者がこういうことをやるのは大変だろうということで、例えば心地よい音や持ちやすさなどの感性データベースを我々がある程度用意し、かつナビゲーションするところのソフトウェアも用意しようと考えています。

 

 

 

感性モデリング技術

 

感性データベースを構築し利用することで、目的の「魅力品質」を実現するための「感性指標」を決めることができるとわかりました。「感性指標」は、言い換えると「人間と製品との間のユーザーインターフェースの特徴」と捉えることもでき、そこから設計に落とし込んでいく必要があります。これに対して、我々はModel Based Design(MBD)と呼ばれている技術を使います。これは、1Dモデルを利用して、製品全体の構造や挙動をシンプルに理想的なモデルとして表現し、詳細な設計を行う前におおよその製品構造や仕様を設計する技術です。

1DCAEによる感性モデリング

図7(クリックで拡大)

 

音の魅力を評価する場合、感性モデリングではModel Based Designで作った製品モデルに、音のモデルを加えています。図7はヘアドライヤーのスイッチを入れるとモーターが回り、ヒーターが加熱して暖かい空気が出るというモデルですが、これに加えて動作させたときにどういう音を出すかを計算する「音のモデル」も入れてあります。これにより、機能に注目したモデルに加えて、動作音のシミュレーションが行えるようになります。

 

このモデルをシミュレーションすると、仮想的にヘアドライヤーの動作音をシミュレーションでき、さらに感性データベースと連携することで、その「仮想的な音」から「感性指標値」を計算し、さらに「魅力指標値」を計算することができます。このように、1Dモデルを利用した1DCAEという手法を利用することで、設計の初期段階で製品の完成まで含めた魅力の評価ができることになります。

 

例えばここで、初期の製品モデルでは魅力指標値が3点くらいだったとしましょう。魅力指標値を上げるために、ファンを変えたり、モーターを変えたり、あるいは制御の仕方を変えたりということを1Dモデル上で行い、シミュレーションを行うことでその状態の魅力の評価を行うことができ、このループを何度も回して設計をどんどん改良していくことで、目標の点数まで魅力指標値を上げていく、そんなことができるようになればいいなと思っています。

 

実際には、モデルを作るのは非常に大変です。さきほどのように精密なモデルを作ろうと思うと、ひとつひとつ測定して、作り込んでいくという作業が必要になります。このあたりも感性モデルのライブラリという形で提供できればと思っています。

 

 

感性統合化技術

 

全体想定フロー

図8(クリックで拡大)

さて、本日は図研のフォーラムということで、図研に再委託をしている回路設計部分について簡単にご紹介させていただきます。具体的には、感性モデリングによって定められた製品仕様を具体的な詳細設計環境へ落とし込んでいく「感性統合化技術」についてご紹介いたします。

 

図8が全体のフレームワーです。感性データベースや感性モデリングの話は、左側の紫色の枠です。感性に基づく要件定義では、製品の大きな構成が決まっても、個々の要素まで具体的に決めている訳ではありません。実際の電気系・回路系の要件へと設計目標を設定し、具体化していく必要があります。図研が開発している「System Planner」に情報を伝達し、設計目標を達成する部品や回路ブロックを検索、または新規部品の検討を行い、さらにその回路構成の実現性を検証した上で、その結果を詳細な電気設計まで結びつけていく環境の実現を目指したいと思っています。(図8の中央、青色の部分)

 

ここで、回路ブロック検索を利用した例を紹介します。例えば、新しいヘアドライヤー開発の際、髪の毛を乾かすだけでなく、魅力品質から「しっとりした髪にしたい」という要件があったとします。これに対応するヘアドライヤーの電気回路として「保湿機能回路」を実現する回路ブロックを回路ライブラリから検索します。期待する機能をもつ回路を回路ライブラリの中からキーワード検索し、保湿機能を持つ回路ブロックを探し出し、ブロック図に割り当てます。この際、詳細な回路テンプレートがインポートされますので、それを使ってより詳細な回路設計へ繋げていくことが出来るよう計画しています。

 

これが感性モデリングから実際の具体的な回路設計システムへと繋ぐ技術、すなわち「感性統合化」という技術開発分野です。

 

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