基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

6.熱の伝わり方

株式会社ジィーサス

2010.12.16

はんだ付けを例にとった場合、はんだごての温度が低いと当然熱くないですよね?はんだ付けで熱いのは、はんだごての温度が高いからです。つまり温度が高いと、正確には自分の体温とはんだごての温度差が大きいと熱が伝わりやすいのです。th_101216_2.JPG言葉で書くとわかりにくいので、伝熱量をQ、固体の長さをL、断面積をA、はんだの熱伝導率をλ、はんだごての温度をT1、自分の体温をT2とすると、右式のような関係になります。これが熱伝導の基本式になりますが、今まで書いたように自分たちの経験からこの関係はすんなり理解できるのではないでしょうか?
th_101216_3.JPGこの熱伝導についてはよく水の流れのアナロジーで説明するのですが、たとえばある容器からパイプをつたって水を流す場合、その水量はパイプの太さと容器の高さに比例しますが、水の流れる勢いは容器の高さで決まり、流れやすさはパイプの太さで決まります。電気の流れも同じように考えると、電気の流れる勢いは電圧で決まり、流れやすさは電気抵抗が小さいと流れやすくなります。この場合電気抵抗は流れやすさの逆になりますが、電気の世界では抵抗の逆数をコンダクタンスと言うので、流れやすさはコンダクタンスに比例することになります。
熱の場合、水の場合、電気の場合で共通するのが、勢いを決めるパラメータと流れやすさを決めるパラメータがあることです。勢いを決めるパラメータのことを一般に「ポテンシャル」と言っています。坂でボールを転がす時に、坂が高いとボールの勢いが大きくなりますが、これを位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)が大きいと言うのと同じことです。これに対し流れる量を決めるのがコンダクタンス、またはその逆の抵抗になります。熱伝導の場合のポテンシャルは温度差で、コンダクタンスに相当するのが「(面積×熱伝導率)/長さ」の部分です。コンダクタンスの逆数を抵抗と言いますが、熱伝導の場合も「長さ/(面積×熱伝導率)」のことを「熱抵抗」と呼びます。半導体部品の仕様書などに記載されているあの「熱抵抗」とは、熱の流れる量を制御する数値なのです。熱抵抗をRとして熱伝導の式を書きなおすと下のようになります。th_101216_4.JPG流量はポテンシャルに比例し抵抗に反比例するのです。これは電気のオームの法則と全く同じで、電流が電圧に比例し、抵抗に反比例するのと一緒です。熱抵抗というパラメータを理解すると、電気回路と同じように計算することが可能になるのです。熱抵抗は電気抵抗と同じように合成抵抗の直列則と並列則が成り立つので、熱の流れるルートの熱抵抗が分かれば、それぞれの位置での温度が計算できることになります。このような熱抵抗の回路を熱回路網と呼び、製品各部の温度計算に使うことができます。

熱伝導の場合の熱抵抗は断面積と距離と熱伝導率で構成されていますが、物理的条件、つまり断面積と距離が変更できない場合は、熱伝導率を大きくすることで熱抵抗を小さくすることができます。このために熱を伝えたいところには熱伝導率の大きな材料、たとえば非金属より金属を、金属でも鉄よりアルミや銅を使うことになります。ただエレクトロニクス製品は電気を扱うので、熱は伝えたいが電気は伝えたくない、というような相反する機能要求が出てきます。
このように製品設計では相反する技術要件を同時に満たす必要が各所で発生するので、そのバランスを取るのが「設計」という行為になるのです。基板設計においてもこの見えない技術要求のバランスが重要で、たとえば「サーマルランド」ははんだ付け時に銅ベタに熱が逃げないようにするための設計手法ですが、部品の放熱を考えた場合は逆効果になります。このバランスをどう取るのかが重要であって、逆に見れば熱設計は製造条件にも影響するのです。

熱伝導の話から製造への影響まで脱線しましたが、熱設計の重要性を少しは感じていただけたでしょうか?次回は対流熱伝達について説明しようと思います。


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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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