基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

13. 構想設計段階から熱設計を導入するには

株式会社ジィーサス

2011.09.29

私は個人的には熱設計の再現性は限りなく強度設計に近いと思っています。もちろん対流熱伝達で厳密な気体分子の挙動が把握できないなどの自然現象の再現性に課題はありますが、統計値で処理できる範囲だと思います。だから強度設計と同じように、最終的には試作評価を1回は行う必要があるが、それ以外は適切な計算やシミュレーションを行うことで十分対処できると思っています。ただ熱設計が他の技術課題と違うのが、ファンを付けるか付けないか、空冷か液冷か、というように対策が1か0かみたいにデジタル的な選択場面があり、選択によって外観や信頼性、価格等への影響が大きいことです。これがあるためにマージンに制限がかかるのと、そのマージンを左右する消費電力と熱抵抗が、設計が進まないと確定しないことです。

たとえば強度設計と同じ感覚なら、消費電力は部品の最大定格の積み上げでもいいと思います。逆に言えば、最大定格の積み上げで温度計算しても自然空冷で大丈夫という結果なら、大幅な部品追加がない限り自然空冷でOKという判断ができるはずです。また信頼性第一なら最初から許容温度上昇を低めに設定するはずで、普通なら自然空冷で可能な範囲だとしても、少しでも許容温度を超える可能性があるならファンを付ける、という判断をすると思います。

大事なのは判断のための目標とマージンを明確に決めることと、できるだけ正確な設計情報を集めることです。消費電力は部品最大定格の合計がMAXですが、過去に使ったことがある部品なら大体どのような動作をすればどれくらいの損失になるかは推定できると思います。過去の設計で得た情報を流用すれば、熱設計のマージンは少なくすることが可能なはずです。設計情報の蓄積については前回の最後のほうで詳しく書いたと思いますので、参照していただければ幸いです。

長く書いてしまいましたが、熱設計の難しさは目標温度をクリアするだけでなく「なるべくギリギリでクリアする」ことを求められることにあり、具体的には「ヒートシンクなしで行けるか?」「ファンなしで行けるか?」という冷却部材要否判断が必要なためなのが一因だと思います。ただしいきなり「このCPUにヒートシンクはいるか?ファンはいるか?」と言われても、判断するには消費電力と熱抵抗だけでなく、そのCPUの周囲温度や風速や、製品全体の消費電力などが必要です。その「全体を見て温度を予測する」とか「全体温度から部品温度を予測する」というような回りくどいやりかたも、やったことのない人には判りづらいのだと思います。互いに関連する要素の集まりをシステムといいますが、熱設計も実はシステムアプローチが必要だったりするのでわかりにくい印象を与えるのではないでしょうか? 「あれを決めるにはこれを決めて…」というような具合にシステムは順序立てて設計する必要がありますが、熱設計も設計順序があります。だから何をどの順番 で決めればよいか? がわかれば、案外熱設計は敷居が低くなるのではないかと考えています。

今回の話を整理すると、構想設計段階から熱設計を行うために必要な要素は


  • 熱設計の順序(プロセス)を理解する
  • 設計条件と設計目標、マージン等のルールを明確にする
  • できるだけ詳細な設計情報を集める



ということになります。もちろんそれ以前に、熱設計を行うためのスキルが必要なことは言うまでもありません。この「プロセス、ルール、データ、スキル」という要素は熱設計だけでなく、強度設計やEMC設計でも共通に必要な内容だと思いますので、製品設計環境ではぜひ整備しておいていただきたいと思います。(言われなくてもだいたい揃っていますよね?)



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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