基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

11. 熱対策の進め方2

株式会社ジィーサス

2011.06.16

…簡単です、吸気口の大きさでコントロールすればいいのです。吸気口の面積を変化させて流量をコントロールするのです。普通はファンの面積の半分程度の通風口を開けると、大抵は程よい負荷がファンにかかります。ただ最近の製品は中身が詰まっていることが多いので、吸気口より製品内部の負荷が大きい場合がよくあります。高密度製品の場合は空気がどこを流れるのか?とか、その経路上の負荷がどれくらいあるのか?などを詳細に検討する必要が出てきます。なお製品にファンを付けると、ふつうは筐体内部の発熱部品周囲の風速も大きくなるので、部品表面の熱伝達率も大きくなります。したがってファンの効能は換気だけでなく、部品周囲の熱伝達率向上にも寄与することになります。

一般にファンを使う場合はこの2つの効能の両狙いで検討するのですが、場合によってはそれぞれの効能を別のファンで実現する場合もあります。デスクトップ型パソコンでは、CPUのヒートシンクにファンがつき、筐体にもファンが複数ついていたりします。この場合CPUのヒートシンクに付いているファンはCPU表面の熱伝達向上のための専用のファンで、一方筺体についているファンは換気およびCPU以外の部品表面の熱伝達率を向上させるために使用されています。

またファンにもいろいろな形がありますね。普通よく見るファンは扇風機と同じようにプロペラがついているものですが、これは回転軸方向に風を起こすので「軸流ファン」と言っています。逆に風を遠心力で回転面方向に起こすファンを「遠心ファン」といいます。遠心ファンはそのままだと風が四方に飛散するだけなので、ケースで覆って出口を一つにしています。文字で書くと何のことだかさっぱりわからないと思いますが、ヘアードライヤーのような形のことです。th_110616_4.jpg

軸流ファンと遠心ファンの使い分けですが、一般に軸流ファンは風速を重視する場合、遠心ファンは風圧を重視する場合に使います。たとえば部品表面の熱伝達率向上を重視する場合は軸流ファンを、高密度で通風抵抗が大きそうな製品の換気には遠心ファンを使ったりします。ただ遠心ファンは無理やり空気を引き裂いて方向を変えて風を得るため、騒音もそれなりに大きいです。それに対して軸流ファンは比較的静かですが、それでも風切り音とモーター音が出てしまいます。オーディオ製品などのように特に騒音を気にする場合は、モーター回転子の重心バランスや軸受構造、プロペラの角度やねじり下げなどを調整した特注ファンを使う場合もあるようです。

「ねじり下げ」とはプロペラの角度が根元から先端に向かって徐々に変化させることです。なぜだかわかりますか?プロペラは根元も先端も同時に1周しますよね?当然根元より先端のほうが移動距離は多いので先端のほうが速くなります。一方で風を起こすためにはプロペラの角度を大きくすればいいのですが、大きいと抵抗も大きくなって音が大きくなりますよね?それではプロペラのどの部分も平均的に風を起こすにはどうすればいいかというと、プロペラ各部分のスピードに応じた角度にすればいいわけで、そのためプロペラは根元ほど角度が大きく、先端は角度が小さくなっています。飛行機のプロペラも同じですよ。

ちょっと脱線しましたが、熱伝達率向上のための具体策は理解できましたか?それでは次に放射熱伝達率の向上について考えてみます。

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放射熱伝達率の中身はステファン・ボルツマン定数σと放射率εとそれぞれの温度です。変化させることができるのは放射率とそれぞれの温度です。このうち温度のほうを見るとマイナスがありませんね。つまり放熱側、受熱側双方の温度が高ければ高いほど放射熱伝達率は大きくなります。あとは放射率ですが、これは前に書いたように0~1の間の数値です。たいして大きくないのですが、温度が高いときは放射率の大小が伝熱量に大きく影響することが判ると思います。

前に放射率を大きくするには表面をザラつかせればいい、と書きましたが、塗装するだけでもかなり違います。一般にコンシューマ製品はガルバリウム鋼板に表面だけ塗装して使う場合が多いですが、ガルバリウム鋼板もメッキ面に比べたら明らかに反射率が悪そうですよね?だから逆に放射率(吸収率)は大きいので、内部部品の熱放射を吸収するのに貢献してくれます。もっと積極的に放射率(吸収率)を高めたければ内面も塗装するとよいと思いますが、表面のようなきれいな仕上げは不要です。それでは基板も塗装すれば放射率はよくなるのでしょうか?でも基板はふつう塗装されていますよね?緑に。つまり一般的にパターン保護と絶縁のために基板表面にはレジストがかかっていますが、レジストの放射率は割と大きいので、特殊な場合を除き塗装は不要だと思います。基板温度をサーモグラフィーで測定する場合に黒体スプレーで真っ黒にしますが、手間がかかるし保守が難しくなるので、製品向きの処理ではないです。


2回にわたって熱対策の進め方というテーマで書きましたが、なんとなく対策の方向性をわかっていただけたでしょうか?製品設計で普通にやっていることが多いと思いますが、熱対策という切り口で見てもらうと、また違った工夫が見えてくると思います。製品設計ではこの「視点」を数多く持つことが大切だと思いますので、ぜひ皆さんの視点に「熱設計」という切り口を加えていただきたいと思います。



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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