☑基板と熱設計
7.熱の伝わり方(その2)
株式会社ジィーサス
2011.01.20
これまでの説明をまとめると、まず水分子はやかんの壁(固体)と接触している部分で熱伝導によりエネルギーを得て運動エネルギーとして保持し、そのため単位体積当たりの分子数が減ることで密度が減り、周囲より軽くなるため浮力を得て重力と反対方向(つまり上)へ動き、対流が生じることになります。対流することで周りの空気分子と混ざり、そのうち水分子間の温度差は小さくなりますが、水全体の温度は上がっていき、そのうちに沸騰して蒸気になります。
このプロセスは水のような液体だけでなく、気体でも同じです。液体と気体の違いは密度差が圧倒的に違うことですが、でも気体も分子が占めているので、ある瞬間には固体に接触していることになります。この瞬間に気体分子は固体からエネルギー(熱)を得て気体内に密度差ができ、浮力が生じます。
液体と違って気体は密度が低いので、逆に他の分子とぶつかる確率は小さくなりますが、それでもそのうち他の分子と衝突してエネルギーが分散されることになり、最終的には周囲の気体と同じ温度になりますが、気体全体としては温度が上がることになります。
ここで余談を一つ。温まった気体分子が周囲の冷たい気体分子と接触する機会を少なくすると温度差を持続することになるので、浮力が持続し流速が大きくなることが期待できます。これを応用したものが、みなさんご存知の煙突です。
煙突は温まった空気が周囲の冷たい空気と混ざらないようにすることで、浮力による流速を大きくし、その結果、燃焼物に常に酸素たっぷりの空気を供給することで燃焼を持続させる効果があります。最近はダイオキシン問題で焚き火をする機会が減ってしまいましたが、昔はよく一斗缶の底に穴をあけて煙突代わりにしましたね。この煙突の効果を、そのまま「煙突効果」と言って、自然空冷の場合の流速確保策として使う場合があります。
縦長の製品と横長の製品で、どっちが自然空冷でよく冷えるか、もうみなさんでもわかりますよね?また発熱体は製品筐体内で上に置いたほうがいいか下に置いたほうがいいかもわかりますよね?
対流による熱伝達の仕組みは、ある瞬間に、固体へ接触した流体の分子へ熱伝導により熱が伝わるからだと説明しましたが、それでは、水と空気ではどちらが熱伝達量が大きいでしょうか?
当然分子数が多い水のほうが熱伝達量は大きくなります。ということは、気体分子もある瞬間に固体に接触する分子数を増やせば熱伝達量が増えることになります。どうやればいいでしょうか?簡単です。強制的に気体を固体に当ててやればいいのです。みなさんも暑いときに団扇や扇風機で強制的に空気をみなさんの肌(固体)に当てているでしょ?このようにエネルギーを与えて気体を動かして固体を冷やす仕組みを「強制空冷」といいます。
さて、対流によって製品の熱が周囲空気へ伝えられる仕組みは理解できましたか?
みなさんが設計した製品が消費した電気エネルギーは、ほぼ100%大気へ熱として放散されますが、それによって確実に大気温度は上昇するはずです。そうなるともっと前に地球温暖化どころでなく灼熱地獄化していそうなのに、それほど地球大気の温度が上がっていないのはなぜでしょう?
それは宇宙に対流熱伝達しているからだ!と考えたあなた、宇宙には対流熱伝達したくても物質が無いのを忘れていませんか?宇宙だけでなく、空気が薄い高地でも熱伝達量は小さくなってしまいます。
ではどうやって地球大気は放熱しているのでしょうか?
次回はその辺を説明したいと思います。
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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。